脳や心臓の病気を発症した労働者が労働災害としての補償を申請した場合、労働基準監督署は、その申請を認めるかどうかについて、厚生労働省の定める認定基準に基づいて判断します。この認定基準では残業時間がどの程度であったかが重要視されますが、終業から次の始業までのインターバル時間が11時間以上あったかどうか、休日のない連続勤務がなかったかどうかといった事情も、新しく認定基準に加える方向で検討されています。
ところで、この残業時間がどの程度あったかについては、現在の認定基準では、原則として病気の発症から遡って6ヶ月間を検討することになっています。では、病気の発症から半年以上前に残業時間が多かったとしても、労災とは認定されないのでしょうか。
この点を争っていた事件を担当していた当事務所OBの吉田聡弁護士と齋田求弁護士に、途中から弁護団に加えていただいたことがありました。この件の被災者の病気であったくも膜下出血について医学文献を調査したり、専門医からお話をうかがうなどして、疲労の蓄積は休息により回復しても、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤の増悪の結果は回復しないという弁護団の主張を東京地裁が認め、労災と認める判決を勝ち取りました。今から10年ほど前、2011年春のことでした。
残念ながら、その後の東京高裁、最高裁でこの東京地裁の判断は覆され、6ヶ月間の残業時間を重視するという認定基準が変更されることもありませんでした。しかし、認定基準は不変なものではなく、適切な労災認定のために、これまでも度々変更されてきましたし、現在も見直しが進められていることは冒頭の通りです。
現在の認定基準からははずれるものではあっても、労災認定されるべきケースについては、今後も工夫をしながら取り組んでいきたいと思います。
(事務所ニュース・2021年夏号掲載)