医療ミスかもしれないと思ったら
医師の知識不足や病院の体制の問題など様々な要因が指摘されていますが、残念なことに、病院や医師の不注意による医療事故は後を絶たちません。裁判になるケースは、1970年には年間約100件であったのが最近では年間800件から900件程度にまで増加しています。
不幸にも医療事故にあったとき、どんなことに注意したらいいでしょうか。
メモや記録を残しておくこと
医師の診療を受けるまでの容態の変化、診療時の医師の説明内容、検査や治療の内容、その後の症状の変化、事故発生時の状況などについて、日時の順番で、できる限り詳しく書き留めておいてください。
医師から説明を受ける際の注意
事故が起きた後、医師から説明を受ける際には、冷静に、話を聞いてください。治療の内容や容態の変化等について、メモや録音をとりながらよく話を聞いてください。専門的な話でありメモをとるのも大変なので、1人ではなく複数で話を聞いた方がよいでしょう。感情的になれば、医師から十分な説明を引き出せなかったり、カルテ等の改ざんを誘発する危険もあります。
解剖について
解剖には、病理解剖と司法解剖の2種類があります。
病理解剖は、病気で亡くなった人を対象に、死因、病気の種類、臨床診断の妥当性、治療効果などを解明するために行う解剖のことです。司法解剖は、犯罪に関係があるか、その疑いがある場合に、死因・死後経過時間などを明らかにするために行う解剖のことです。医療事故の場合には、死因等を調べるために行われるのは通常は病理解剖ですが、遺族が告訴した場合など司法解剖が行われる場合もあります。
裁判になったケースの中には、解剖が行われなかったために死因が不明で遺族の請求が認められなかったものがあります。大切な人を亡くして間もないときに解剖することには抵抗をもたれると思いますが、本当の死因が不明になってしまわないように、できるだけ解剖はしておいた方がよいと思います。
弁護士に相談
医療事件は専門性が高い分野であり、重要となるカルテ等の証拠が改ざんされてしまう恐れもありますので、医療ミスかもしれないと思ったら、早めに専門家である弁護士に相談してみてください。
証拠保全とは
医療事故の場合、医師が作成するカルテ、諸検査結果、看護記録などの資料が、非常に重要な証拠となります。ところが、時には、カルテ等は書き変えられてしまったり、隠されてしまう可能性があるので、そうならないように、裁判に先立って、証拠を確保しておく必要があります。そのための手続が証拠保全です。
証拠保全を行うには、裁判所に申立てをし、証拠保全を行う旨の決定を出してもらう必要があります。証拠保全決定が出されると、裁判官、申立代理人弁護士、カルテ等の撮影を行うカメラマンが医療機関まで出向いて撮影等を行うことになります。カルテ等の書き替えなどを防止するため、証拠保全を実施する直前に、医療機関には知らされることになります。
医療事故問題の相談とその後の流れ
医療事故が発生してからの流れをご説明します。
- 弁護士に相談
医療ミスかもしれないと思ったら、医療事故の専門性やカルテ等の書き変えのおそれなどもありますので、早めに弁護士に相談するのがよいと思います。 - 事故内容等の検討
相談者の方と弁護士との間で、作成されたメモや医学文献などを参考に、医療事故に至るまでの経過、事故発生後の状況、医師の説明内容などの事実経過を確認し、医療ミスの可能性、証拠保全の必要性などを検討します。
医療ミスの可能性や証拠保全にかかる費用等の諸事情を踏まえながら、相談者の方と弁護士との間で協議をしながら、方針を決めます。 - 証拠保全
必要に応じ、裁判所に証拠保全の申立てをし、関係者の日程を調整した上で、証拠保全を実施します。 - 証拠の検討
保全したカルテ等の内容を検討します。カルテはドイツ語や英語で書かれているので、検討の前提として多くの場合、カルテの翻訳が必要になります。 - 方針決定→交渉、裁判等
医療機関にミス(過失)があったと言えるか、その立証の可能性などを考え、医療機関との直接交渉、民事調停、裁判といったアクションを起こしていくことになります。どのようなアクションを起こすかはケースバイケースです。まずは直接交渉をし、交渉が決裂した場合には裁判を起こすという流れになることが比較的多いといえますが、いずれにせよ、依頼者と弁護士との間の協議により決定します。
時効とは
医師のミスによって医療事故が発生したとしても、時効が成立すると、損害賠償の請求ができなくなってしまいます。3年(不法行為責任)または10年(債務不履行責任)の時効制度がありますので、詳しくは弁護士に相談してください。
医療事故に関する裁判の状況
医療事故に関する裁判の件数(新受件数)は、1970年に102件、1980年に310件、1990年に364件、2000年に794件と年々増加し、2004年には1110件にまで増加しましたが、その後、やや減少し、2010年には794件と、ここ数年は800~900件前後で推移しています。裁判の平均審理期間は、以前は3年近くかかっていましたが、最近では約2年にまで短縮されてきています。
裁判の途中で、話合いが行われ「和解」という形で終わる事件が全体の53%、「判決」にまで至る事件が全体の35%です(2010年)。和解で終わらず判決に至った場合に、原告側の請求が認められる割合(認容率。一部認容を含む。)は、2001年~2007年は35~44%、2008年~2010年は20~27%です。
患者の権利
患者の権利の確立とその法制化が重要です。