労災認定基準(弁護士 佐渡島 啓)

ここしばらく,常に一〇件前後の労災関連事件を担当しています。
作業場で労働者が事故に遭ったケースなどは,労災認定を受けることに問題はなく,あとは労災保険では支給されない慰謝料などを勤務先に請求します。

しかし,過労死など過労によって脳心臓疾患を発症させたり,精神疾患を発症させたりした場合には,そもそもそれが労災といえるのか,その判断は容易ではありません。

この判断の指針となる基準が厚労省の通達で出されています。
脳心臓疾患に関して言えば,昭和三六年通達では,発症直前(少なくとも発症当日)に過激な業務に従事していなければ労災にあたらないとされていましたが,徐々にこの考え方が改められ,平成一三年通達では,「発症前の長期間(六カ月)にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと」も含むと改訂され,過労で倒れた事案も労災として認められるケースが増えてきました。

精神疾患についても,昨年一二月に新たな通達が出されました。精神疾患を発症する際には,心理的負荷となる出来事が職場で複数発生していることも多くありますが(パワハラ,異動,仕事上の失敗など),従前の認定基準では,これらの出来事の心理的負荷の強度を弱中強の三段階でそれぞれ評価し,一つも強となるものがなければ原則として労災とは認めませんでした。

しかし,今回の通達により,例えば,中と評価する出来事が複数あれば,その結果全体を強と評価して労災認定を可能とするなどの改訂がおこなわれました。

このように,医学的知見の進歩や裁判例の蓄積により,労災認定基準も徐々に拡大されています。
不幸にして労災が疑われる事案に遭遇した際には,ぜひご相談ください。

弁護士 佐渡島 啓

image_printこのページを印刷
シェアをお願いいたします。
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次