朝日新聞2008年7月28日夕刊掲載「働く人の法律相談」-退職金-(弁護士 佐渡島 啓)

弁護士 佐渡島 啓

 仕事でミスがあった従業員の退職金を、雇い主が減額することはできるのでしょうか。取引先からの未回収金の責任を問われ、退職金を減らされたという読者から質問がありました。

 結論から言うと、退職金の減額は基本的にできません。賃金は全額、本人に支払われるよう労働基準法で義務づけられています。退職金は、就業規則などで支給することやその支給基準が決められていれば、雇い主に支払い義務が生じます。この場合は賃金と認められ、会社は全額、本人に支払わなければならないのです。ただし、損害額との相殺を従業員が了承すれば、減額も認められます。事態によっては、懲戒解雇により、退職金が全額ないし一部支給になることもあります。

 他方、ミスをしたことで雇い主から損害賠償請求されることはあり得ます。といっても、横領や窃盗など故意に損害を出したのではない限り、全額賠償はまれです。レジでの釣り銭の間違いなど、程度の軽い過失であれば、そもそも賠償請求の対象にはなりません。冒頭のご質問の場合も、回収不可能なのを知りながらあえて取引を続けたといったような事情がなければ、別の従業員でも起こりえた事態だったとも言え、やはり賠償の対象にはならないでしょう。

 過失の度合いが重ければ、損害を雇い主と分担することになります。分担割合は、過失の程度や雇い主の管理体制などから判断されます。雇い主が、ミス防止のための教育や従業員への日ごろのチェックを欠くなどしていた場合には、従業員が負担する賠償額も制限されます。

 過去には、宝石類の卸売会社社員が、顧客の店で営業中に、商品が入ったかばんを盗まれ、会社から賠償請求をされた例があります。社員が、他人の手が届くような場所にかばんを置いて、4メートル以上も離れた所でかばんから目を離していたのは、基本的な義務違反で、その過失の程度は重いとされました。他方で、被害は第三者の盗みによるもので、会社も宝石類について盗難保険に入っていなかった、などの事情を考慮して、賠償額は損害額の半分にとどめられました。

●ここがツボ●

・本人の了承なければ基本的には出来ない
・懲戒解雇なら全額、一部の不支給もあり
・退職金とは別に損害賠償請求されることも

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