朝日新聞2009年7月27日夕刊掲載「働く人の法律相談」-年俸制と残業代-(弁護士 佐渡島 啓)

弁護士 佐渡島 啓

化粧品販売会社の正社員です。数年前に年俸制で雇用契約を結び、「残業代なし」と言われました。ところが最近、会社は「年俸は月40時間の残業代を含んでいる。それを超す分を今後は支払う」と説明してきました。どういうことでしょうか。また、これまでの残業代は取り返せますか?

 東京都の女性から、質問をいただきました。年俸制を採り入れる企業が増えています。幹部に限らず一般社員にも適用する会社が少なくありませんが、「年俸制だから残業代は払わなくて良い」という誤解も生じています。会社側が知っていて、ごまかしているケースもあるようです。

 しかし、これは法律違反です。労働基準法37条は「1日8時間・週40時間以上の時間外労働に対しては、通常賃金の25%以上にあたる割増賃金を支払わなければならない」と定めています。年俸制も例外ではありません。

 最初から年俸額に残業代を含めることはできます。その場合、何時間分の残業代を含むのかを、会社は書面で明確にしなければなりません。そして、社員の勤務時間を把握し、実際の残業時間を計算して年俸額に含まれる残業時間を上回る場合は、超過した分を支給しなければなりません。

 質問の女性の会社は、「40時間の残業を上回る分を支給する」と説明したそうですから、当初よりも労基法の趣旨を踏まえた制度になったようです。

 残業代の計算で気をつけたい点がもうひとつ。年俸額を16カ月で割り、通常月は16分の1、年2回は夏冬賞与として16分の2ずつ上乗せして支払う例がよくありますが、残業代算定の起訴賃金は年俸額の12分の1と決まっています。

 残業代は、過去2年分にさかのぼって請求できます。その場合、残業したことを証明できる資料が必要です。タイムカードやIDカード、当時の手帳、メール送信記録、資料作成記録などを可能な範囲でそろえてください。

 労働基準監督署への相談もよいですが、素早い解決を求める場合、弁護士にご相談を。残業時間を完全には証明できなくても、一定の残業代を認める裁判例も出ています。労働審判制度を使い、3カ月程度で解決する事例も多くなりました。

●ここがツボ●

・年俸制であっても「残業代なし」は労働基準法違反
・残業代を計算する際の月額賃金は「年俸の12分の1」
・請求できる残業代は過去2年分。証明できる書類を

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