【コラム】「別れを告げない」著者・ハン・ガンさん、翻訳者・斎藤真理子さん(弁護士 伊須慎一郎)

ノーベル文学賞受賞作「別れを告げない」

恥ずかしながら、9月に翻訳者斎藤真理子さんとハン・ガンさんのことを知り、10月にハン・ガンさんがノーベル文学賞を受賞した。権威に弱いと思われそうであるが、そうではなく、ハン・ガンさんの受賞後の言葉を聞いて「別れを告げない」を読もうと考えた。

同胞を大量に殺害した済州島四・三事件(1948年)、事件を隠し続けた大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国、反共の砦として利用したアメリカ政府などの歴史上の事実を散りばめながら、究極の愛について書かれた小説。読み進めると痛みを感じますが、是非、みなさんにも、読んで歴史を学び、ハン・ガンさんの考える究極の愛について考えて欲しいです。

斎藤さんの訳者あとがきにも、「アカ」「暴徒」のレッテルを晴らすために、朝鮮戦争に志願した若者も多かったことなど、共産主義者(一方的にそう疑われた者も含め)が徹底的に弾圧・利用された歴史、済州島で殺され、海に捨てられた遺体が対馬に流れ着いたという「水葬」の話し、日本政府が日本国籍を持つ在日コリアンの国籍を奪った事実なども刻まれており、あらためて歴史を知ることは大事だと考えた。

日本はどうだろうか。1949年以降、日本政府は、日本を反共政策の砦とするアメリカの政策を利用し、公職者だけでなく、民間企業でも1万人を超える解雇者を出した。日弁連埼玉弁護士会などは、日本政府に対し、レッドパージされた労働者に対する補償・名誉回復措置を求める勧告を出した。  70年以上経過した現在、イタリア、ドイツなどと異なり、日本政府・最高裁判所は、思想良心の自由を蹂躙されたレッドパージ被害者の救済を放置し続けている。日本が真に自由な民主国家であろうとすれば、どれほど時間がかかっても、被害者救済は避けて通ることはできない。

弁護士 伊須 慎一郎

(事務所ニュース・2025年新年号掲載)

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