朝日新聞2009年7月13日夕刊掲載「働く人の法律相談」-待機時間-(弁護士 佐渡島 啓)

弁護士 佐渡島 啓

 仕事中の「待機時間」は、休憩?それとも労働?観光バスの運転手など待機時間の長い職業の人にとって、待機時間の扱いは重要な問題です。

 労働弁護団の弁護士や各地の労働組合のもとには、「休憩と労働時間の境界があいまいで、会社がきちんと賃金を支払わない」といった相談が寄せられます。どこまでが賃金が支払われる対象になるのでしょうか。

 労働時間とは「使用者の指揮命令下で労働力を提供した時間」を指します。必要が生じれば直ちに対応する事が義務づけられている待機時間や、作業の準備・後処理を行う時間も実労働時間とされます。労働義務からどれほど解放されているか、場所的・時間的な拘束がどの程度あるか。「休憩時間」との違いはそこです。

 1982年に観光バス会社の従業員らが、時間外労働賃金の支払いを会社に求めた裁判で勝訴しました。乗客が観光見物している間の待機時間について、会社側は「休憩時間だ」と主張しましたが、裁判所は「労働時間である」と認定し、賃金の支払いを命じました。

 その理由はこうです。運転手は待機時間中にも車輌の清掃や点検、駐車場の整理に伴う車輌の移動、途中で戻って来た客への対応など運転以外の作業があります。加えて、運行スケジュールの変更に対応する準備などをして、出発に備える必要もある、という判断です。

 必ずしも肉体的には労働をしているように見えなくても、使用者の指揮命令下にある待機時間について、会社は賃金を支払う義務があるのです。

 運送会社で荷物を積むトラックの到着を待つ従業員、昼休み中も安全面の問題から現金輸送車から離れられない運転手、商店で客を待つ店員など、必要が生じればすぐに労働に入る事が求まられている職業に共通します。

 あなたの仕事の待機時間はどうですか?疑問を感じたら、仕事時間や作業内容をメモし、労働組合や弁護士にご相談ください。会社との話し合いで解決しない場合は、労働審判の申し立てなどで賃金の支払いを要求することも選択肢に入れてはどうでしょうか。

●ここがツボ●

・会社の指揮命令下で働いている状態が「労働時間」
・休憩時間との違いは、場所的・時間的な拘束の程度
・疑問があれば、待機した時間や内容を記録し相談を

image_printこのページを印刷
シェアをお願いいたします。
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次