朝日新聞2009年12月7日夕刊掲載「働く人の法律相談」/-パワハラと労災認定-(弁護士 佐渡島 啓)

弁護士 佐渡島 啓

精神疾患を発症したら認められる?

 ちょっとした仕事上のミスで上司からひどい叱責を受け続け、体調がすぐれないため病院で受診したらうつ病だと診断された。この場合、パワハラによるものとして労災になるのでしょうか。

 近年、上司のパワハラによる精神疾患の発症が、労災にあたると認めた裁判は次のようなケースです。

 直属の上司が部下に対し「存在が目障りだ。居るだけでみんなが迷惑している」「おまえのカミさんも気がしれん。お願いだから消えてくれ」「おまえは会社を食いものにしている。給料泥棒」などと発言。人格や存在を否定するような過度に厳しい発言内容などが、客観的にみて精神疾患を発症させるほど非常に大きな心理的負荷になったとしました。

 上司が主任に昇格した者に対し、能力不足であることを明記した文章を書かせ、「主任失格」という文言を使って叱責した事例もあります。本人はとりわけ家族を大切にしていたようですが、結婚指輪をしていることが仕事の集中力を低下させるとして、この本人だけに繰り返し指輪を外すように命じていました。こうした上司による一連の行為をパワハラだとし、月に90時間前後の時間外勤務だったこともあわせ、労災にあたると認められました。

 今年4月には、厚生労働省が10年ぶりに精神疾患の労災認定基準を見直しました。パワハラに相当する出来事が、古い基準に比べてストレスの度合いが強いとされたのです。前述したほどの厳しいケースでなくとも、労災と認められることは充分にあり得ます。

 また、パワハラを受けた場合には労災だけでなく裁判や交渉で、損害賠償を会社やパワハラをした上司本人に請求することもできます。例えば、達成困難なノルマを上司から課せられ、毎朝の報告で明らかに落ち込んだ様子を見せるまで叱責されたり、社内の業績検討会で「会社を辞めれば済むと思っているかもしれないが、辞めても楽にならない」などと責められたりした場合です。

 ただし、上司らのある程度の厳しい改善指導は、正当な業務の範囲内にあたるとした判例もあります。職場で指摘しづらい場合は、弁護士など専門家に相談してください。

●ここがツボ●

・発言が客観的にみて大きな心理的負荷になれば認定も
・基準見直しで精神疾患が労災と認められやすい方向に
・パワハラをした上司に損害賠償を求めることもできる

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