朝日新聞2011年6月27日夕刊掲載「働く人の法律相談」/-再雇用「能力不足」と拒否された-(弁護士 佐渡島 啓)

弁護士 佐渡島 啓

「勤務評定下位」だけが理由なら不当

 60歳の定年を迎え、65歳までの再雇用を会社に求めたところ、拒否された。就業規則では、再雇用の条件は「通常勤務できる意欲と能力がある者」となっている。意欲も能力もあるつもりだが、会社からは一方的に「能力不足」と言われ、納得がいかない―。男性会社員からの相談です。

 2006年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法(高齢法)は、すべての会社に段階的に65歳まで雇用を継続する措置を義務づけました。多くの会社では、定年に達した社員をいったん退職させ、給与など処遇を見直したうえで雇用契約を結び直す「再雇用制度」を導入していますが、相談者のように拒まれる事例も増えているようです。

 事業主には原則として、「採用の自由」が認められています。しかし、高齢法の目的は、公的年金の受給開始年齢の引き上げに伴う「高齢者の安定雇用の確保」です。その趣旨に沿えば、誰を再雇用するかという基準は恣意(しい)的であってはなりませんし、ハードルを上げすぎて該当者がほとんどいないという事態も避けるべきです。

 そのため、再雇用拒否の無効を争った最近の裁判では、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上も相当と認められない場合、解雇は無効である」という解雇権の濫用を禁じる法理を類推適用し、拒否が許されるかどうかを判断した判例が複数出ています。

 今回の事例では、通常勤務できる能力を有するかどうかが再雇用の条件ということですが、例えば勤務評定が下位だからというだけでは再雇用を拒む理由として不十分でしょう。能力不足と判断した人が社内でどんな立場にいるのか、公平性が担保されているのか、といった点も重要です。

 再雇用後は1年ごとに期間雇用を更新する場合が多いようですが、65歳に達する前に雇い止めされて争った裁判でも、やはり解雇権の濫用法理が類推適用され無効とされました。再雇用後の賃金を意図的に低く抑え、労働者の再雇用の希望をくじくようなやり方も許されません。再雇用の拒否は限定的であるべきです。

image_printこのページを印刷
シェアをお願いいたします。
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次