原爆症の裁判(弁護士 牧野 丘)

弁護士 牧野 丘

 この春、さいたま地裁で、国を相手取った原爆症不認定決定取消訴訟が起こされました。

 原爆症とは、広島長崎に落とされた原爆の影響による症状を言います。原爆投下から60年たった今もこの症状を抱えて場合によっては死の恐怖に苛まれ続けている人たちがいるのです。国に原爆症を認定されると一定の給付を受けることができます。

 原告の夫(被爆された方は昨年死亡され、その奥様が原告)は、広島被爆当時は近郊に疎開しており、3日後に荒れ野原と化した市内に自身の学校を訪ねました。強い日差の中、少年は爆心地付近を歩き、喉の渇きを癒すために水を大量に飲みました。その後ほどなく、放射能による体内被曝と思われる急性症状に見舞われ、亡くなるまで様々な症状に苦しみ続けました。にも関わらず彼は、自分が被爆者であることを家族にすら隠し続け、昵懇の医師には症状を見せることすらしませんでした。元々はたいへん威勢のよい方だったとのこと、被爆は、彼の人生を間違いなく変えたのです。長年にわたる病気と死の恐怖、加えて家族に迷惑がかかると思いそれをひた隠しにする辛さ。晩年の彼は家族で広島の原爆資料館を訪ねました。その時奥様は、建物の片隅で人目につかぬように泣き崩れている夫を発見して驚きました。

 爆弾による戦争被害も確かに残虐です。しかし、核の被害は直爆による被害だけではない、人道に対する犯罪であることを実感させてくれます。核兵器は、やはり人類に対する挑戦だと感じざるをえません。政治的な思惑とは別に、政府にはこの事実に真正面から向き合ってもらいたいのです。

 県内の若手の弁護士を中心にした弁護団(7名)の一員として加わっています。

image_printこのページを印刷
シェアをお願いいたします。
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次