夢は夜ひらく

コロナの感染拡大に伴う休業や失業等により生活に困窮する人が急増している。私たちは、全国の法律家、労働組合等と連携して全国一斉「コロナ災害を乗り越える いのちと暮らしを守る何でも電話相談会」を実施してきている。相談は、様々な仕事で働く人から寄せられ、居酒屋、キャバクラ、スナックなど、夜働く人からの相談も多い。

テレビでは、経産大臣や都知事が「夜の街」の感染が拡大していると盛んに繰り返している。「夜の街」。この言葉には人間が見えない。本当は、朝早くに仕入れをし仕込みをして暗くなると赤提灯を灯すオジサンだったり、子どもに惨めな思いをさせたくないとダブルワークで必死に働き店に出るシングルマザーだったり、ブラック企業で搾取され借金を抱えてようやくソープランドの仕事にたどり着いて収入が安定した青年だったり、潰れそうな店を長年やりくりして酔っ払いに愛されるバーのママだったり。そういう1人ひとりの小さいけれど大切な人間の顔や生を見えなくする無機質な言葉だ。一括りにして人々から想像力を奪い、自分とは違うと思わせる言葉。分断を生み、切り捨てる道具となる言葉。

先日、NHK・BS「”はぐれ者”たちの新宿歌舞伎町」を観た。学生運動の後。新宿で踏みつけられてもはい上がって45年間麻雀店を営んできた女性店主のドキュメンタリー。新宿御苑を歩き、いつもの場所で足を止める。「この生き物のオアシスは、人と自然の力のバランスでできあがっている環境で、採集などの影響により、たちまちに復元能力がうまく働かなくなる」と書かれている。読みながら、たちまち崩れて変化してしまうのは、人の街も同じだと語る。「新宿っていうのはさ。どっかの街で負けてきてそれで新宿に来て、そしてなんかそこで生きる希望をね、見出して、そして生きたっていう、そういう人たちが、私もそうかもしれないけど、そういう人たちがすごく多いのね。」「大きな力によって、こういう隙間で生きなきゃいけない人たちやなんかを追い出してはいないんだろうけど、そのような方向に来ているわけよね。」「どうかね、一種類の優等生のピカピカな街にならないで多様性をもったものを大事にして、そして、片隅でしか生きられない、隙間でなきゃ生きられない人たちに必ず光を当てて、そしてこの連鎖によってね、そうじゃなきゃ、新宿の街っていうのは成り立たないんですよ。」。

コロナ禍は、「経済」に偏り、人間と自然のバランスを壊してきた私たちへの問いかけだと思う。「夜の街」と言うなら、街に生きる1人ひとりの人に光を当てて、知恵を絞り、力を尽くし、自分の命と同じように、多様な命を支えるべきだ。そうでなければ、夜の街から昼間の街へ、「コロナで死ぬことより、いかに毎日を生き抜くか」を考えるほかない人から、ソファでティーカップを手にする者の足元へと感染は広がっていく。連鎖の中で、利己的でも、自己責任でも生きられない社会で、「人間の街」をどう成り立たせるか、今、この社会に生きる人間の真価が問われている。「コロナ災害を乗り越える いのちと暮らしを守る何でも電話相談会」(フリーダイヤル0120-157-930)は、8月8日(土)、10月10日(土)10時から22時まで実施します。お困りのこと、是非、ご相談ください。

(弁護士 猪 股  正

【関連動画等】
圭子の夢は夜ひらく/藤圭子 – YouTube
三上寛 夢は夜ひらく – YouTube

 

(事務所ニュース・2020夏号掲載)

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