それぞれの持ち場で(2018年新年代表あいさつ 弁護士 猪股 正)

弁護士 猪股 正

 先日、20代の2人の女性にインタビューをしました。「どうやって自分を守っていくかに必死で、段々、生活が追い詰められていく感じ」「周りにいるのは30歳になったら死にたいという人たち。病気や働けなくなることを身近に感じている。将来のことを考えると死にたくなるので考えない」「『オリンピッックが終わった後の就職だから最悪だね』という話が出たり」「お金がないと生きられない時代。いったい何のために生きているのかわからない、夢を持てない社会」

 日本の自殺率は国際比較で6位(女性は3位)と高く、特に、若年層ほど深刻で、15歳から34歳までの死因のトップは自殺です。自己責任、不安定な働き方、学費の高騰と奨学金、支えない社会保障。激しい競争に曝され、格差と貧困が固定化し、生まれで一生が決まっていく理不尽な社会。

 しかし、彼女たちは、こうも言っていました。「私みたいな人はどんどんこの社会に生まれ続けている。見て見ぬふりをするのは考えにくい」「ギリギリのラインで働いている人は声も上げられない」「苦しんでいる人がいることを知っているにもかかわらず動かない。そういう人間にはなりたくない」。ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロは、巨大な不平等の増大が許されてしまっており、分断が深刻化し、ナショナリズムや差別が再び台頭し、埋葬された怪物が目を覚ましつつあると社会の危機を警告しつつ、文学という持ち場が持つ力について述べ、私たち自身の小さな持ち場で努力し、最善を尽くす必要があり、私たちを鼓舞し導く若い世代に期待すると述べています。

 今年の日弁連人権擁護大会のテーマの1つは、若者の生きづらさです。文学にも若者にも力があり、法律家には法律家の力があると思います。私たち自身の小さな持ち場で、耳を澄まし、分断の壁が打ち壊されることを信じ、所員一同、努力を続けていく決意です。今年もよろしくお願い申し上げます。

<関連記事・資料>
「若者たちに何が起こっているのか」(中西新太郎著 花伝社)
「高卒女子の12年」(杉田真衣著 大月書店)
OECD自殺率データ
エキタス
「良い作品が分断の壁壊す イシグロ氏ノーベル賞講演」(2017年12月9日東京新聞)
「カズオ・イシグロ氏 単独インタビュー全文」(2017年12月10日NHK)
日弁連人権擁護大会について

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