ある行政訴訟

 

私と南木弁護士が取り組んだ厚労省相手の訴訟。かなり長期の訴訟でしたが、勝訴しました。依頼者は重篤なうつ病。うつ病の場合にも、重い場合には国民年金の障害年金の支給を受けることができます。この方はご夫婦で収入もままならない中、夫婦で支え合って生きてきました。

 ある時市役所の係の人からこの制度があることを知り、申請をしました。この制度では、申請した日以降の年金だけでなく、初診日から1年半経過した日以降の分も受けられます。すなわち、申請した日から過去にさかのぼって受給できるのです。
この制度は、憲法に定められた社会保障の制度のひとつとして位置づけられています。そうなれば、申請する人の立場に立って審査して欲しいところですが、申請日以降の支給は認められたものの、申請日からさかのぼって支給することは拒否されてしまいました。その原因は、主治医意見書に書かれた、かつての主治医の医師の不用意な記載でした。しかし、その記載があっても全体を通じてみれば、以前から重症だったことの予想は成り立つのに、お役所はその元主治医の僅かな記載を根拠に慎重な調査など一切することなく、拒絶しました。

訴訟では、依頼者さんの病状について医学的な証明を重ねると共に、あたかも間違い探しのように申請者の不利な所を探し回り、ひとつでも見つけると特に調査も行うことなく切り捨てる国の姿勢を厳しく批判をしました。

長期にわたった訴訟でしたが、裁判所は基本的にこちらの主張を受け容れ、法廷でのご本人たちの証言を丁寧に聞き遂げてくれて、この度、勝訴判決を得ることができた次第です。その後、国側も控訴することなく確定しました。

 社会保障の制度であってもこれを運用する人次第で社会保障の役割を果たすかどうかは変わります。人間の想像力や感性が問われた訴訟でした。

 

弁護士 牧野 丘

 

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