貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議(日弁連人権擁護大会)

昨年10月に富山で開催された第51回日弁連人権大会では、当事務所の猪股正弁護士が第3分科会「ワーキングプア」の事務局長として大いに奮闘しました。同分科会で満場一致で採択された決議文を掲載いたします。

 働いても人間らしい生活を営むに足る収入を得られないワーキングプアが急増している。年収200万円以下で働く民間企業の労働者は1000万人を超えた。

 ワーキングプア拡大の主たる要因は、構造改革政策の下で、労働分野の規制緩和が推進され、加えて元々脆弱な社会保障制度の下で社会保障費の抑制が進められたことにある。

 労働分野では、規制緩和が繰り返され、経費節減のため雇用の調整弁として非正規雇用への置換えが急激に進められた結果、非正規労働者は今や1890万人に及び全雇用労働者の35.5%と過去最高に達した。それとともに、偽装請負、残業代未払い等の違法状態が蔓延し、不安定就労と低賃金労働が広がり、若者を中心に、特に教育訓練の機会のない労働者が貧困に固定化され、正規労働者においても賃金水準が低下し長時間労働が拡大するという構造が生まれている。人々の暮らしを支えるべき社会保障制度も、自己負担増と給付削減が続く中で十分に機能していない。そのため、いったん収入の低下や失業が生じると社会保障制度によっても救済されず、蓄え、家族、住まい、健康等を次々と喪失し、貧困が世代を超えて拡大再生産されるという「貧困の連鎖」の構造が作られている。

 しかし、このような労働と貧困の現状は、本来人々が生まれながらにして享有している人権を侵害するものであり、もはや看過できる状況ではない。

 そもそも、個人の尊厳原理に立脚し、幸福追求権について最大の尊重を求めている憲法13条、法の下の平等を定める憲法14条、勤労の権利を保障する憲法27条等に照らせば、すべての人に、公正かつ良好な労働条件を享受しつつ人間らしく働く権利が保障されているというべきであり、憲法25条が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利としての生存権を保障していることを合わせ考慮すれば、国及び地方自治体には、貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の人間らしく働き、かつ生活する権利を実現する責務がある。

 そこで、当連合会は、人間らしい労働と生活を実現するため、国・地方自治体・使用者らに対し、以下の諸方策を実施するよう強く求めるものである。
 

(1)国は、非正規雇用の増大に歯止めをかけワーキングプアを解消するために、正規雇用が原則であり、有期雇用を含む非正規雇用は合理的理由がある例外的場合に限定されるべきであるとの観点に立って、労働法制と労働政策を抜本的に見直すべきである。

 特に、労働者派遣については、日雇派遣の禁止と派遣料金のマージン率に上限規制を設けることが不可欠であり、派遣対象業務を専門的業務に限定することや登録型派遣の廃止を含む労働者派遣法制の抜本的改正を行うべきである。

(2)国は、同一または同等の労働であるにもかかわらず雇用形態の違いによって、賃金等の労働条件に差異が生じないよう、労働契約法を改正して、すべての労働契約における労働条件の均等待遇を立法化し実効的な措置をとるべきである。

(3)国は、すべての人が人間らしい生活を営むことのできる水準に、最低賃金を大幅に引き上げるよう施策を講ずるべきである。

(4)国は、偽装請負、残業代未払いなどの違法行為の根絶を図るため、これらを摘発し監督する体制を強化し、使用者に現行労働法規を遵守させるための実効ある措置をとるべきである。

(5)国及び地方自治体は、社会保障費の抑制方針を改め、ワーキングプア等が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図るとともに、利用しやすく効果の高い職業教育・職業訓練制度を確立させるべきである。

(6)使用者は、労働関連諸法規を遵守するとともに、雇用するすべての労働者が人間らしく働き生活できるよう、雇用のあり方を見直し社会的責任を果たすべきである。
当連合会は、貧困の拡大に歯止めをかけるためには、労働問題と生活保護等の生活問題に対する一体的取り組みが不可欠であるとの認識に立ち、非正規労働者を始めとするすべての人が、人間らしく働き生活する権利を享受できるようにするため全力を尽くす決意である。
 
 以上のとおり決議する。

2008年(平成20年)10月3日
日本弁護士連合会

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