弁護士 佐渡島 啓
提示額を証明できれば、差額の請求が可能
不況で求職に苦労し、知人の紹介などでようやく見つかった就職先。給与を口約束で決めただけで仕事を始めてしまうケースも少なくないようです。就職する前は「月給25万円」と聞いていたのに、実際には20万円しか払ってもらえない。このように、支払われた給与が約束した額よりも低かった場合は、どうしたらいいのでしょうか。
口約束であっても、双方で合意した以上、労働契約は有効に成立します。実際にもらった給与が口頭で約束した額よりも少なかった場合は、もともと使用者に提示された額を証明できれば、差額を未払い賃金として請求することができます。
ただし、口約束の内容を証明するのは相当困難です。本人の前職の給与との比較や、会社の他の従業員との比較などがとっかかりにはなり得ますが、十分とは言い切れません。やはり給与の額は明確に書面で確認しておくべきです。
労働基準法や労働契約法では,賃金額等の労働条件は書面で明示しなければならないと定められています。これは労働契約の内容について労働者の理解を深め、争いを防ぐためです。
具体的には、給与額そのもの以外にも、示された金額が基本給なのかそれとも諸手当を含んだ額なのか、残業代を含むかどうか、賃金の支払日はいつかなどについて、契約を結ぶときにしっかりと書面で確認することが大切です。
よく問題になるケースとして、口頭で使用者から言われた給与金額には争いはないものの、残業代を含むのか含まないのかで労使の考えが違うというものがあります。
例えば、トラック運転手で長時間の残業があるため、本人は当然残業代がつくと考えていたのに、会社側は口頭で示した給与額には残業代も含まれると主張した場合がありました。
このときは、運転手が自分の手帳に毎日の勤務時間を記していたことや配送先の記録が残っていたことから長時間残業を証明し、会社側の提示した給与額は残業代込みでは低すぎることを明らかにしました。万が一に備えて、自分の勤務状況を記録に残しておくことも大切です。