朝日新聞2010年8月30日夕刊掲載「働く人の法律相談」-酒気帯び運転したら懲戒解雇?-(弁護士 佐渡島 啓)

弁護士 佐渡島 啓

処分が妥当か、職責・勤務態度などで判断

 酒気帯び運転で警察に捕まってしまった場合、職場での懲戒解雇を覚悟しなければならないのでしょうか。

 懲戒解雇が有効であるためには、処分の相当性が必要とされています。つまり、懲戒理由と釣り合うような処分内容になること。軽微な理由なのに、処分では通常最も重い懲戒解雇というケースは、相当性がなく無効となります。

 酒気帯び運転については、悲惨な人身事故につながる危険性が高いこともあって、社会的には厳しい目で見られていることは間違いないでしょう。飲酒の上に運転をして、人身事故を引き起こした場合には、裁判例でも多くの懲戒解雇が有効とされています。

 しかし、人身事故にまでは至らなかった場合には、その労働者の地位や職責、それまでの処分歴や勤務態度、前科前歴、酒気帯び運転をした事情などを勘案して、判断されることになるでしょう。

 例えば、処分歴や前科前歴が38年間なかった地方公務員(課長)が、休日に知人に勧められてビール中ジョッキ1杯、日本酒1合を飲酒し、呼気検査において道交法で処罰される最下限のアルコール量が検出されたという事案がありました。管理職にあったものの、懲戒免職にした市長の処分が重すぎるとして、裁判所はこれを取り消しました。

 一方で、大手貨物運送会社のドライバーが、業務終了後に350㍉リットルの缶ビール2本を飲んで自家用車を運転したという事案がありました。その職務内容や会社の業務内容からみて、事故につながりやすい飲酒・酒気帯び運転などの違反行為には厳正に対処すべき面があり、懲戒解雇は有効とされました。

 ただし、懲戒解雇されたからといって、一律に退職金が全額不支給となるわけではありません。退職金は、それまでの会社に対する功労報償的な性格と、賃金の後払い的な性格を併せ持つといわれています。退職金が不支給になるのは、長年の勤続の功労を全く失わせる程度の著しい背信的な事由がある場合に限るとされます。前述のドライバーの件では、過去に懲戒歴がないことや事故までは起こしていないことなどから、本来もらえる退職金の3分の1に減額されましたが、支給は認められました。

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