朝日新聞2010年4月12日夕刊掲載「働く人の法律相談」-更新実績ある有効雇用 雇い止めに-(弁護士 佐渡島 啓)

弁護士 佐渡島 啓

契約書に「更新しない」とあっても争う余地あり

 期間に定めのある契約社員などの有期雇用は、期間の定めのない雇用契約を結ぶ正社員と違い、原則として契約期間満了で雇用が終わります。しかし、契約社員として採用される際の面接時に「いつまでも働いてほしい」と言われ、実際に何度も契約を繰り返してきたにもかかわらず、突然雇い止めを宣告されることがあります。

 たとえ有期契約であっても、職務が継続的なものだったり、他の契約社員が何度も更新されている実績があったりすれば「次回も更新されるだろう」との期待を高めるのは当然です。有期雇用でも、その契約更新に合理的な期待が認められる場合には、いわゆる解雇権乱用法理が類推適用され、会社側からの更新拒否は解雇と同様の制限が加えられるとされています。

 しかし近年、会社が更新時に交わす労働契約書に「本契約期間については更新しない」といった文言を盛り込むケースが出ています。有期雇用契約を更新しない場合に、それ自体を無効とされて責任追及されないための対応と見られますが、こうした一文を加えるだけで簡単に雇い止めができたら、契約社員の立場はますます不安定なものになりかねません。

 1年の雇用契約を繰り返し更新し、7年勤務してきた契約社員が起こした裁判がありました。最後に交わした労働契約書に「更新しない」との条項が加えられ、契約社員は異議を述べることもなく署名に押印。期間満了での雇い止めを告知されたものです。契約社員はこれまで更新が繰り返され、業務の必要性からある程度の雇用継続が期待されていたなどとして雇い止めの無効を主張。ところが判決は、解雇乱用法理が類推適用されることは認めつつ、会社が不更新条項の追加を伝えた上で希望を確認し、それまで6割程度だった契約社員の年休消化率が最後の1年は100%だったことなどから、契約の終了を認めました。

 ただ、不更新条項はそもそも公序良俗に反して無効だと批判する学説もあります。何の説明もなく不意打ち的に、不更新条項が加えられていても、合意が成立していないとして争う余地は残されていますので弁護士にご相談ください。

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