朝日新聞2010年4月5日夕刊掲載「働く人の法律相談」-求人広告と条件違う-(弁護士 佐渡島 啓)

弁護士 佐渡島 啓

慰謝料請求できるケースも

 就職当時、求人広告に「退職金あり」と記載されていたので、今回退職するにあたって会社に退職金の請求をしました。
ところが会社からは退職金制度はなく、支給しないと言われています。

 求人広告と職場の実態が違うという悩みは少なくありません。賃金や残業代、勤務時間。今回の退職金でも問題になるケースがあります。

 そもそも求人募集には、公的機関であるハローワークに備えられている求人票と雑誌やインターネットなど様々な媒体で目にできる求人広告とがあります。これらには労働条件の明示が義務づけられています。その明示については、賃金であれば見込額でいいことになっています。

 ただし、求人票については特段の合意事項がない限り、記載された内容そのものが契約内容になると判断された裁判例があります。求人票が公的機関に備えられていることが重視されたためで、求人広告にはそこまでの効力を認めないのが一般的です。

 求人広告で募集を見つけたとしても、条件面であいまいな記述があった場合はそのままにしないこと。トラブルを招かないように、採用面接の際にしっかりと確認することが大事です。それでも採用後、求人広告の記載と異なる労働条件だったという場合が起こりえます。

 求人広告などで同年次の定期採用者と「同等」の給与を支払うとの説明だったにもかかわらず、実際は同年次の定期採用者に支払われる給与幅の下限に位置づけられていたとして、中途採用者が裁判に訴えたケースがありました。

 判例は、会社が給与条件で定期採用者と差別しない趣旨を中途採用者に説明していても、定期採用者の平均給与を支給するといった具体的な意思表示があったとは認められないとしました。一方、中途採用者は会社の採用方法に疑問を呈したため軽作業部門に配置転換されてもいました。裁判所はこうした不当性も踏まえ、求人広告を信じて入社した者に対し精神的衝撃を与えたなどとして、100万円の慰謝料を認めました。

 ご質問のケースでも求人広告の掲載内容や採用面接の経緯によっては、慰謝料請求ができるかもしれません。

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