朝日新聞2011年12月5日夕刊掲載「働く人の法律相談」-酒席での暴言、罰せられる?-(弁護士 佐渡島 啓)

弁護士 佐渡島 啓

会社に傷をつけたら処分の場合も

師走に入り、今年も残りわずかとなりました。忘年会など酒席が増える季節です。飲んだ勢いで上司に強気な発言をし、翌朝後悔。そんな経験ありませんか。飲み会で発した暴言によって、会社から罰せられることがあるのでしょうか。
 会社による罰とは、懲戒処分にするという意味です。重いものから順に、解雇、降格、停職、減給、戒告など。これらが従業員の生活に与える影響は深刻ですから、客観的にみて合理的で、社会通念に照らして相当な理由がなければ処分は無効とされます。
 また、懲戒処分が有効となるには、就業規則などに懲戒になる事由と懲戒の種類が規定されている▽規定が労働者に周知されている▽規定に該当する懲戒事由が存在する▽処分の重さが相当である--といった要件も必要です。
 原則的には勤務時間中や会社内での行為が対象。仕事との関連性が薄い飲み会の場での出来事に会社が口を出すことはできません。ただ、会社の体面が傷ついたり、社内の士気や規律に大きな影響を与えたりする場合は、話が別です。
 ある土地改良区事務局の総務部長が上司である理事らに、酒席で「あんたは世間から、どうにもならんやつだと言われている」などと発言。降格処分になったため、処分取り消しを求めて裁判を起こしました。
 地裁判決は、職務執行との関連性が薄い場での発言であるとして処分を取り消しました。しかし高裁判決は、総務部長としての適格性を欠き、職場秩序を乱す言動と判断。宴会費用を土地改良区が出していることや、参加者が理事や職員に限られており職務執行との関連性がないとは言えない、と地裁判決を覆し、処分を有効と認めました。
 暴力をふるった場合は、酒席とはいえ処分が有効とされることがほとんどですが、その処分の重さは問題になります。上司を殴って懲戒解雇となったケースでは、最初に暴力をふるったのが上司だったことや、私的な飲食で業務を離れた場であったことなどから、裁判所は「解雇は重すぎる」として無効としました。

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