職場の机 プライバシーは
職場の机の引き出しを勝手に開けられ、不快だったー。1月11日付「働く」面の「職場のホンネ」で紹介した投稿に、たくさんの反響があった。その多くが「職場の机は会社のもの」という意見。職場でプライバシーはどこまで主張できるのか。
「開けられ不愉快」の投書 「筋違い」の反響多数
「経理の男性から『交通費を引き出しに入れた』と言われ、ぎょっとした。他人の引き出しを勝手に開けないのが、大人のマナーではないか。その下の引き出しには私物を入れていたので、非常に不愉快だった」(兵庫県30代女性)
反響を呼んだのは、こんな投稿だ。
この女性は広告会社の営業職。女性の同僚に相談すると、外出中に引き出しの中のペンを勝手に使われたり、ロッカーを勝手に開けられたりした人もいたという。「机は会社の物だが、私が使っている時点で個人のスペースでもあるはずだ。私物も入れているし、自分の使いやすいように整理してある。私的な領域に土足で踏み込まれた気がした」と話す。
掲載後、これまでに20通を超えるメールや投書が朝日新聞社に寄せられた。
大半が「筆者が怒るのは筋違い」という意見だ。
「机は会社の備品。開けられて当然」「私物はロッカーに入れるべきだ」「会社の机は会社のものと心得るのも大人のマナーだ」「私物を入れさせてもらってるという意識でいて下さい」などという。
投稿した女性と同じ意見の人は少数だった。千葉県の女性(36)は「うちは机どころかロッカーの中もチェックされる。おかしいと思うが、いくら不信感を抱いても、雇用されている側は会社の方針に従うしかない」とメールで送ってくれた。女性はこの会社に10年以上勤務しているが、不満が重なったため、転職を考えているという。
理由なければ侵害に
机の引き出しを勝手に開けられても、働く側は文句を言えないのか。
労働問題にくわしい佐渡島啓弁護士は「正当な理由なく勝手に開けられれば、プライバシー権の侵害を主張できる可能性がある」と指摘する。
佐渡島弁護士によると、私的な領域をみだりに公開されたり追及されたりしない「プライバシー権」は、職場でも一人ひとりに保障されている。職揚の机は会社の所有物だが、ふだん使っている人の私的な領域という側面もある。
このため、場合によってはプライバシー権を主張できる。「引き出しにカギをかけていれば、侵害の度合いがさらに強まる。相手に慰謝料を請求できることもある」という。
書類の出し入れなど、仕事上の用事で引き出しを開けられた場合は、職場のルールがどうなっているかが判断する材料になる。
引き出しを開けることが職場の習慣になっておらず、就業規則などにもそういった行為を認める規定がない場合、プライバシー権の侵害になる可能性があるという。
従業員がプライバシー権を主張できるのは、机の引き出しに限らない。
たとえば、机の上に飾った家族写真は、職場の同僚に見られても問題ない。しかし、机の上に置いていた日記を読まれた場合、表紙の柄や色で明らかに私用と分かる時は、抗議できる。
職場のパソコンから送ったメールを会社側にチェックされた場合は、調査目的や方法を確認するといい。業務上の必要がなかったり、本来監視すべき立場にない人がチェックしたりした時は、プライバシー権の侵害になることがある。
佐渡島弁護士は「私的な領域と感じる範囲は、ひとによって違う。トラブルを避けるためには、それぞれの従業員のプライバシーに十分配慮するべきだ」と指摘する。
(牧内昇平)