【コラム】政治の私物化と「司法」の私物化(弁護士伊須慎一郎)

私物化禁止

亡くなった安倍晋三元内閣総理大臣は、憲法9条違反の集団的自衛権の行使を容認する2014年7月の閣議決定により、「法の支配」を揺るがし、森友学園問題加計学園問題桜を見る会前夜祭などによって「政治」を私物化した。

では、「司法」の世界はどうだろうか。

千葉勝美氏は、2009年12月から2016年8月まで7年近く最高裁判所判事を務めた。「違法審査-その焦点の定め方」(2017年5月1日初版)の著書のあとがきで、裁判官はトンボの眼を持ち続けることが重要で、「様々な意見、価値観、権利衝突の状況等をキョロキョロと複眼的に見ながら悩み続けるという地道な判断作用が求められる」と述べる。

福島第一原発事故に対する国と東京電力の法的責任を問う裁判が全国各地で係属している。2016年から西村あさひ法律事務所の顧問となった千葉氏は、2020(令和2)年12月28日付で、最高裁に、元最高裁判所判事・弁護士の肩書きで、「長期評価には、多面的な評価が成り立ちうるので、これを信用しないで津波に対する対策を打たなかったから事故を防げなかったといえない」等という、ちゃぶ台をひっくり返すような意見書を提出した。その後、最高裁判所は、2022(令和4)年6月17日に国の責任を否定する極めて不当な判断を示した。

「司法」の私物化も着々と進んでいるようである。裁判を意味あるものにするために、今さらながら、弁護士の鋭意な訴訟活動だけでなく、国民の裁判監視が重要な時代に突入しているが、一方で、裁判手続の電子化は国民監視を後退させることは間違いないであろう。

弁護士 伊須 慎一郎

(事務所ニュース・2024年新年号掲載)

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