日本弁護士会連合会や弁護士会の人権擁護に関する取り組みの1つとして、精神病院に強制入院させられている患者の退院請求や処遇改善請求の代理人活動があります。
上記代理人活動に関連する法改正として、2024年4月1日から、精神科病院における虐待の通報義務が始まりました。
その背景には、これまで、全国の精神科病院において、悲惨な虐待事件が何度も発生してきたことがあります。1984年の宇都宮病院事件以降、朝倉病院事件、神出病院事件、最近では2023年の滝山病院事件等、今でも精神科病院での虐待事件は後を絶ちません。時に、精神科病院での虐待により患者が死亡した事件もありました。
精神科病院における虐待の通報義務のポイントは、以下のとおりです。
①虐待の通報先は、都道府県です。
②通報するのは、虐待を受けた「と思われる」精神障害者を発見した者です。虐待を受けた事実を判断するのは通報者の責任ではありません。虐待を判断するのは都道府県の仕事です。
③虐待の対象行為は、⑴暴力や正当な理由のない身体拘束等の身体的虐待、⑵性的虐待、⑶著しい暴言や不当な差別的言動などの心理的虐待、⑷精神障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置・他の精神障害者による虐待の放置等のネグレクト、⑸経済的虐待があります。
④精神科病院に勤務している方は、虐待通報をしたことで解雇その他不利益な取扱いを受けないこととされています。また、都道府県においても通報者を特定させる事項を漏らしてはならない秘密保持義務があります。
精神科病院における虐待通報が活用され、虐待事件がなくなることを願っております。
弁護士 月岡 朗
(事務所ニュース・2024年夏号掲載)