【コラム】「思い出深い仕事」と言えば(弁護士牧野 丘)

法廷での敵方の証言を自分の反対尋問でひっくり返して勝負が決まったという事件は重大事件でなくても記憶に残り、その時の記憶が今も背筋をシャンとさせてくれます。敵方の証人は、準備や予行演習をしたうえで法廷に臨んでいることが大半ですから、そう簡単に崩れるものではありませんし、無駄な反対尋問は逆効果になることすらあります。

私と2名の弁護人で担当した覚醒剤自己使用事件で、警察官が被告人から採取した尿に異物を混入させた結果、陽性反応が出た可能性が高い、として無罪判決をもらったことがありました。証言台に立ったのは、捜査に関与した警察官ばかり。検察官からの主尋問に答えて警察官たちは「マニュアル通りに捜査しました」と自信満々にてきぱきと証言します。しかし、弁護人による反対尋問では、証人たちを次々と立ち往生させ、適正な捜査に疑いを感じさせる証言をたくさん引き出しました。少々荒唐無稽にも思える被告人の説明をかなり念入りに聞き、捜査記録を穴が開くほど読み込み、現場の動きを一挙手一投足まで再現すべく瞑想し、不自然な部分を見逃していないかをじ~っと考え続けて準備した結果だろうと思います。疑問点を発見したからと言っても単なる仮説に過ぎないので、それを法廷で警察官に認めさせるため、質問の仕方もかなり工夫しました。無罪判決に対して検察官は控訴せず確定しました。判決後、被告人が「先生も私のことを全部は信じていなかったでしょう?」と笑顔で話してくれたことを覚えています。確信に至らずとも、自分を信じてくれて頑張ってくれてありがとう、と喜んでいるものと解釈しました。

弁護士 牧野丘

(事務所ニュース・2021年夏号掲載)

 

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