医療従事者の危機(弁護士 牧野 丘)

私が日頃からお世話になっている県内の大きな病院は、もともと感染症専門の部門は持っていませんでしたが、新型コロナ患者を受け容れることとし、陰圧室を新たに設け、他の目的の建物1棟を新型コロナ対応用に改変しました。担当するスタッフの訓練も早急に行い、薬剤の使用に関する倫理委員会を直ちに開催するなどしました。未曾有の社会危機に対応する強く気高い使命感がその準備の推進力になったとのことですが、折しも近隣の病院では院内感染も報道されており、生半可なの使命感ではなし得ない、たいへんな緊張状態だったと聞いています。

ここに記しただけでも相当な費用がかかったことは容易に想像できますが、病院の財政は、たいへん苦しいものに変わりました。経費負担だけでなく、病院を訪れる患者さんの数が激減しました。患者数の減少は、感染者対応をした病院以外でも同じようですが、感染者対応をした病院はなおさらとのことです。賞賛されながら、逆に病院から足を遠ざける要因にもなっています。

また、世間では医療従事者に対する拍手や賛辞が一種の流行のようにして行われていますが、その一方で、医療従事者の子が保育園への通園を拒否されたり、差別の対象になる事実も数多く報告されています。

危険を冒して正面から立ち向かおうとする人々が間違いなく存在するわけです。心身共に疲弊しきって闘ってくれました。その人々がご褒美どころかボーナスカットなど経済的に追いやられ、地域の中でも孤立感を味わう。第2波の到来は不可避と言われていますが、次もまた同じ人々に同じ心身の負担をお願いできるでしょうか。財政的な手当と社会全体で支えるマインドができないと第2波には耐えられないのではないでしょうか。「感謝の拍手」を聞くとこんな状態でさらに使命感に燃えて職務を全うせよ、というプレッシャーを感じる、と話す医療従事者の方々も全国、いや世界で大勢いらっしゃるようです。医療者のやりがいを搾取するかのような社会が持続可能と言えるのかどうか・・・。

弁護士 牧野 丘

 

(事務所ニュース・2020夏号掲載)

 

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