自衛隊を憲法に書き込む本当の意味 (弁護士 伊須 慎一郎)

1 自衛隊を憲法に書き込むという憲法「改正」議論がなされています。災害救助活動等で頑張っている自衛隊が違憲であるというのは自衛隊員やその家族に失礼ではないか等と説明されています。では、自衛隊を憲法に書き込むだけで何も変わらないという安倍晋三氏の説明は信用できるのでしょうか?

2 政治家の嘘を見極めるためには、この間、政府や自民党が何をして、これから何をしようとしているのか、きちんと確認する必要があると思います。

(1)政府は、2014年7月1日、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行い、憲法9条の政府解釈(専守防衛)を空洞化させ、国会で集団的自衛権の行使等、憲法9条違反の安保法制を制定しました。これによって、日本から遠く離れた中東等で自衛隊が米軍に組み込まれて戦争を行うことが可能になりました。

(2)このように、政府が、憲法を無視して政府解釈(専守防衛)を空洞化させたことにより、必要最小限度の自衛の措置という縛りは、無きに等しいものとなりました。そのため、従前の政府解釈で否定されていた敵基地攻撃能力を備えた巡航ミサイルの保有や護衛艦いずもの空母化等の自衛隊の戦力強化を推し進めようとしています。

(3)さらには、政府・自民党等は、自衛隊員に失礼である等という理由で、軍隊(災害救助活動ではない)である自衛隊を憲法に明記し、その存在を公認する憲法「改正」をもくろんでいます。

3 しかし、軍隊である自衛隊が憲法に明記されると、私たちの暮らしは、様々な場面で人権を制限されることになります。憲法学者等の専門家が指摘している問題点をいくつか列挙してみます。

(1)戦力増強による際限のない軍事費増大のおそれがあります。現に自民党政務調査会では、NATOを参考に防衛費の対GDP比2パーセント(現在の5兆円規模から10兆円規模に拡大)の達成を掲げています。

(2)軍事費増大によって、年金や生活保護の切り下げ、教育費や医療費の高騰等、私たちの生活はますます苦しくなります。

(3)爆音を撒き散らしている航空自衛隊機の飛行差止め訴訟も、自衛隊を憲法で公認すれば、国防という理由で、ますます難しくなるでしょう。

(4)自衛官やその家族は、自衛隊が合憲になれば喜ぶのでしょうか。現在の自衛隊員の命令違反に対する刑罰は懲役7年が上限ですが、今後は危険な任務に対する命令に違反した場合、刑罰が死刑や無期懲役にまで厳罰化されるおそれもあります。現に2013年4月、当時の自民党の幹事長であった石破茂氏が厳罰化を示唆する発言をしています。

(5)その他にも、罰則付きの軍事的徴用制度の合憲化、国民の知る権利を侵害する政府にとって不都合な真実の隠ぺい(イラクや南スーダンの日報隠しが現に発生しています)、国防を理由とした強制的土地収用や新基地建設への抗議の抑圧、軍学共同体の促進による大学の自治や学問の自由への政治介入、憲法9条に抵触する自衛隊の活動に対する反対の意見表明や集会への妨害等、物も言えない息苦しい社会に変わってしまうことが危惧されます。

4 このように、集団的自衛権を公認する自衛隊の憲法明記は、日本の政治が軍隊優先の政治に抜本的に転換し、全ての基本的人権の支えとなっている平和的生存権を無効化することにつながります。その結果、自衛隊員を含めたすべての国民の人権を著しく侵害することになるおそれがあります。

このような理由で、私は軍隊である自衛隊を憲法に書き込むことを全面的に反対します。

弁護士 伊須 慎一郎

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