分断と対立を超えて(2017年1月代表挨拶)

弁護士 猪股 正

 昨年、ドナルド・トランプが米国大統領に選出され世界に衝撃が広がりました。背景には、格差と貧困の拡大、沈み行く中流層と社会の分断、グローバル化から取り残された人々の怒りや閉塞感があると言われています。英国のEU離脱を決めた国民投票にも同様の背景があり、歴史の大転換期であるとの指摘もあります。

 日本においても、格差と貧困が拡大し、所得や貯蓄が減少し、中流層がじわじわと追い詰められています。財源難を理由に社会保障は削減され、税の負担者である中流層にはその恩恵は行き渡らない中で、生活保護バッシングに見られるような他者への不信感、不寛容が広がり、所得階層間、地域間、世代間等の対立や分断が深まっています。

 この社会統合の危機を乗り越える一つの方法は、自民党憲法改正草案にあるように、元首たる天皇を戴いて家族や社会全体が助け合い、伝統ある美しい国を守るという愛国心を強め、戦前へ回帰する方向へ国民を誘導し、愛国心のベールで格差と貧困を隠すことかもしれません。
 もう一つの方法は、現行憲法の「個人の尊厳」原理に立ち返り、削減ありきの政策をあらため、全ての人の尊厳ある生存を支えるための「税と社会保障制度」を再構築することです。格差と貧困を最も低く抑えている北欧諸国などに学び、全ての人を対象とする無償の医療や無償の保育・教育のように、社会サービスの対象を低所得層に限定せず、中高所得層にも広げてその受益感を満たし、税負担への合意を形成し、強靱な財政を構築する道(普遍主義)へと転換することです。

 過去の歴史の過ちを繰り返さず、分断を解消し、相互に信頼し支え合う社会を目指して、所員一同、皆様と共に、粘り強く奮闘する決意です。今年もよろしくお願い申し上げます。

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