生活保護基準引き下げは撤回されるべき(弁護士 猪股 正)

弁護士 猪股 正

国は、8月から、生活保護基準を引き下げることを決めました。

アベノミクスで2%の物価上昇が目指される中で、基準額が、今後、3年間で、平均6.5%、最大10%引き下げられます。これにより、生活保護世帯96%の受給額が減り、総額670億円の生活保護費が削減されます。例えば、夫婦と子一人の世帯(都市部)で17万2000円から15万6000円に1万6000円減少するなど、子育て世帯への影響が特に大きくなっています。1950年の現行生活保護法制定以来、生活保護基準が引き下げられたのは2003年度(0.9%)と2004年度(0.2%)の2回だけであり、今回は前例のない桁違いの引き下げとなっています。

日本では、今、一部の富裕層に莫大な富が集中する一方で、中流層が減少して貧困率は年々悪化、一人親家庭の貧困率はOECD加盟国中最悪という、不平等と貧困を広げる社会構造へと変化しています。そういう中で、生活の困難に陥った人の命を守り、差別なく互いに支え合うという生活保護制度は一層重要なものになっています。

政府は、生活保護受給者の増加と財政負担を問題視していますが、それは、この制度によって、それだけ多くの人の命が支えられたということであり、政策の成功として評価すべきことのはずです。

私は、先日、フランスへ貧困対策の調査に行きました。フランスと日本を比較すると、全人口中の生活保護の利用率は5.7%対1.6%、生活保護費の対GDP比は4.1%対0.6%であり、日本は、諸外国に比べて、利用者も財政負担も低く抑えられているのです。

この問題は、生活保護を利用していない人の収入減・負担増の問題でもあります。生活保護基準は、非課税基準、介護保険、就学援助、保育料、障害者サービスの利用料など、福祉・教育・税制など様々な施策の基準と連動しているからです。例えば、引き下げにより、介護保険利用者112万人が負担増になります。

8月の次は、来年4月に引き下げが待っています。おかしいと言うことが、みんなの生活を守ることになります。生活保護を利用している方のところには、役所から引き下げの通知が届いたはずです。60日以内であれば異議の申立(審査請求)が可能です。首都圏生活保護支援法律家ネットワーク(電話048-866-5040)、または当事務所までご相談ください。

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