10年後に届けられた絵(弁護士 猪股 正)

弁護士 猪股 正

渡辺さんと初めて会ったのは2006年。芝川の橋の下、鉄骨の橋のまさに裏側にわずかな居住スペースを作って生活していた。
50代のとき勤めていた会社が倒産。その後、働く気もあり体も元気だったが、ついに仕事がなくなりホームレスとなり、好きだった絵も描けなくなった。空き缶・古本集めのわずかな収入やコンビニが廃棄した弁当などで命をつないだ。寒さや空腹で眠れない辛さ、ロウソクの灯りだけの夜の孤独、時折、若者が投げつける石の恐怖に耐える日々が10年以上続いた。

私が出会ったのは渡辺さんが64歳のときだった。
一緒に生活保護の申請に行き、アパートに入居することができた。仕事も見付かり何度も何度も頭を下げてくれた。

あれから10年がたち、渡辺さんから1枚の絵が届いた。
故郷、弘前の絵。茅葺きの家、水車、駒を回す子どもたち、そして岩木山。

この10年、貧困と格差の拡大は止まらず、人間の尊厳を踏みつけるような政治に気持が沈むこともあるが、この細かい筆遣いで根気よく描かれた絵に勇気をもらい感謝している。
小さな一歩から始まる。無数の小さな草の根は社会を変える巨大な根っことなるかもしれない。

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