反貧困年ネットワークは、貧困問題への理解と意識を持ち、正確にかつ継続的に報道するなど、顕著な報道活動を行ったジャーナリスト個人を対象とした「貧困ジャーナリズム大賞」を設け、毎年、大賞、特別賞、賞を選び、表彰しています。
2026年3月7日に発表された「貧困ジャーナリズム大賞 2025」受賞者及び選評をご紹介いたします。素晴らしい作品の数々で、購入できるものなどもありますので、是非、ご鑑賞・ご一読ください。
【貧困ジャーナリズム大賞】
渡辺周、中川七海、千金良航太郎 ほか Tansa 取材班
関西生コンの「人質司法・悪党たち」や元首相国葬の文書隠蔽を告発する「記録のない国」など一連のキャンペーン報道
労働組合による正当な争議行為が警察・検察によって幹部らの大量逮捕と長期勾留に発展した関西生コン事件。自白するまで保釈しない“人質司法”で労組から脱退者が続出。国家による組合潰しといえる一斉摘発の背景に迫る。捜査当局の幹部らと対峙するシリーズ「悪党たち」。さらに安倍晋三元首相の国葬はどのような経緯で閣議決定にいたったのか。 憲法などとの整合性などで意見する「法の番人」内閣法制局はどうしたのか。国民の知る権利に基づいて Tansa は、文書の情報公開を求め、国を相手に訴訟を起こす。「国葬文書隠蔽裁判」と名づけた裁判を通して国による記録隠蔽を追及するシリーズ「記録のない国」など、強大な権力に忖度のない継続的な調査報道を積み重ねる。SNS 時代を迎えて経営に苦しむメディアの急激な脆弱化が進む中、独自の資金確保で独立性を保ってジャーナリズムの権力監視をまっとうする記者たちの存在はこの時代の希望の光といえる。
【貧困ジャーナリズム特別賞】
小林美穂子 小松田健一
書籍『桐生市事件 生活保護が歪められた街で』(地平社)
群馬県桐生市の「生活保護制度」への違法性、不適切行為の数々が2023年末に、困窮者支援を行ってきたひとりの司法書士によって姿を現した。2人の著者は社会的問題として調査、取材、報道に奔走し、隠された事実を記録した。「桐生市の逃げ切りを許さない」「なかったことにはさせない」とのジャーナリズム魂が読み取れる。
桐生市は徹底した水際作戦、警察 OB 相談員による威嚇、扶養照会などによって、10年間で生活保護率を半減させたことが「生活保護情報グループ」のデータからも判る。
この違法性、不正義はどこから生じたのか?生活困窮することは罪なのか?桐生市が曖昧にしてきた闇の正体とは何か。生活保護制度への根強い偏見が、恣意的判断による支配や開始後の移管や辞退など保護減らしの常態化を許してきたのではないか。市民の加害性も問われている。
ちょっと待って共同親権ネットワーク
映画『五月の雨』
改正民法により 4 月に離婚後共同親権制度が施行される。
日常的なモラルハラスメントによる「見えない暴力」は深刻な影響力、支配力でじわじわと妻と子の心身を追いつめていく。その被害は見えにくく、離婚の調停委員も理解を示さない。
DV が理解されないまま、離婚を決意した妻は、夫が主張した共同親権を受け入れることになる。その支配は、離婚後の子どもとの強制的な面会や、進学や医療行為、転居、パスポート取得など重要な事項に及び、夫の合意を得なければならない。
離婚後も支配構造が続き、子どもの自己決定権は妨げられ「お前たちだけ幸せにはさせない」という人質のように。
当事者である女たちが支援者とともに「ちょっと待って共同親権ネットワーク」として DV の本質を映画化した。多くの人に、調停委員、法曹界や国会議員に、受け止めてほしい。
【貧困ジャーナリズム賞】
加藤弘斗、佐藤祐介
NHK ETV特集「“断らない病院”のリアル」
救急の中核病院である神戸市立医療センター中央市民病院。“断らない病院”を理想に掲げ、救命救急センターとして国の評価で 11 年連続トップを維持する。だが医師の働き方改革が始まり、理想と現実の間にギャップが広がる。当直の医師は押し寄せる患者の対応で連続勤務が 23 時間になることも。日々進化する医療情報に追いつくための研鑽の勉強も怠ることはできない。その時間は働き方改革と経費削減のために勤務外という扱いに変わった。カルテへの記録を一部事務職員が代行するなど、医師の負担軽減に努めるが真面目な人ほど思い悩み、燃え尽きていく。退職して去る人。自ら命を絶つ若手研修医も。自己犠牲で成り立つ医療現場。出口なしの現状はまさに衝撃的だ。医療現場の葛藤を記録したすぐれた映像作品である。
藤井幸子、一條のばら、真野修一
ハートネットTV 「特集・生活保護」
生活保護が揺らいでいる。2012 年にお笑い芸人が母親の生活保護の受給をめぐって謝罪会見に追い込まれた「生活保護バッシング」。乗じた自民党が生活保護費の大幅削減を公約に掲げて衆院選に大勝し政権復帰した。厚労省は即座に対応し保護費の最大 10%引き下げを 13 年から 15 年に段階的に実施した。これでは憲法 25 条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」ができないと全国各地で制度利用者が国を相手取って裁判で闘う。2025 年 6 月に最高裁は引き下げを「違法」と断じて引き下げ決定を取り消した。だが判決後も決着したといえず生活保護へのバッシングは SNS などで現在も根強く渦巻いている。番組は制度についての誤解などを若い世代にもわかりすく解説した。最高裁判決とその後をフォローする報道がごく限られる中で「最後のセーフティーネット」の歴史的な価値に光を当てた報道は貴重である。
安田菜津紀(フォトジャーナリスト 認定NPO法人 Dialogue for People 副代表)、金井渉、野
口太陽(TBSグロウディア)、ほか『荻上チキ・Session』制作スタッフ一同
TBSラジオ「荻上チキ Session」
(特集)生活保護費・引き下げの違法判決から 5 か月~国の対応は進んだのか?
厚労省が 2013 年から生活保費を段階的に最大 10%引き下げた決定について最高裁は 2025 年6月に「違法」だとして取り消した。判決から5ヶ月、番組では原告弁護団の一人の久野由詠弁護士と取材する東京新聞・中村真暁記者が出演して判決の意義を解説した。小法廷の多数意見が専門家の意見を聞かずにデフレ調整を根拠にした引き下げを違法とした点に加えて宇賀克也裁判長が少数意見で国家賠償を認めるべきだと主張したことの意義を伝えた。判決後も厚労省は専門家会議をいたものの新たな引き下げ理由を追認させて補償の範囲を裁判の原告だけに限定する案を検討している現状を詳しく伝えた。制度の複雑さなどから大手メディアが詳しく報道しない中でラジオという親密に語るメディアの特性を生かしてパーソナリティが原告らの「思い」を引きだそうとする共感的な報道姿勢は特筆に値する。
プロデューサー・花岡昌平、ディレクター・坂本透、カメラマン・湯浅幸司、ほか制作者一同
テレビ東京「ガイアの夜明け」“子どもの食卓を守りたい”
急激な物価高が子どもたちの食卓を直撃する深刻な実態を伝えた。「子どもの貧困」対策とも位置づけられる“こども食堂”では、フードバンクなどの NPO や企業、個人などから届けられた食材を子どもやひとり親などに無料や低価格で提供している。“こども食堂”の食材がどのような流れで子どもたちに届くのか。その仕組みを詳しく伝える報道は数少ない。企業を回って頭を下げて食材の提供を依頼するフードバンクの幹部の姿など様々な人たちが子どもの食卓を守ろうという目的で汗をかく姿を丁寧に描いていた。公助=行政の関与はナレーションで伝え、共助=NPO や企業などの団体や個人が互いに協力し合う姿も映像で伝える。随所においしい食事で子どもたちが笑顔になる姿が登場する。社会連携のあり方を視聴者に考えさせる優れた番組を送り出したことを高く評価したい。
朝日新聞西部本社経済部 江口 悟
「技能実習生による福岡最賃審議会での意見陳述」に関する一連の報道
福岡地方最低賃金審議会での陳述報道は、複数紙が報道している。ただ、朝日新聞社江口悟記者は、8月1日の速報に続き、11 月 17 日に「実習生ら 38 人団結、寮費徴収撤回させた」と、ユニオン北九州に加入、団交を経て待遇改善を実現したフォローの報道をし、「日本で長く働く外国人が増えるなか、労働問題に対して上げる声にどう向き合うのか、労働組合のあり方も問われている」と指摘している。
各記者が言及しているように、移住労働者が増える(技能実習生 47 万人、特定技能 20 万人:2025)なか、最賃審議会で陳述する機会を初めて実現した福岡の例を報道した意義は大きい。今後は、他の都道府県、特に移住労働者が多く働いている都市部の審議会で陳述を実現することが大事だ。
立教大学上林ゼミナール「非正規公務員の真実」執筆学生
書籍『大学生が伝えたい非正規公務員の真実』(明石書店)
執筆したのは、上林陽治立教大学特任教授と当時 20 歳そこそこの上林ゼミに所属していたコミュニティ政策学科の学生たち。学生たちは、非正規公務員当事者にインタビューに行き、周辺情報を調べ、大学のレポートではなく社会に訴えられる記事を書くという教授指導のもとに、本書を執筆した。
現役の大学生が主体となって、一般書を発刊するというチャレンジングな例だ。また、「調査し伝えるという調査報道が大事」という姿勢に立てた執筆学生の思い、発刊の意義について、非正規公務員問題の解決の方向性についての考察などを評価した。
朝日新聞記者 奈良 美里、松本 敏博、伊藤 舞虹、小玉 重隆
朝日新聞デジタル 連載「生活保護と車」(全4回)
生活保護の支給と引き換えに、人が人らしく生きることをあきらめさせる、という日本の貧困対策の問題点を、「車の保有」という身近なテーマから浮かび上がらせた好企画だ。
車保有の制限に苦しんだ当事者への取材だけでなく、主要109市区に独自にアンケートし、保有が認められている世帯の割合が最大で4%超という厳しい制限の実態などを明らかにし、さらに自治体の担当者たちからの実態に合わない制限に対する悩みの声もすくい上げた。
「寝て起きて、ちょっとご飯を食べられるくらいのぎりぎりの生活しか保障しようとしない制度」(記事中の識者コメント)の背景にある、「社会通念」への依存の怖さと、客観的で実態に即した基準の欠落も、重要な指摘だ。
朝日新聞文化部記者 定塚 遼
朝日新聞「難民申請者が日本で路上生活を強いられていることと、補助金制度の不備に関する報道」
難民条約に加盟する日本だが、法整備がなされず、難民申請者が10年で7倍となっているにも関わらず難民認定率は3.8%(2023 年)、「仮放免」となった難民を支援する公的な「保護費」も減少している過酷な現実を5回の連載で報道した。
在留許可を求め、公園で野宿せざるを得ない難民夫婦、出産間際の妊婦に出会い取材する。命をつなぐ困窮者支援団体など民間の財政も逼迫する現実を報道する。
国際人権規約が機能せず、さらに入管難民法が改正され難民申請 3 回で却下ののちは強制送還される過酷さに、非正規滞在者とみなされる仮放免者のこどもたちの将来の夢もつぶす。「人の尊厳とは何か?」連載直後の「ゼロプラン」へのアプローチも期待したい。
一般社団法人 Colabo 代表 仁藤夢乃
書籍『バカなフリして生きるのやめた 10 代から考える性差別・性暴力』(新日本出版社)
反貧困ネットワークに寄せられた女性の相談件数と比率は 2020 年度の 52 人・16.8%から 2025 年度は 12 月現在で 247 人・43.8%に激増。著者の仁藤夢乃氏は大学生だった 2011 年に NPO 法人「Colabo」を立ち上げ、困難を抱える少女たちを一緒に社会を変えていく仲間と考え活動中。
「はじめに」で述べられる「バカなフリして生きるのやめた」は、少女や女性を力のない存在として扱う権力に抗う宣言だ。そして、わからないフリをすることで性搾取社会を容認する社会に加担し、それを温存させる歯車の一つになることをやめるという決意である。
「おわりに」で述べられる”性加害を許さない社会、性搾取のない社会、女性の人権が尊重される社会の実現に向けて声をあげ続ける。性売買の構造を温存させようとする権力に抗い続ける。”私たちはこの言葉にどう応えて行くのか”が問われている。
しんぶん赤旗記者 内藤 真己子、本田 祐典
しんぶん赤旗「訪問介護事業所ゼロ自治体」など介護崩壊の告発報道
訪問介護の基本報酬が引き下げられたのは、2024年4月だった。ヘルパー不足が深刻化し、報酬引き上げの社会運動が盛り上がっていたこの時期の引き下げは、人々に大きな衝撃を与えた。そうした政策の鈍感さと危険性を、丹念な調査に基づき、「訪問介護事業所ゼロ自治体の増加」として可視化させた報道は、介護問題にかかわる人々や、置き去りにされる地域の人々の熱い支持と評価を受けた。
特に、ゼロ自治体の増加ぶりを、継続して刻々と伝え続けた手法の迫力は、この問題を「今そこにある危機」として浮かび上がらせた。
訪問介護事業所消滅の地域の状況を克明に伝える質的報道ともあいまって、多角的で総合的なキャンペーンの力を私たちに教えてくれる報道だ。
東京新聞取材班 代表 小川 慎一
東京新聞キャンペーン報道「スキマバイトの隙間」
スマホにアプリをダウンロードすれば、履歴書も面接も不要で、空いた時間に働ける「スキマバイト」が急拡大している。
取材班は、記者自らが実際に現場で働き、体験から見えた疑問を事業者等への取材活動で解明し、働き方の実態とその問題点をQ&Aなどの創意工夫で市民にわかりやすく伝えた。こうした報道が、事業者や行政の運用を改善し、権利を学んだ市民の自発的行動を促すなどの目に見える変化を生んでいる。
一人一人が切り離されて権利を主張できない働き方は人間らしい労働ではない。労働者が連帯する意義を問い直し、劣悪であっても生きるためにスポットワークに頼らざるを得ない社会構造や人手不足に悩む介護業界でも爆発的に増加する現状に警鐘を鳴らす。
市民が自由で自律的であるために必要な事実を検証に基づき権力から独立して届けるジャーナリズムの本分を体現した活動に、心からのエールを送りたい。
フリーランスライター 織田 忍
書籍『山谷をめぐる旅』(新評論)
高度成長を支え日雇い労働者であふれていた街、山谷。糸が切れ、帰る場所がない人が引き寄せられた。バブルが崩壊すると、仕事を失いドヤ代を払えなくなった人が路上に投げ出され、山谷は「ホームレスの街」となった。使い捨てられた人と街。
しかし、そこで培われたものがある。フードバンク、隅田川医療相談会、あうん…。その後の反貧困運動へと連なる命を守るための新たな活動が次々と生まれ、孤立し生きづらさを抱えた人同士がつながり支え合う共同性が醸成された。
バラバラになったものをつなぎ直し、「ここでなら生きていける」地域を協働で作ることが、労働者を使い捨てるシステムや差別と分断に対抗する力となるなど、反貧困運動の原点を考えさせる。
多様な人々への聴き取りや調査を通じ、山谷を、歴史・運動・個人の生の交差点として描き出しており、ロスジェネ世代で苦悩を抱え山谷にたどり着いた筆者ならではの優れた作品である。
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