【コラム】安楽死法制度化の議論(弁護士 宮本澄香)

先日、フジテレビのドキュメンタリー番組「ザ・ノンフィクション」で、安楽死について特集した回を視聴しました。末期がんを患った女性が、日本では合法化されていない安楽死を希望してスイスに渡り、家族に見守られる中で死を迎えるまでに密着するという構成でした。
がんによって生じる痛みは、それを経験したことの無い人間にとっては想像を絶するものがあります。回復の見込みが断たれた状況で、親しい人々に苦しむ姿を見せずに逝きたいという女性の願いは、大いに共感できるものでした。
しかしながら、安楽死(ここでは医師による自殺幇助を含む積極的安楽死を指します。)の法制化には、死ぬ権利を死ぬ義務に反転させてしまいかねない危うさもあります。2022年に公開された映画「PLAN75」は、このような危機感を描いた作品です。同作中では、高齢化が一層進行した日本において、「生死の選択権」を与えるという名目で、75歳を迎えた国民は合法的に安楽死することが認められています。生死の選択権を与えるという建前ではありますが、安楽死プログラムの積極的な政府広報の様子や、作中で安楽死をサポートするコーディネーターの言動からは、国が、75歳以上の人間が死を選択することを期待している様子が伺えます。
 現実に安楽死を合法化している国においては今のところ、「PLAN75」のように、高齢者等が他の属性の人々より多く安楽死を選択しているという結果は出ていないようです。しかし、拙速に安楽死の合法化を進めることにより、重大な倫理的問題が引き起こされることは想像に難くありません。緩和ケアの質の向上等、終末期の苦しみを取り除く代替手段も十分に検討するべきと思います。

弁護士 宮本 澄香
(事務所ニュース・2024年夏号掲載)

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