先日、東京都知事選挙がありました。過去最多の立候補者数ということで、選挙掲示板の枠が足りなくなった等というニュースも流れてきていましたが、私の住んでいる地区の掲示板には、候補者のポスターは数名程度しか貼られておらず、その枠のほとんどが空白のままでした。今や選挙における候補者の選挙運動はネットを中心に行われていて、掲示板にポスターを貼るという活動による宣伝効果は薄く、優先順位が低くなってきたのかもしれません。
選挙に限らず、他者とのコミュニケーションも、会ったり電話をしたりということから、SNSを通じた交流が中心となってきました。ネット上の表現についての法的トラブルも増えてきました。
表現の自由は人権の礎であり、自由で民主的な社会を支える柱です。いかなる思想表現であっても最大限尊重すべきであり、規制することには謙抑的であるべきです。しかし、他者への攻撃的な誹謗中傷や、特定の属性の人たちを標的にしたヘイトスピーチは、そのことにより他者の表現を封じ、その属性の人たちを排斥しようとするもので、決してあってはならないものです。表現の自由という権利の中身・質が問題になってきたといえます。
「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」(憲法12条)とされています。権利とは所与のものではなく、国民の1人1人が、不断の努力を続けることによって、守っていかなければならない、主権者としての姿勢が問われています。
弁護士 南木 ゆう
(事務所ニュース・2024年夏号掲載)