“子どもの留守番禁止条例”が廃案に! 埼玉県虐待禁止条例案の問題点を埼玉の弁護士が解説

子ども達が楽しく桜並木の下を下校するところ

報道で取り上げられ何かと話題になっている、埼玉県のトンデモ条例案についてです。
2023年10月13日にも本会議採決が見込まれていましたが、批判の声が相次いだため同日の採決は撤回され、廃案になったようです。

「埼玉県で子育てしたくない」? 子どもだけの外出・留守番は「虐待」とする自民の条例改正案に保護者反発 東京新聞TOKYO Web

埼玉県条例改正で子どもの「留守番禁止」へ 子育て家庭に負担懸念も 毎日新聞

子ども“放置は虐待”条例案に専門家「憲法違反の疑い」共働き夫婦「何もできない」 テレ朝 報道ステーション

埼玉の「虐待禁止」条例案、9月定例会での成立断念…「子どもだけの登下校まで」批判相次ぐ 読売新聞オンライン

この条例案では、9歳までの「児童を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置をしてはならない。」としています。

立案者である自民党県議は、安全を確保できる、すぐに駆け付けられる、この2点が確保できない状況は、短時間であっても放置に当たるとして、例えば

・小学1~3年生までの児童だけでの登下校

・子どもだけで公園で遊ぶ

・子どもだけでおつかい

・子どもだけで留守番

も「放置」に当たるというのです。

なお恐ろしいことに、県民が虐待や放置を発見したら通報及び通告をする義務が定められ、将来には放置や通報義務違反に罰則を設ける予定だそうです。

この条例案は、子育て実態を全く考えられていない点で大問題です。何気なく日常的に行っていた育児が、将来的に違法になってしまう可能性があるのです。シッターや他の親族を頼るにしても、そんなことができる家庭がいったいどれだけあるでしょうか。条例制定によって生じる経済負担や精神負担を無視していると言わざるを得ません。
しかも、それを見つけた県民は警察や児童相談所へ通報・通告しなければいけない義務があります。子どもたちだけで登下校をしているのは、普段ありふれている光景でしょう。今後は、それを見つけたら警察へ通報し、通報や通告をしなければ義務違反となってしまいます。監視社会になりかねないような規制であり、実態に即していないことは明らかです。
また、規制が広範に過ぎる点、親の職業選択自由や個人の価値観を認めていない点などで憲法違反の疑いすらあります。

一体何のために、これほどまでにヘンテコな条例を作るのでしょうか。
自民党県議は「子どもが放置されている状態を我々は『虐待』と定義し、留守番できるからといって小3以下の子どもを残して外出している状態がいかに危険か、そこの意識の認識を変えていただきたい」と発言しています。
果たしてそうでしょうか。埼玉県は、待機児童数が全国ワースト2位であるにもかかわらず公的支援は依然と乏しい状況です。そのような限られたリソースの中で、子育てをしている多くの保護者は、自ら適切に判断し、日常的に子どもたちを留守番させたり遊ばせたりさせているはずです。
それが一律に「子ども達にとって極めて危険な行為なんだ!直ちに規制しなければならないのだ!」と考えてしまうのは、あまりにも現実が見えていない。環境整備をすることなく上から目線で決めつけているとしか思えません。ひとり親家庭や共働き世帯など、多様な家族のありようが全く考えられていません。当事者である子育て世帯や子どもたちからどれだけの意見聴取をしたのでしょうか。

虐待を防止するという名目で、子育て世代に重い負担をかけることは、ひいては子どもたちの不利益になります。子育ての負担を軽減する政策を整備することなく、罰則と強制で解決をしようとするのは、政治の職務放棄に他なりません。

マスメディアで大きく報道され県内外から批判が相次いだことから、一旦は採決見送り・廃案になりました。しかし、油断はできません。
自民党県議は「説明不足」を廃案の理由としましたが、そのようなコメントをしてしまうこと自体が、問題の本質を全く理解していないことを表しています。また、「条例案の内容に瑕疵はなかった」ともコメントするなど、全く悪びれないご様子です。物分かりの悪い政治家には、市民の“NO!”の声を突き付けることが大事です。

今回は、「こんな条例はおかしい!」、「ばかげている!」、「この条例案が通ってしまっては子育てなんかできなくなる!」、といった市民の声が、政治を動かしました。みなさんで声を上げて意思表明をすることが、埼玉県だけでなく、この国の政治、この国の未来を変えることにもなります。
私たちも、市民の皆様に寄り添った活動を続けてまいります。

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弁護士 深谷 直史

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