【コラム】眠る美術品(弁護士谷川生子)

コロナ渦の中、足が遠のいていましたが、昨年は何回か美術館に行くことができました。美術の知識はなくとも、心惹かれる作品に出会ったり、作品の背景をあれこれ考える時間は楽しいものです。こんな風に、多くの人にとって美術品は鑑賞して楽しむものだと思いますが、一部の人にとっては資産あるいは投資対象でしかありません。
輸入手続前に品物を保管する「フリーポート(保税倉庫)」の実態を描いた海外ドキュメンタリーを見ました。フリーポートに保管されている間は関税等の税金がかからず、しかも一時的な保管庫のはずが保管期間の延長が認められているため、超富裕層が、購入した美術品を半永久的にフリーポートに保管しているのです。数々の貴重な美術品が誰の元にも(買った本人の元にさえ)届くことなく倉庫に眠っているとは。それだけでも十分罪に思えますが、問題はフリーポート内で取引すれば税金がかからないため、マネーロンダリングや資産隠しに利用されているという点です。スイス、香港、シンガポ-ル等世界各地で前々から疑問視されているものの、多くの国は巨額の収入を見込めるフリーポートビジネスを擁護しています。
政治も美術品も限られた人のものなのかとやりきれない気持になりますが、ウクライナ侵攻後、ロシアへの制裁措置に関連して、フリーポートに新たな規制を設ける議論も起こっているようです。

いつかフリーポート内に眠っている数々の美術品を直に鑑賞できたら。生きているうちに実現するよう願っています。

弁護士 谷川 生子

(事務所ニュース・2023年新年号掲載)

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