【コラム】「自粛」の裏側 (弁護士谷川 生子)

コロナ禍が始まってから、「自粛」という言葉が日常的になりました。特に飲食業者に対する時短営業の要請や、酒類提供の自粛要請は、多くの飲食業者にとって死活問題でした。営業権の侵害だ、という声もありましたが、政府の態度は協力要請にとどまり、形式上、政府の要請に応じるかどうかは各業者の自由でした。これを「公権力の行使」として、直ちに憲法上保障された個人の営業の自由の侵害というのは困難です。しかし、要請に応じない飲食店に対する国民の非難、「自粛警察」という現象が生まれたりしたことからすれば、社会による事実上の強制力は大きかったといえます。

日本には、中国や欧米諸国のような強力なロックダウンを実施する法的な根拠はなく、その分、国家による人権侵害の場面が少ないようにも思えます。しかし、政府の協力要請等、行政指導に分類される各行為の国民に対する影響力が大きい場合、事実上ロックダウンと同じ効果を及ぼす場合があり得ます(既にあったといえるかもしれません。)。一般的に行政指導は、その事柄の性質、社会に与える影響力等の諸事情を考慮して評価されるべきとされており、個人の活動を強く抑制する効果の発生が想定される場合には、より厳格な法的手続の整備等が求められます。

まだコロナ禍は続き、飲食店に限らず、今後、政府がどのような対応を取り、それがどのように国民生活に影響を及ぼすかわかりません。新たにオミクロン株が発生し、感染防止対策は重要ですが、個人の活動が制約されすぎないよう注視する必要があります。

弁護士 谷川生子

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