【コラム】亡き松本一郎先生の墓前で(弁護士 伊須慎一郎)

 砂川事件・伊達判決の東京地裁合議体の左陪席は松本一郎先生。松本先生は伊達秋雄裁判長と議論を尽くし、日本政府がアメリカ軍の駐留を許容したのは、指揮権の有無、出動義務の有無に関わらず、日本国憲法第9条2項前段によって禁止される戦力の保持にあたり、違憲であると無罪判決を出しました。1959年3月の判決言渡当時、伊達裁判長は50歳、松本先生は任官3年目でした。

 エリート裁判官であったお二人が、違憲判決を出すことによって予想される現実的苦難を乗り越え、憲法9条を実直なまでに遵守できたのはなぜか。

松本先生は私の妻の恩師であり、私の大学の先輩でもあります。結婚式にもご出席していただきましたが、結局、松本先生に当時のお話しをうかがうことができないまま、お別れすることになりました。

 時は流れて、2015年9月に、法律上自衛隊による集団的自衛権の行使が容認され、自衛隊は米軍の傘下に更に組み込まれ、現在では、自衛隊は、東シナ海からさらに遠方に進出し、南シナ海で米軍と合同訓練を行うまでに至りました。政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きないようにすることを決意した日本国憲法の平和主義の趣旨は蹂躙され続けています。

伊達裁判長と松本先生は、裁判官としての使命、自身の人生、全人格をかけて国民の命を守ろうとしました。51歳となった私は、微力ではありますが、昨年末、松本先生の墓前で安保違憲国賠請求訴訟のたたかいに力を尽くしたいとご報告しました。今年が裁判の正念場です。

弁護士 伊須 慎一郎

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