愚直な努力

同僚ではあるが、昨年10月から今年の1月まで、何度か研修のため仕事を教える機会があった。

担当弁護士から、多岐に亘る法律事務ではあるが、限られた時間の中で、できるかぎり経験し、最低限の知識と実務を身につけさせてほしいとの要望であった。

彼には、すでに長い社会経験があるものの、これまでの経歴とは畑違い、年齢も若いとはいえない。自分のことはすっかり脇に置いて、新しい分野の仕事への理解と吸収力はいかばかりかと、多少、失礼なことを考えたりした。

ところが未経験ながら、2年後の日弁連事務職員能力認定試験を受験するべく、自らクレオで研修を受けている。並ならぬ努力をしている人である。

初めて相続人調査から相続関係図作成までを、研修の一環としてお願いした。戸籍の見方、読み方、民法改正による相続分の変更、ついでに家督制度まで一通り説明し、あとは任せてみた。

戸籍が全てそろったというので、相続関係図を作りましょうと向けると、自力で作成してみると言う。しばらくすると相続関係図のデータが私のメールに添付されてきた。ほぼ完璧だった。しかも早い。

その後に、添付の相続関係図が登記申請用であったため、多少の訂正はしたが、要件は全てそろっていた。

私に欲が出て、相続分の計算を頼むと、すぐさま関係図に書き込んできた。こちらも正解。

私が先輩から研修を受けたころは、机の上に模範六法、書記官研修テキストが載っていた。まず裁判所に提出する書類が、どの法律に基づき、何を求められているのか。根拠条文から説明を受け、頭の中に?が何個も浮かんだころ、ようやく書式が置かれ、さらに詳細な説明があった。厳しかったから質問はできなかった。

直接、書記官に質問して来いと先輩に言われ、恥を忍んで裁判所へ走ったことが何度もあった。

この10年くらいだろうか。仕事の習得方法は大きく変わった。途中の理解を求めず、結論だけを欲しがる。書式をデータでもらい、そこに必要事項が当てはめられれば完成することが多くなったからだろうか。でも、それでは経験年数に比例した力量が身につかない。

彼には敢えて、回り道しながら法律事務を習得することを、研修最終日の贈る言葉とした。表現はやや品を欠くが、泥臭い事務局には自力がある。愚直に努力しよう。

これらは同時に、私が自分に向けた言葉でもある。

また愚直の一年が始まった。

 

事務局 長澤

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