ヘイトスピーチへの対応 (弁護士 本間啓誉)

サイコロhate

川崎市差別のないまちづくり条例(ヘイトスピーチ条例)の施行から4年が経過し、これまでの運用等について、条例担当の職員の方から直接お話しを伺う機会がありました。以下は、この機会を経て思った個人的な感想です。

憲法学の観点からすると、表現行為を規制できるかどうかは、どのくらい言い返すことができるかどうかということと関連します。憲法上、表現の自由は、特に強い保障が与えられ、国家が表現行為に対する規制をすることは、原則として許されないとされます。
その理由は複数ありますが、その一つとして、何が正しい意見なのかということは、国家が決めるものではなく、自由に意見を言い合うことで決められるべきとの考えが挙げられます。つまり、ある意見に対して、「〜という点が/〜という理由で間違っている」などの反論が行われ、それに対する反論が続き、結果的に正しい考えが決まるとの考えです。

仮に、ヘイトスピーチの問題も、このようなやり取りが期待できるのであれば、国家として、ヘイトスピーチそのものを規制することには慎重にならざるを得ないことになります。
しかし、ヘイトスピーチの場合、差別や憎悪を助長する主張だけがくりかえされ、相手が何を言っても、議論が進まないため、反論する気を失わせる可能性があります。
また、少数者に対して、攻撃が集中することもあり、一つひとつに反論する余裕がなく、ヘイトスピーチに対して、反論しようとする者がいなくなってしまうこともあるでしょう。

こうしたことからすれば、ヘイトスピーチは、単に相手方を傷つけることだけを目的に行われるものとして、何らの議論も生まず、自由に意見を言い合わせても意味がないことになり、国家として規制することが許されると考えることもできなくないかと思います。

表現の自由の濫用は、誰かを傷つけるだけでなく、正しい意見を言う人を消してしまうという効果もあるので、国家として規制することも重要です。
もっとも、正しく反論を行うことで、一人ひとりが議論によって対処することも必要なのかも・・・と思わされる良い機会となりました。

弁護士 本間 啓誉

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