引き続く原発避難者の苦難を直視した継続的かつ実効的支援を求める要望書(2023)

2022年に実施した原発事故避難者調査及びその分析結果に基づき、2023年3月7日、復興庁を訪問して要望し、同月8日付けで、内閣総理大臣等に要望書を提出いたしました。

関連報道:2023年3月9日朝日新聞記事「原発事故、避難者の4割がPTSDの疑い 市民団体など調査」

内閣総理大臣 岸田 文雄 殿
復興大臣 渡辺 博道 殿
文部科学大臣 永岡 桂子 殿
厚生労働大臣 加藤 勝信 殿
国土交通大臣 斉藤 鉄夫 殿
財務大臣   鈴木 俊一 殿
外務大臣   林 芳正 殿
経済産業大臣、原子力経済被害担当、内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)西村 康稔 殿
環境大臣・、閣府特命担当大臣(原子力防災)西村 明宏 殿
子ども政策担当、共生社会担当、孤独・孤立対策担当、内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画)小倉 將信 殿
経済再生、全世代型社会保障改革担当、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)後藤 茂之 殿
総務大臣 松本 剛明 殿
福島県知事 内堀  雅雄 殿

引き続く原発避難者の苦難を直視した継続的かつ実効的支援を求める要望書(2023)

2023年3月7日

震災支援ネットワーク埼玉(SSN)代表:猪股正(弁護士)
早稲田大学災害復興医療人類学研究所(WIMA)所長・教授:辻内琢也(医師)

 福島第一原発事故(以下「原発事故」という)後12年となる2023年3月11日を迎えるにあたり、2022年に実施した原発事故避難者(以下「原発避難者」という)に対するアンケート調査及びその分析結果に基づき、国及び福島県に対し、次のとおり要望する。

第1 要望の趣旨

 原発事故から12年が経過しようとする今もなお、原発避難者が高いストレス状態に置かれ続け、甚大な精神的苦痛を被り続けている。
 私たちは、国及び福島県に対し、この事実を直視し、今後、社会全体で、避難者の苦難を共有し、その苦痛をなくしていく努力を永く積み重ねていく旨の基本方針を宣明し、以下の支援策をはじめとする実効的支援策を継続していくことを求める。

1 健康状態悪化に対する支援
 避難生活が長期化する中で、避難者の健康状態が悪化し、医療費等の負担が経済的に困難になっている現状に対応するた め、
 ⑴ 国による医療費等の減免措置縮小方針の撤回
 ⑵ 避難元自治体と避難先自治体の連携不足による支援の壁の解消
 ⑶ 小児甲状腺がん検診及びフォローアップの継続的実施と、心理社会的サポートシステムの構築を
 ⑷ 生涯にわたる健康支援システムの早急な確立

2 経済的困難に対する支援:失業、住宅支援の打ち切り、不十分な賠償・補償問題への対応
  失業、住宅支援の打ち切り、不十分な賠償・補償などにより、経済的困難に陥っている避難者が多いことから、
 ⑴ 従前の就労支援策の問題点を検証の上、実効的な就労支援策の実施
 ⑵ 住宅支援打ち切り後の状況調査と、打ち切り撤回・住宅支援の再開等
 ⑶ 国の責任による十分な賠償・補償の実現
  ア 未請求者・未請求項目と国による調査及び損害の填補
  イ ふるさと喪失・変容慰謝料の抜本的拡大
  ウ 責任の所在の明確化による苦痛の軽減、不十分な賠償水準の底上げ
  エ 消滅時効期間の延長

3 喫緊の孤立防止策と地元及び避難先地域におけるコミュニティ育成の支援
 ⑴ 区域内外避難を問わず、避難者に対する差別・偏見の解消に向けた努力を
 ⑵ 復興支援員の人数を増やして戸別訪問(アウトリーチ)を可能にし、心理的・社会的・経済的支援が必要な避難者の発見による、避難者の孤立防止を
 ⑶ 離散した家族・親族の交流をサポートしてきた高速料金の無料化措置を、避難継続世帯・移住世帯にも継続を
 ⑷ 県外避難者支援課等による避難継続世帯・移住世帯への支援の拡充、避難先地域住民との関係性構築の支援



4 地元不動産の固定資産税負担等への適切な対応
 地元不動産を所有することに起因して避難者の困難が続くことのないよう、国や県による買取り制度の創設、固定資産税の免除措置等の施策を講ずること

5 長期避難を継続する権利の実質的保障等
 ⑴ 帰還優先ではなく、避難・移住・帰還の実質的な選択を可能とする長期避難する権利の保障
 ⑵ 不合理な放射線基準に基づく避難・帰還区域の設定を是正すること
 ⑶ 当事者参加の独立機関の設置による検証と支援プログラムの策定

6 普遍的な社会保障制度の構築と原発避難者の苦難に向き合う社会への転換

第2 要望の理由

1 アンケート調査・分析の実施について

 私たちは、原発事故の翌年の2012年から原発避難者を対象とした実態調査を行ってきたが、今回の2022年調査はこれに続く10回目の調査にあたる。

 本要望書は、今回の調査結果に基づき、また、それ以前の連続調査の結果も踏まえ、引き続く原発避難者の苦難を直視した継続的かつ実効的支援を求めるものである。

 今回の調査では、原発事故後11年となる2022年1月から同年4月末までにかけて、福島県内の5自治体(浪江町・双葉町・大熊町・富岡町・いわき市)の協力を得て、浪江町・双葉町・大熊町・富岡町の4自治体の住民のうち首都圏(関東1都6県)に避難中のすべての世帯、及びいわき市から全国に避難中のすべての世帯を対象に紙面によるアンケート実態調査を郵送で行い(以下「紙版アンケート調査」という)、各自治体の広報誌に返信用封筒と同封し、合計5350件送付した。送付数は、浪江町1600世帯、双葉町900世帯、大熊町900世帯、富岡町1450世帯、いわき市500世帯であった。本要望書に提示するデータは、そのうち、同年4月末までに回収された516件(回収率9.6%)の分析結果である。調査結果の詳細は、「2022年度SSN/WIMA原発事故被害アンケート調査・付録図表」(以下「付録図表」という)を参照(付録図表No.4)。

 この紙版アンケート調査と同時に、広く避難者の声を集める目的で、「ご自身が、原発事故による避難者・被災者・被害者であると考えている16才以上の方」を対象にWEB調査を行った(以下「WEB版アンケート調査」という)。Web版アンケート調査は早稲田大学災害復興医療人類学研究所(WIMA)ホームページ内にアンケートフォームを設置し、東京・埼玉・京都・大阪の避難者団体等を通じて日本全国各地の被災者へのアンケート調査への協力を呼び掛け、2022年4月末までに合計91件回収された(付録図表No.5)。Web版アンケート調査は、紙版アンケート調査と異なり厳密な社会疫学的調査とは言えないため、ここでは自由記述回答のみを分析対象としている。

 アンケート調査の自由記述部分は次の3問で構成されている(付録図表No.6)。

 【問1】困っていること、心配な事があれば、お書きください。(例、生活や仕事、住宅、法律や損害賠償、子どもの教育や子育て、いじめやいやな経験、家族関係、近隣関係、避難・帰還・移住、心身の健康、コロナ関連など)。

 【問2】国・県・市区町村自治体に対する改善点や要望があれば、お書きください。

 【問3】その他、ご自由にお書きください。

 アンケート自由記述に寄せられた特徴的な回答を、以下、それぞれのテーマに合わせて紹介する。なお、各自由記述の後に、性別と年齢、避難指示区域の区別、アンケート整理番号(紙版の回答者はNo.*、Web版の回答者はNo.*Web)を記載した。自由記述回答の分析では避難指示区域を以下の3つに分類した。2022年のアンケート調査回答時に、帰還困難区域・居住制限区域・避難指示解除準備区域に該当している住民を“避難指示区域内”とした。2011年以降、過去に1度でも避難指示が出された区域で、現在は既に避難指示が解除されている地域の住民を“避難指示解除区域”とした。そして、過去に1度も避難指示が出されていない地域からの避難者を“避難指示区域外”と定義した(付録図表No.7)。

 本アンケート回答者の基本情報を付録図表No.8〜10に示した。回答者の年齢は70代が最も多く33.9%、次に60代が25.6%であった(付録図表No.8)。男性は56.4%、女性は41.1%であった(付録図表No.8)。回答者の『現在の住所地(避難先)』(付録図表No.9)は、茨城県22.1%、埼玉県19.8%、東京都17.1%、千葉県13.0%、神奈川県10.5%、栃木県10.5%であった。『原発事故前の住所地(避難元)』(付録図表No.9)は、浪江町30.8%、双葉町19.8%、大熊町16.3%、富岡町21.9%、いわき市5.8%であった。

 『2011年当時の避難区域指定』(付録図表No.10)は、「警戒区域」が56.2%、「緊急時避難準備区域」が11.4%、「計画的避難区域」が4.8%、「避難指示区域外」が8.3%、「わからない」が9.9%、「知らされていなかった」が5.2%であった。

 また、『現在の地元の避難区域指定』(付録図表No.10)は、「帰還困難区域」が38.8%、「避難指示が解除された区域」が32.8%、「もともと避難区域外」が8.3%、「居住制限区域」が7.6%、「避難指示解除準備区域」が6.2%、「わからない」が4.1%であった。

2 今も続く、原発避難者の深刻かつ危機的な状況とその要因

⑴ 今も続く避難者の深刻かつ危機的な状況

ア 高いストレス状態―PTSDの可能性がある者が37.0%

 原発事故から11年が経過した現在においてもなお、原発避難者は、極めて高いストレス状態のなかで生活することを余儀なくされ続けている現状が明らかになった

 災害後に最も多いメンタルヘルス上の問題として知られているのが心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder:PTSD)である。(PTSD)とは、災害や大事故、戦争や紛争、犯罪、暴力、深刻な性被害、虐待など、生命の危険性が高い出来事に伴うストレス障害である。 症状としては、フラッシュバックなどの「侵入症状」、ショックを受けた出来事を避けようとする「回避症状」、睡眠障害や神経の高ぶりなどの「過覚醒症状」、興味や関心の喪失や孤立感を感じる「認知や気分の陰性の変化」がある(付録図表No.12)。

 本調査では、PTSD症状の強さを測定する国際標準の尺度「改訂出来事インパクト尺度(Impact of Event Scale–Revised:IES-R)」において、PTSDの可能性があるほどの高いストレス状態だとされる25点以上の者が37.0%(付録図表No.13)に及んでいる。

 また、「気分・不安障害調査票(K6)」は6項目で簡易に抑うつと不安のレベルを測定できる尺度として国際的に使用されている。本調査におけるK6の得点は、社会機能に障害が生じる抑うつ・不安レベルとされる「13点以上」の者が17.2%(付録図表No.14)、福島県立医大が支援を行う基準として設定している17点以上の者が7.8%となっている。

 自由記述に認められる、『精神的苦痛・トラウマ』を示す語りを紹介する。原発事故災害に加えて、長引くCOVID-19の影響で自由な往来が制限されていること、ロシアのウクライナ侵攻の報道による影響、など発災直後にはありえなかった新しい苦悩が重なっていることが示されている。

 「ウクライナ侵攻によるニュースで車の渋滞を見たら、当時の避難の様子がフラッシュバックして、体調不良になりました。原発の攻撃のニュースには、心が痛み、涙が止まらなくなってしまいました。」(60代女性、避難指示区域内、No.228)

 「学校(避難所)の生活でトラウマになり生活の人間関係がうまくできない。考えるとドキドキして血圧が上がる」(40代女性、避難指示区域内、No.70)

 「年中無休と言う程、精神的不安とストレス-中略-社会性失うことが怖い-中略-たび重なる不幸」(70代女性、避難指示区域内、No.489)

 「大熊に行くと精神状態がおかしくなる」(40代女性、避難指示解除区域、No.476)

 「自分一人では何もできない。ただ呼吸している」(70代男性、避難指示区域内、No.329)

 「生きていく意味がわかりません」(60代男性、避難指示区域内、No.278)

イ PTSDの可能性がある者は4割前後の高止まり状態が持続

 2012年からの推移をみると、IES-R:25点以上の者の割合は、2012年:67.3%、2013年:59.6%、2014年:57.7%、2015年:41.0%、2016年:37.7%、2017年:46.8%、2020年:41.1%、2022年:37.0%であり、2015年以降は約4割の避難者がPTSDの可能性がある程の高いストレス状態での生活を続け、今に至っていることがわかる(付録図表No.13)。

 また、K6の調査を開始した2016年以降の13点以上の者の割合は、2016年:20.8%、2017年:21.7%、2018年:21.2%、2020年:18.1%、2022年:17.2%という結果であり、約2割の避難者が依然として抑うつ・不安障害を抱えている(付録図表No.14)。

ウ 日常生活を送るのが困難な避難者が今も多数存在

 PTSD症状として、侵入症状(フラッシュバック等)、回避症状(ストレス源を無意識的に避ける行動等)、過覚醒症状(神経過敏・不眠等)などを抱えながらも、4割の避難者のうち約半数はなんとか日常生活を送れている可能性はある。

 しかし、K6:13点以上と判定された約2割の避難者は、抑うつ・不安状態が強いため、何らかの生活上の支障をきたしている恐れがある。

 さらにK6:17点以上の約1割の避難者は、今すぐにでも何らかの医療的対応が必要とされる重症な精神状態だと考えられる。

 実際に、本調査で『電話での相談を希望する』にチェックした者が24名、『復興支援員の訪問を希望する』にチェックした者が10名であり、氏名や住所・電話番号などの連絡先を明記してきた避難者が全体で108名であった。このチェック項目は、現在の生活で解決しがたい様々な苦悩を抱えている人たちのSOSだと考えられ、震災支援ネットワーク埼玉(SSN)では速やかな心理的・社会的・法的支援を開始している。516名の回答者のうち108名ということは、20%を超える人びとが何らかのSOSを挙げていることになり、気分・不安障害調査票(K6)で医療的なケアが必要と考えられる17点以上の者が約8%いたこととあわせて推定すると、アンケートに回答していない者も含めて首都圏避難者約1万2,000人(全国の避難者数は約3万1000人。復興庁2022年12月13日発表・同年11月1日現在の「全国の避難者数」参照)のうち、約8%とすると最低1,000人、約20%とすると2,400人が何らかの支援を必要としている危機的な状況であることが推測できる。

⑵ 高いストレス状態の要因

ア 人為災害、その他の複合的要因

 国際的なストレス研究では、PTSD発症率は自然災害よりも人為災害 の方が高いことが明らかになっている。

 先行研究によると、PTSD症状が長期にわたって持続する理由として、人為災害の被害者に対する十分な救済が行われずに不透明な状況が長引いていることや、企業の法的責任が問われなかったこと、そして身体的な健康問題の増悪と生活全般の支障が持続していることが挙げられ、身体的・心理的・社会的・経済的な複合要因が指摘されている。

 これまでの調査のデータ分析においても、PTSD症状(IES-R)や抑うつ・不安障害(K6)に、次のような要因が関連していることが統計学的に明らかになっている。

 ①健康状態、②経済状況、③就労状況、④住宅環境、⑤住宅支援の打ち切り、⑥原発賠償の状況、⑦帰還をめぐる状況、⑧ふるさと喪失、⑨原発再稼働状況、⑩相談者の不在、⑪避難先近隣関係の問題、⑫地元の人びととの関係の問題、⑬避難者に対する偏見・差別やいじめ、⑭家族関係の悪化である。これらの身体的・心理的・社会的・経済的な複合要因によって、高いストレス状態が長期にわたって続いているものと考えられる。

 本年度の調査においても、PTSD症状に統計学的に有意な影響を与えている因子を、付録図表No.15〜17に示した。1.原発事故発生当初1週間死の恐怖を感じた(OR:2.13、p<0.005)、2.自身の津波被害(OR:7.47、p<0.001)、3.現在の経済状況の困難(OR:2.50、p<0.001)、4.コロナ禍による経済状況の悪化(OR:2.23、p<0.001)、5.現在の失業(OR:2.28、p<0.001)、6.住宅と環境の総合評価が低い(OR:2.07、p<0.001)、7.住宅提供または支援の打ち切りで困っている(OR:2.59、p<0.001)、8.原発賠償・補償問題に心配事がある(OR:4.53、p<0.001)、9.ふるさとを失ってつらい(OR:9.05、p<0.001)、10.悩み・気がかり・困ったことを相談するひとがいない(OR:2.45、p<0.001)、11.原発事故の避難者・被災者・被害者であることによって“いやな経験”をした(OR:4.06、p<0.001)、12.原発事故前と比べて家族関係が悪くなった(OR:2.66、p<0.01)、13.地元の自治体(市区町村など)への不信感がある(OR:2.65、p<0.001)が見いだされた。ここでは、カイ二乗検定に基づくオッズ(Odds)比をORで示した。オッズ比の数値が高いほど、影響力が強いことを示す。

イ PTSD症状の3大リスク要因

 特に、前述「ア」で示したカイ二乗検定で「PTSDの可能性」に有意に影響していた13項目のうち、どの因子が強く影響しているかを探るために、さらに多変量解析(多重ロジスティック回帰分析尤度比変数増減法)にて分析したところ、(1)賠償・補償問題の心配(OR:13.0 、p<0.05)、(2)現在の失業(OR:6.35、p<0.05)、(3)避難者としてのいやな経験 (OR:5.86、p<0.05) 、がPTSD症状の3大リスク要因であることが明らかとなった(付録図表No.18)。

 すなわち、(1)賠償・補償問題の心配がある者は、ない者と比較して13.0倍PTSDの可能性があるほどの高いストレス状態であった。同様に、(2)現在、失業している者は、失業していない者と比較して6.35倍高いストレス状態であり、(3)避難者としてのトラウマ体験があった者は、なかった者と比較して5.86倍高いストレス状態であった。例えば、賠償・補償の心配があり、かつ、現在、失業している者は、13.0×6.35=82.55倍、賠償・補償の心配があり、現在、失業しており、かつ、避難先でのトラウマ体験がある者は、13.0×6.35×5.86=483.74倍、これらがない者に比べ高いストレス状態にあるということであり、これらのリスク要因が複合的に存在する者は、複合的要因がない者と比較して、極めて高いストレス状態に置かれているということになる。

⑶ 引き続く原発避難者の苦難を直視した継続的・実効的支援

 このように、原発事故から11年以上が経過し、間もなく12年になろ うとしている現在もなお、原発避難者が深刻かつ危機的な状況に置かれ、その甚大な精神的苦痛が持続しており、2020年6月に要望した時から、状況は改善されていない。

 私たちは、再度、国及び福島県に対し、今も続く原発避難者の苦難を直視すること、今後、社会全体で、避難者の苦難を共有し、苦痛をなくしていく努力を永く積み重ねることを基本方針として確認すること、原発避難者に持続する被害が風化することのないよう努力を積み重ねること、その上で、上記の複合要因のうち、主要な要因を踏まえた以下の支援策をはじめとする継続的かつ実効的支援策を行うことを求める。

 健康状態悪化に対する支援

⑴ 国による医療費等の減免措置縮小方針の撤回

 国は、「被保険者間の公平性の観点から」、医療・介護保険等の保険料・窓口負担(利用者負担)の減免措置について、2022年度を周知期間とし、2023年度から順次、減免措置の縮小を実施する方針を打ち出している。

 しかしながら、2018年5月に公表された65歳以上が支払う介護保険料を見ると、最も保険料が高かったのが福島県葛尾村であり、高額上位10位の自治体に福島県内の自治体が7つも入っており、これは原発事故により避難を強いられ、農業に従事して労働ができなくなったことなど、生活環境が激変した影響であるとみるべきである。

 介護だけでなく医療についても、今回の調査結果(付録図表No.20)と前回の2019年12月から2020年3月に実施した調査(以下「前回調査」という)結果を比較すると、身体疾患のうち「持病の悪化」が認められた者は、46.1%から52.4%に増加しており、原発事故後、11年以上が経過する中で、「持病の悪化」が認められる者が5割を超えるまでに増加している。「原発事故後に新たな疾患を患った」者が63.6%であった。また、上記のとおりメンタル面においても、PTSDの可能性がある者が約4割にも及び、K6得点が17点以上の不安・抑うつ状態の者が約1割おり、今すぐにでも何らかの医療的対応が必要な者も少なくない状況である。

 長期化する避難生活における疾病の発症は、次のような苦難を引き起こしている。以下に、「健康状態の悪化」を示す自由記述回答を紹介する。

 「避難生活で持病が悪化して治療をしているのに、東京電力補償相談室の内部の医者の診断で(治療費の補償を)打ち切りにするのは変なことだ―中略―(自分の元々の)かかりつけ医師に面談をして(意見を聞いて)決めて欲しい。」(カッコ内は研究者が語りの内容を理解しやすくするために補ったものである)(50代男性、避難指示区域内、No.433)

 「前立腺がんの再発によりステージ4―中略―福島在住の時は毎月治療してましたが避難生活中は家族(安全)の事ばかりで油断しました。医療負担支援が終わらない事を祈ります。」(70代男性、避難指示解除区域、No.450)

 「右ひざを骨折し手術しました。その際、糖尿病と、心臓病が分かり-中略-心臓の手術を受けました。東京に住む息子二人に洗濯物などのお世話を頼みました。-中略-入院費以外に息子に渡した費用(交通費など)が15万かかりました。こういう出費は全て原発事故のせいで家を追い出されたせいと私は考えています。地元に居れば、叔母やイトコ達に頼めましたから。原発は大罪です。人びとの人生を狂わせてしまいました!」(70代女性、避難指示区域内、No.213)

 震災支援ネットワーク埼玉(SSN)の従前からの電話相談においても、原発事故により福島からの避難を強いられ、生活習慣の激変、住環境の悪化、人間関係の喪失・悪化、生業の喪失、生きがいの喪失、高齢化等により、医療・介護を必要とする避難者からの相談が続いてきた。

 このように、原発事故によって避難を余儀なくされたことに起因して、介護や医療を必要とする者が増加しているのであるから、国が何らの措置に出ないことこそ「公平性の観点から」問題であり、介護医療費等の減免措置は、原発被害者に対して行うべき最低限の補償というべきである。

 また、今回の調査結果では、経済的に困っていると回答した者が4割を超え、「医療費の負担を感じている」者が前回調査の31%から42.4%へと明らかに増加していることから、経済苦の中で、医療費の負担が生活を圧迫している状況があるといえることなどからも、減免措置縮小方針は撤回されるべきである。経済的困窮にコロナ禍が拍車をかけ、電気料金をはじめとする物価の急騰が続いている現状においては、なおさらである。

⑵ 避難元自治体と避難先自治体の連携不足による支援の壁の解消

 避難者の高齢化が進む中、要介護認定などに関する事務や養護老人ホーム等への入所措置に関する事務に関して、避難先自治体でサービスを受けられることを避難者が知らないということも依然として多く、仕事を抱えながら親の介護も行うために生活が困窮するといった事態も生じている。

 このように、避難元と避難先の自治体連携が不十分なために、避難者が避難先で必要な行政サービスを受けられないことが、健康悪化の要因となっているが、避難の長期化により、自治体間連携が、これまで以上に先細りしている。

 そこで、避難元自治体と避難先自治体との連携により、避難者に対する医療・介護等の福祉サービスの提供体制を強化する必要があり、そのために、①避難者が避難先自治体でも避難元と同等に市民サービスを受けることができるように避難元自治体をサポートすること、②避難生活を継続せざるを得ない状況で避難先に住民票を移していなくとも、避難先で市民サービスを受けることができるということを改めて徹底すること、③リスクの高い避難者情報を避難先自治体と共有し、避難先の地域包括支援センターなどが中心となって、避難先市民と同等のサービスを受けられるように体制を組むこと、④民間支援団体によるサポート体制を充実させ、そのための助成を行うこと、などが必要である。

⑶ 小児甲状腺がん検診及びフォローアップの継続的実施と、心理社会的サポートシステムの構築を

ア 甲状腺がん検診の継続と拡大を求める

 2022年調査では、甲状腺がん検診の期間や対象を「縮小しない方がよい」と回答した者が59.1%おり、「甲状腺がん検診のエリアを拡大し、福島県外で被ばくした可能性がある人にも無料で実施すべき」と考えている者が56.2%であった(付録図表No.21)。

 この背景には、子どもの将来の健康に対する心配があげられる。以下、自由記述回答を紹介する。

 「現在高校生の子供が将来、原発事故によるガンを発症しないか心配である」(50代女性、避難指示区域外、No.383)

 「子どもや自分が将来被爆の影響で病気になったり子どもが妊娠した時に孫に影響が出ないか心配」(50代女性、避難指示区域外、No.37web)

 「親はともかく、当時子どもだった世代以下には被爆者手帳を発行して、これから先の医療をしっかり受けさせてサポートしてほしい」(40代女性、避難指示区域外、No.33web)

イ 検診における身体的・精神的・社会的負担の軽減を求める

 これまでの福島県小児甲状腺がん検診では275名に甲状腺がんが発 見されている(2020年6月発表)。政府の見解によると、この現象は原発事故とは直接的な関係がなく、「それまで検査をしていなかった方々に対して一気に調査を行うと無症状で無自覚な病気や有所見“正常とは異なる検査結果”が高い頻度で見つかる(首相官邸)」“スクリーニング効果”によるものであるとされてきた。しかし本調査では、この見解に36.4%の者が「納得できない」と回答した(付録図表No.22)。そして、「甲状腺がん検診における身体的・精神的・社会的負担を軽減させる施策やケアが必要」だと回答した者が65.3%であった(付録図表No.22)。

 甲状腺がん検診は、個人の健康把握と早期発見・早期治療、そして被ばくによる甲状腺がんの発生頻度を疫学的に明らかにする目的で原則的に全員を対象に行われてきた。しかしながら、現在では学校での等しい検診の機会が失われ、希望者のみの検診に変容してきている。検診の縮小の根拠とされている『過剰診断』学説(高野,2019)は科学的根拠があるとは言えず、一部の医学者が主張しているに過ぎない。本来、放射性物質降下による土壌汚染は福島県内にとどまったものではなく、ひろく東日本全域に及んだものであり、甲状腺がん検診も福島県民に限定して行われるべきものではなかったと考えられる。本調査に認められる市民の意見として、検診のエリアを福島県外で被ばくした可能性のある希望者にも無償で受けられる機会を提供すべきと考える。

 小児甲状腺がん検診のフォローアップは、現在のところ20歳までは2年ごと、20歳以降は25歳・30歳等の5年ごとに行われることになっているが、30歳以降の実施については明示されていない。30歳以降も定期的に検診を行っていくことを市民が求めていることを理解し、適切に対応していただきたい。

 『過剰診断』学説を唱える医学者は、「県民健康調査の甲状腺がん検診では、治療の必要のないがんだけでなく、結節やのう胞などがたくさん発見されてしまうために、検査を受けた子どもや家族が、病気の原因・経過・予後・治療に関する無用な“精神的負担”を被り、さらには診断や治療によって就労上や恋愛や結婚などのライフイベントにおける不利益といった“社会的な影響”を受ける」と主張している(医学会新聞、2021)。

 「精神的負担」に対しては、結節やのう胞などが発見された場合の医学情報の開示と必要十分な説明を行い、当事者と保護者の十分な納得が得られるように、インフォームド・コンセントを十分に確保する努力がなされ、さらに検査後及び検査と検査の間の心理的サポートを十分に行えば、精神的負担も大きく軽減されるものと考えられる。現状では、甲状腺エコー検査の画像など、診断根拠の開示が十分になされているとは言えない。一回一回、当事者家族が医療機関に診療情報の開示請求を行わなければ、検査の詳細な情報が得られない状況は、かえって不安を増長させている検査体制だと言える。検査情報を医療機関に秘匿せず、開示請求を必要とせずに、検査後すぐに情報のすべてを市民に開示し手渡すルールを作れば、大きく精神的負担が軽減されるものと考えられる。

 2022年1月27日に、原発事故後に小児甲状腺がんを患った事故当時6歳から16歳であった7名の若者が、東京電力ホールディングス株式会社を提訴した。3名は甲状腺片葉切除、4名が甲状腺全摘出手術を受け、4名はRAI(radioactive iodine:放射性ヨウ素大量内服)治療を受けている。1名は極めて重症であり肺転移まで指摘されている。彼らは、大学を中退したり、就職した会社を退職したりせざるを得ない状況に追い込まれており、診断や治療によって得たライフイベントにおける不利益、すなわち「社会的な影響」は甚大である。彼らは、不必要な診断と治療を受けて不利益を被ったわけではない。診断と治療を受けることによって不利益を被るという社会の状況が問題なのであり、大学を辞めたり退職したりせずに済むような社会的サポートが必要とされているのである。「社会的な影響」が大きいからという理由をつけて、甲状腺がん検診そのものを縮小させる方針は本末転倒である。今後も、彼らが味わっているような苦悩を引き起こさないためにも、充実した検診システム、フォローアップシステム、心理社会的サポートシステムの構築が求められている。

⑷ 生涯にわたった健康支援システムの早急な確立を求める

 先に述べたように、今回の調査(付録図表No.20)では、身体疾患のうち「持病の悪化」が認められた者が46.1%から52.4%に増加しており、「原発事故後に新たな疾患を患った」者が62.6%から63.6%になっており、健康状態の悪化が認められる。

 自由記述にも、以下のような回答が認められ、特にがん検診の充実と、がんを患った場合の医療保障が求められる。

 「夫はガンとのことで関連死に該当することなく終りました。多分ガン死亡の方達は、皆さん該当しなかったのかな?と思うと、とても辛く、あの避難での苦労、焦り等はわからないと思う」(70代女性、避難指示区域内、No.241)

 「被災者の人には癌になっている人が多く3回も手術している人も多い、私もだが」(60代男性、避難指示区域内、No.115)

 「震災から11年、避難(9ヵ所)学校(転入転校3回)再就職にと本当に大変でした。心配な事は、子供達が将来、何かしら病気などの健康被害が出ないかという事。また私自身も2年前にガンが見つかり、震災から10年経過しても色々不安や心配が必ずある。気が晴れる事は震災から一度もない」(40代女性、避難指示解除区域、No.395)

4 経済的困難に対する支援:失業、住宅支援の打ち切り、不十分な賠償・補償問題への対応

⑴ 多くの避難者が経済的困難を抱えている

 『現在の経済状況』について、2020年調査では、「とても困っている」が12.2%、「少し困っている」が31.6%、あわせて4割以上が経済的困難な状況であった。今回の2022年調査においても、「とても困っている」が9.7%、「少し困っている」が34.1%で、あわせて4割以上の人びとが経済的困難を示しており(付録図表No.24)、避難者の多くが経済的困難を抱える状況が続いている。

 コロナ禍で実施した2022年調査では、「あなたの世帯の経済状況は、2020年以降のコロナ禍の影響を受けて悪化しましたか」という新たな質問項目を追加した。その回答では、「とても悪化した」が8.5%、「少し悪化した」が32.4%であり、あわせて約4割の人びとがコロナ禍の影響を受けて経済状況が悪化している状況が確認できた(付録図表No.24)。

 経済的困窮に影響している要因を分析すると、「現在の失業」(OR:2.32、p<0.001)、「賠償・補償の問題」(OR:6.24、p<0.001)、「住宅支援の打ち切りによる困難」(OR:7.80、p<0.001)、「コロナ禍による影響」(OR:8.22、p<0.001)が大きく影響していることが統計学的に明らかにされた(オッズ比ORは、カイ二乗検定による)。

 避難者は、原発事故により国内強制移動を余儀なくされ、避難前の住居からの移動を強いられ、居住地における仕事を喪失し、不十分な賠償・補償ゆえに経済的に不安定な状態におかれる中で住宅支援も打ち切られ、コロナ禍の到来が追い打ちをかけ、経済的な困窮へと追い込まれている状況がある。

 自由記述欄にも、以下のような回答が認められた。

 「コロナ問題と原発避難の二重苦に悩まされている。とても苦しい」(64歳男性、避難指示解除区域、No.429)

 「コロナで仕事を失ったけれど、同居家族に収入や年金がある為 都営住宅にも入れないし、国や都の援助もうけられず、他でお金を借りて生活しているので借金ばかりふえて、もう借りれる場所もなくなりそう」(62歳男性、避難指示区域外、No.10)

 「町会の人たちから無視されている。コロナで生活困難である」(62歳男性、避難指示区域外、No.7)

⑵ 「現在の失業」に対する支援

ア 極めて高い失業者の割合

 経済的困窮に影響する要因の1つである「現在の失業」については、2020年調査では、36.5%が「失業中(定年退職は除く)」と回答し、失業理由として、自営業を再開できない(失業中の者に占める割合15.1%)、年齢の条件が合わない(同11.0%)、病気を患っている(同11.0%)、働く意欲がわかない(同9.6%)」などの回答が多く認められたことなどから、私たちは、前回の要望書において、国に対し、実効的な就労支援策の実施などを要請した。

 しかし、2022年調査においても、『原発事故をきっかけに失業した』者が49.2%おり、そのうち『現在失業中(定年退職は除く)』(付録図表No.25)と回答した者は34.5%に及び、前回の36.5%と比較して状況の改善はみられない。現在失業中の者は、避難者の16.9%(49.2%×34.5%)であり、日本の完全失業率が2.6%(2022年平均)であるのと比較すると、極めて高い数値となっている。2022年調査の現在の失業理由をみても、自営業を再開できない(現在失業中の者に占める割合16.3%)、病気を患っている(同14.0%)、年齢の条件が合わない(同12.4%)、働く意欲がわかない(同5.6%)、子育てをしている(同5.1%)などの回答が認められ、前回と同様の状況が続いており、避難先での就業が困難な状況に対し、有効な対策が講じられないままとなっているといわざるを得ない(付録図表No.26)。

 震災支援ネットワーク埼玉(SSN)の日頃の活動によるヒアリングでも、福島の地元で何十年も続けてきた生業が絶たれたり、特に40代・50代の働き盛りの男性が避難先で新たな仕事を得られなかったりする例が目立っている。正社員としての採用がなく、警備員・清掃員・倉庫の仕分け作業など、これまでの仕事のキャリアが全く活かされない職にしか就けていない実態がみられる。

イ 避難先における実効的な就労支援

 失業は、収入の減少による経済的困難を招来するだけでなく、生きがいの喪失にもつながる。前述のとおり、現在、失業している者は、失業していない者と比較して6.35倍高いストレス状態にあり、現在の失業は、PTSD症状の3大リスク要因の1つとなっている。逆に、就労は、経済的状況を改善し、仕事を通して自己を実現し他者のためになっているという実感を醸成し、自己肯定感を高め、ストレスの軽減に大きく寄与する。

 まずは、避難者の失業の実態を調査し、従前の就労支援策の問題点を検証の上、避難先において、従前のキャリアを活かした仕事への就労支援、それが困難な場合でも、新たな職種への就労が可能となるよう、無料の職業教育や、専門学校・大学等で無料で学び直しができるよう必要な費用を補助するなど、実効的な就労支援の提供を要望する。

 また、避難前、福島県内において農業を営んでいた避難者も多いことから、経済的支援のみならず生きがい創出の観点から、田畑の無料貸与(賃貸料を県や自治体が負担)を行うことを求める。

⑶ 住宅支援の打切り撤回と住宅支援の再開等

 前述のとおり、「住宅支援の打ち切りによる困難」が経済的困窮に影響している。

ア 住宅支援打ち切りの状況

 住宅支援の打ち切りについては、まず、避難指示区域外の住民に対する借り上げ住宅等の提供が2017年3月で打ち切られた。2019年3月には、避難区域であった南相馬市、浪江町、川俣町、葛尾村、飯舘村からの避難者約2,200世帯の仮設住宅・借り上げ住宅の提供が打ち切られた。さらに、2020年3月には、双葉町と大熊町を除く帰還困難区域からの避難者2,700世帯への住宅提供も打ち切られてしまった。

 イ 住宅支援の打ち切りに困っている避難者が多く、経済的・精神的に追い詰められていること

 2020年調査では「借家-借り上げ住宅」に居住していた者が14.4%であった。これに対し、2022年調査では「借家-借り上げ住宅」に居住している者が2.7%へと顕著に減少し、「借家-民間の賃貸」が12.8%となっており、「借り上げ住宅」に居住していた者の多くが、現在は「民間の賃貸」住宅に転居せざるを得なかったことを示している(付録図表No.27)。

 本調査では、『原発事故前の住宅』について質問しているが、そこでは80.4%の世帯が「持ち家」であった。しかし、現在の「持ち家」率は66.8%であり、13.5%の人びとが家を失ったことがわかる。これは、家族が離れ離れに避難生活を送らなければならない世帯分離によるものと、原発事故後に新しい持ち家の取得が困難な世帯が増加した可能性を示している。本調査の回答者は約4割が「すでに移住した」(付録図表No.57)と回答しているが、借り上げ仮設住宅に生活している時期に別々の生活拠点をもって生活を始めた分離世帯は、簡単に自宅を建造したからといって同居できるわけではない。また、「避難を継続中」(付録図表No.57)と回答した約5割の世帯は、将来、帰還する可能性や移住する可能性があり、現在のところ安心して定住できるような状態とは言えない。

 『住宅支援の打ち切りについて』「とても困っている」が20.2%、「少し困っている」が24.4%であり、あわせて44.6%もの者が住宅支援の打ち切りで困っていると回答している(付録図表No.28)。

 上記のとおり、『住宅支援の打ち切りによる困難』が「ある」と回答した者は、「ない」と回答した者と比較すると、打ち切りによる困難が「ある」と回答した者の方が、経済的な苦しさを訴える者が7.8倍も多く、また、PTSDの可能性がある者が2.59倍も多い。『現在の経済状況の困難』が「ある」と回答した者は「ない」と回答した者に比べPTSDの可能性がある者が2.50倍に上ることなども考慮すると、住宅支援の打ち切りによって、多くの避難者が経済的にも精神的にも追い詰められている状況にある。

ウ 打ち切り後の状況調査と住宅支援の再開等

 まずは、住宅支援を打ち切られた後の生活状況等を調査し、実情を踏まえた適切な支援策の実行が必要である。

 特に、住宅支援の打ち切りについては、打ち切り方針を撤回し、住宅支援施策を再開すべきであり、また、打ち切り施策を前提とした福島県による避難者に対する立退き訴訟は、明らかに「非人道的」であるから、直ちに中止すべきである。国連の国内避難民人権特別報告者のセシリア・ヒメネス・ダマリー氏も、調査終了報告書において、「政府は、特に脆弱な立場にあるIDPs(国内避難民)に対して移住先を問わず住宅支援策を再開することが推奨される」と述べている。

⑷ 賠償・補償問題に対する支援-国の責任による十分な賠償・補償の実現

 経済的困窮に大きく影響している要因に、「現在の失業」、「住宅支援の打ち切りによる困難」とともに、「賠償・補償の問題」がある。

 『原発事故に対する賠償や補償問題についての心配事がありますか』という質問に対して、「はい」と回答した者が、2020年調査では62.8%おり、2022年調査では56.8%であり、前回も今回も6割前後の者が、賠償・補償問題について心配事があると回答している(付録図表No.29)。上記のとおり、現在、賠償・補償問題の心配事がある者は、ない者と比較して13.0倍高いストレス状態にあり、賠償・補償問題の心配事はPTSD症状の3大リスク要因の1つとなっている。

 賠償・補償問題に関連した自由記述を以下に紹介する。

 「移住と避難で全財産に近い物が無くなり、老後の生活が見えない」(60代男性、避難指示区域外、No.369)

 「避難前の仕事は常勤→厚生年金+社会保険。現在非常勤→国民年金+国保。国保は現在免除されているがこの先国保料を支払うとなると今の収入では苦しい。生活がやっていけるか?その辺の賠償を国、東電はどう考えているのだろうか?」(50代男性、避難指示区域内、No.31)

 「実家に住んでいたのにもかかわらず、生活水準が満たないと東電に言われて、実家にいたことが認められなかった。(借家に住民票。借家も避難指示区域内)節約して生活していたのがあだになったとしか言えない。そのため、自分の名義なのに、避難先で買った家の差額分とかの補償がない」(50代女性、避難指示区域内、No.454)

 「震災時、持ち家、住民登録であるが、単身赴任であったことから精神的損害の対象外となった」(40代男性、避難指示区域内、No.94)

 「賠償終了なのはおかしい。あれだけまだ帰れない場所があるのに終わりなのはおかしい。最後までやるべきです。私たちは家やいろんなものをうばわれたのだから、あれだけで終わらせていいのかちゃんと考えるべきです」(30代男性、避難指示区域内、No.28)

 「家具(和ダンス、洋服ダンス、机、椅子、小タンス、本棚3個、リビングテーブル、椅子4個、大中飾り棚、スチール製二段棚2個、-中略-岩波全集世界史、日本史、谷崎の源氏物語全集、辞典2,美術館に行った時の本50冊くらい、茶道辞書、茶花本と花の生け方、裏千家の教本、昭和45年からの月刊誌他、全部置いて来ました。運送屋さんは¥30,000値引きしてくれましたが、私には入らず東電の方に入りました)」(80代女性、避難指示解除区域、No.444)

ア 未請求者・未請求項目と国による調査及び損害の填補

 賠償・補償問題の質問項目のうち、『これまでに行った損害賠償請求』について「一部しかできていない」と回答した者は、2020年調査では27.9%、2022年調査では23.3%である(付録図表No.30)。

 2022年の調査で『未請求となっている損害賠償項目』のうち回答者が多かった項目は、「財物損害(宅地・建物・家財)」が42.5%、「精神的損害(含む入通院慰謝料)」が37.5%、「ふるさと喪失慰謝料」が35.8%、「生活費増加分」が28.3%、「避難の移動費用」が27.5%、「住宅確保損害(宅地・住宅)」が27.5%、「避難中の宿泊・謝礼・賃料」が25.8%であった(付録図表No.31)。

 原発事故後11年が経過しても、損害賠償請求が一部しかできていない者が4人に1人も存在するという事実は、原発事故によって強制移動をさせられ、心身の不調を抱えた者や高齢者も多い避難者に、各自の自己責任で損害賠償の請求手続をさせるという制度設計が、そもそも不合理であったことを示しており、以下の自由記述にもみられるような賠償格差を生む要因にもなっている。

 「人によって、損害賠償が違っているのは納得いかない。言った者勝ちになっている」(60代男性、避難指示解除区域、No.422)

 そこで、国に対し、住民登録、東京電力からの情報開示、避難者への聴き取り調査等により、損害賠償未請求の状況を把握し、被災者の請求を前提とせず、漏れなく損害を填補する方策を講じることを求める。

イ ふるさと喪失・変容慰謝料の抜本的拡大

 賠償・補償の問題に関連して、『地元を失った気持ちの強さ』についての質問に対し、「とてもつらい」と回答した者は、2020年調査で44.6%、2022年調査で39.3%、「つらい」と回答した者が2020年調査では26.8%、2022年調査では29.5%であり(付録図表No.32)、あわせて約7割の方たちが、ふるさと喪失に苦悩している。

 『地元(ふるさと)で失われたと感じるもの』について尋ねたところ、「家」が72.1%、「知人・友人の交友関係」が66.7%、「家財」が64.9%、「近隣関係」が59.9%、「生活の場」が48.8%、「自然・風土」が46.3%、「土地」が44.2%、「生きがい」が43.0%、「先祖代々住んできた地域」が39.7%、「人生」が39.1%、「家族関係」が37.8%、「仕事」が33.9%、「地域の文化・伝統」が31.2%、「農地」が27.9%、「将来の夢」が26.6%、「墓地」が25.6%、「山林」が23.4%などの回答が得られた(付録図表No.33)。

 自由記述欄にも、以下のような回答が認められた。

 「原発事故がなかったら放射能も広がらず津波の後片付けで今頃はきれいに元の自然になっていると思う」(性別・年代不明、避難解除区域、No.192)

 「10年経過しても、精神的な問題は解決されていません。生まれてずっと住んでいた場所は原発事故によってうばわれました」(50代女性、避難指示解除区域、No.360)

 「故郷が懐かしく、山も海もあり緑いっぱいの田んぼのある故郷に、のんびり暮らして過ごしたいと常に思い出します」(80代歳女性、避難指示区域内、No.223)

 「現行の賠償指針は事故後早い時期に定められたもので、時間の経過や復興の状況等による見直しがなされていない。-中略-現実は解除されても簡単には復興できない避難が長期化している。」(60代男性、避難指示解除区域、No.157)

 原発事故により、人と人との結びつき、人と自然との関係性が解体され、人間が日々年々の営みを通じてつくりあげてきた家屋、農地などの私的資産、各種インフラなどの基礎的条件、経済的・社会的諸関係、環境や自然資源など、人びとは、日常生活と生業を営むために必要なあらゆる条件を奪われ、他に代えがたい固有の価値を持っていた地域の価値を奪われたものといえる(除本、2022)。

 この点は、区域外避難者も同様であり、私たちの2015年調査では、600名を超える区域外避難者の回答があり、分析の結果、区域外避難者は区域内避難者と同等の「ふるさと喪失感」を抱いていることが明らかになっている(辻内、2016)。さらに、避難指示が解除され既に帰還できたとしても、元の地域にあった生産・生活の諸条件は著しく変貌しており、人間活動の蓄積と成果の喪失、社会関係の破壊の不可逆性、生活経済と密着した自然環境の破壊の不可逆性は明らかである。

 セシリア・ヒメネス・ダマリー氏の調査終了報告書においても、「IDPs(避難民)は、強制避難か自主避難かを問わず全員が国内避難民であり、…実際に支援や援助を受ける上での強制避難や自主避難の区別は取り除くべきである。人道的な保護や支援は権利やニーズに基づくべきであり、国際人権法に基づかないステータスを基にした区別で決めてはならない。」としている。

 自由記述欄には、賠償格差の是正を求める、以下のような回答が認められた。

 「10年経過しても、精神的な問題は解決されていません。生まれて ずっと住んでいた場所は原発事故によってうばわれました。同じ原発被害者にもかかわらず、双葉、大熊の住民との賠償格差は納得できません。私達にもふるさと喪失賠償をすべきだと思います」(50代女性、避難指示解除区域、No.360)

 「家屋などの賠償は100%~75%が区域区分で定められていたり、精神賠償にも差がつけられている。しかし、現実は(避難指示)解除されても簡単に復興はできない」(60代男性、避難指示解除区域、No.157)

 「帰還(困難)区域と違って賠償金が違うこと、一本の線で区域を決めることでなく町全体の線量測定できめてほしい」(50代男性、避難指示解除区域、No.433)

 そこで、区域外避難者及び避難指示解除後に帰還できた者等に対し ても、「日常生活と生業を営むために必要なあらゆる条件を奪われ、他に代えがたい固有の価値を持っていた地域の価値を奪われた」ことなど、ふるさと喪失・変容の内実を正しく捉えた十分な賠償を行うことを求める。

 2022年12月20日に公表された中間指針第5次追補(集団訴訟の確定判決等を踏まえた指針の見直しについて)は、「生活基盤喪失・変容による精神的損額」項目を明示したことは評価できる。しかし、帰還困難区域等につき生活基盤喪失慰謝料1人700万円、居住制限区域及び避難指示解除準備区域について生活基盤変容慰謝料1人250万円、緊急時避難準備区域について生活基盤変容慰謝料1人50万円を目安とするにとどまっており、不可逆的かつ代替不能な絶対的損失であるふるさと喪失・変容の実相を的確に捉えたものとはいえず、区域外避難者等も除外されており対象が狭く、賠償額としても低額にすぎるといわざるを得ず、不可逆的かつ代替不能な絶対的損失であるふるさと喪失・変容の実相を的確に捉えたものとはいえないことから、対象者及び賠償水準の抜本的拡大を求める。

ウ 責任の所在の明確化による苦痛の軽減、不十分な賠償水準の底上げ

 支払われた賠償額については、「不十分な額だ」との回答が、2020年調査では57.5%、2022年調査では47.7%である(付録図表No.34)。これまでに賠償の対象となっていなかった人びとも含めて回答できるように設けた『今後どのような損害賠償が認められるべきだと考えますか』という質問に対する回答は、「精神的慰謝料」56.8%、「ふるさと喪失慰謝料適応範囲の拡大」46.7%、「医療費」40.1%、「生活費増加分」30.6%、「家賃補助の継続・再開」21.3%、「財物損害」21.1%、「就労不能損害」14.0%、「営業損害」11.4%、「その他」11.8%であった(付録図表No.35)。

 このような回答内容からもわかるように、中間指針等で示された損害額の水準は、被害者自身が経験した被害実態とはかけ離れている。また、本要望書「2.原発避難者の深刻かつ危機的な状況とその要因」の部分で述べたとおり、先行研究では、人為災害における不十分な救済や不明瞭な責任の所在が、被害者を長期にわたって苦しめていることが指摘されている。

 自由記述にも、「国が決めた原発なんだから事故に対してしっかりと補償するべきです」(40代女性、避難指示区域外、No.53web)との声がある。

 2022年6月17日、最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)は、国の責任を否定する判断をしたが、国が責任逃れの対応を続け、司法があるべき役割を果たせていないことが、今も続く被災者の苦痛を生み出している。

 国は、原発事故を発生させて避難者の甚大な苦痛を惹起した責任を正面から認め、損害賠償の水準を底上げし、速やかで十分な被害者救済を行うべきである。

エ 消滅時効期間の延長

 上記のように、原発事故後11年が経過しても損害賠償請求が一部しかできていない者が4人に1人存在し、また、『原発事故から10年となる2021年3月以降、損害賠償請求権が時効によって消滅し請求できなくなる可能性について』、「知らない」と回答した者が64.5%であった(付録図表No.36)。さらに、『損害賠償請求権が消滅しないようにするため、10年の時効期間を延長する法改正について』、「必要だと思う」が77.3%であった(付録図表No.36)。

 自由記述欄にも、以下のような回答が認められた。

 「東京電力への損害賠償請求権を消滅させないでください。まだ未請求の損害賠償も残っています。原発災害は終わりがなく継続している」(70代女性、避難指示区域内、No.256)

 東京電力は、プレスリリースにおいて、「時効の完成をもって一律に賠償請求をお断りすることは考えておらず、時効完成後も、ご請求者さまの個別のご事情を踏まえ、消滅時効に関して柔軟な対応を行わせていただきたいと考えております。」などと表明してはいるものの、時効援用の可能性を残した表現となっている。

 未だに、損害賠償請求が未了の者が少なくなく、6割以上の者が損害賠償請求権が時効消滅することを知らない状況があることから、原発事故から10年以上経過した後であっても損害賠償請求権が時効により消滅しないことを法的に明確にするため、損害賠償請求権の時効期間を延長する法改正を行うことを求める。

5 喫緊の孤立防止策と地元及び避難先地域におけるコミュニティ育成の支援

⑴ 避難者の追い込まれた孤立と高い孤独感

ア 高いUCLA孤独感尺度の得点

 孤独感(loneliness)は、①個人の社会的関係の欠如に起因すること、②主観的な状態・体験であること、③不快で苦痛を伴う体験であること、の3つの要素によって国際的に定義されている。

 本調査で使用した孤独感を測定する国際標準として使用されている20項目からなる『日本語版UCLA孤独感尺度』(付録図表No.38)を使用した。UCLA孤独感尺度(University of California, Los Angeles Loneliness Scale)は、1978年にRussellが開発した自記式孤独感尺度である。日本語版は1996年に開発された第3版をもとに、舛田ら(2012)によって作成され信頼性と妥当性が確認されている。尺度は全20項目からなり、日頃どのくらいの頻度で感じているかを「1.決してない」、「2.ほとんどない」、「3.時々ある」、「4.常にある」の4件法で尋ねており、最低点20点から最高点80点となり、得点が高いほど孤独感が強いことを意味し、「28点未満」は孤独感が低く、「44点以上」は孤独感が高いとされている(舛田ら、2012)。本調査の結果は、平均が47.13点であり、孤独感が高い状況が示された。

 先行研究と比較すると、A政令市B行政区在住65歳以上の、一般の地域在住高齢者1,000名を対象とした日本の調査では平均が42.2点であったと報告されている(舛田ら、2012)。ソーシャルサポートを受けやすい環境にある(比較的健康な)、近畿圏A市のシニアカレッジに通う50歳以上の男女326名の調査では、平均38.47±9.67点であった(豊島ら、2013)。同様に、新興住宅地に住み、自治型福祉NPO団体に所属する平均年齢81.7歳の主に後期高齢者108名を対象にした調査では、平均34.3点であった(根来、2021)。

 一方、高齢者を在宅で介護している65歳以上の介護者313名を対象にした調査では、全体の平均は38.8点であったが、そのなかでも、地域活動に参加していない群の平均は41.1点、家族の支援に不満足な群は45.1点、近隣の支援に不満足な群は43.2点、相談できる専門職がいない群は48.8点と高値を示した(永井ら、2016)。

 これらの先行研究と比較すると、本調査の結果平均47.13点から、原発事故被害者の孤独感がとても高いと判断できる。

イ 避難先地域における孤立

 『現在居住する地域の友人知人との付き合い』(付録図表No.39)に 関しては、2020年調査で、「まったくない」が14.9%、「滅多にない」が23.0%であった。2022年調査では「まったくない」が15.1%、「滅多にない」が23.8%でほぼ変わりなく、あわせて約4割の人びとが、避難先での人間関係の構築に困難を抱えている。

 2020年調査では、『自分が独りだと感じることがありますか』という設問には、「とてもそう思う」が13.7%、「ややそう思う」が25.3%で、あわせて約4割の避難者が孤独感を抱えており、また、『ご自分の家庭が近所から孤立していると感じますか』という設問には、「とてもそう思う」が5.6%、「ややそう思う」が17.2%と2割以上の家庭が孤立感を抱えていることが判明した。

 2022年調査では、2020年と多少設問文が異なるものの、『自分はひとりぼっちだと感じることがありますか』(付録図表No.40)という設問に対して「常にある」が6.6%、「ときどきある」が30.4%であり、また『自分は他の人たちから孤立していると感じることはありますか』(付録図表No.40)に対しては「常にある」が8.1%、「ときどきある」が31.0%と4割近くの避難者が孤独感・孤立感を感じていることがわかった。

ウ 相談者の不在

 このような社会的孤立に対する相談者の不在が明らかになった。 UCLA孤独感尺度の先行研究において、家族や近隣の支援が行き届いていない群よりも、さらに相談できる専門職がいない群が48.8点という高い孤独感を示していたことが明らかになっている。

 本調査では、『あなたは、悩み・気がかり・困ったことを、どなたかに相談できていますか』(付録図表No.41)という設問に対して、「いいえ」と回答した人、すなわち「相談者がいない」人が33.7%であることも判明した。“悩み・気がかり・困ったことを相談するひとがいない”人は、“いる”人と比較して、PTSDの可能性が2.45倍高いことも示されている。相談者の不在は、地域社会での孤立を深めていることが予測される。

エ 専門家による多領域協働支援の構築と復興支援員の活動継続・拡大を

 これまでに述べてきたように、原発避難者には、①健康状態、②経済状況、③就労状況、④住宅環境、⑤住宅支援の打ち切り、⑥原発賠償の状況、⑦帰還をめぐる状況、⑧ふるさと喪失、⑨原発再稼働状況、⑩相談者の不在、⑪避難先近隣関係の問題、⑫地元の人びととの関係の問題、⑬避難者に対する偏見・差別やいじめ、⑭家族関係の悪化、といった身体的・心理的・社会的・経済的な複合要因が絡み合っている状況が認められる。

 従来の支援は、健康面の相談に対しては保健師・看護師・医師、心理面での相談に対しては臨床心理士・公認心理士(カウンセラー)、社会面・経済面の相談に対しては社会福祉士(ソーシャルワーカー)と、法的な問題に対しては法テラス等というように、領域別の対応が主であった。しかし、原発事故避難における現実的な問題は、上記の①〜⑭が個人に混在しているため、領域別では対応しきれないことが理解できるであろう。

 震災支援ネットワーク埼玉(SSN)を含む、原発避難者支援団体の多くは、複数の場所や担当に分散していた関連する手続きやサービスなどを1ヵ所でまとめて提供するワンストップサービス「なんでも相談」の構築を目指して努力してきた。医療者・臨床心理士・社会福祉士・司法書士・弁護士による協働支援体制である。高齢者介護の領域では、現在、「地域包括支援センター」がその役割を担っており、2005年の介護保険制度の見直しに伴って整備され、人口2〜3万人に1か所、または中学校区を目安に設置されている。この地域包括支援センターに準じた、災害被災者支援センターの整備が必要だと考えられる。

 原発避難者を含む東日本大震災後の被災者の複合的問題に対応できる公的機関としては、総務省が2012年に設置した「復興支援員」制度が挙げられるだろう。復興支援員は、被災者の見守りやケア、地域おこし活動などの復興に伴う地域協力活動を通じて、コミュニティ再構築を図る目的で作られた。この復興支援員は、被災地方公共団体である9県227市町村を実施主体としており、第2期復興・再生期間である令和3(2021)年から令和7(2025)年までとなっている。2021年の総務省では、岩手県・宮城県・福島県の3県17市町村で199名の復興支援員がいることが公表されている。その内訳は、福島県の県事業で70名、相馬市4名、田村市7名、南相馬市9名、楢葉町4名、富岡町8名、大熊町2名、双葉町10名、浪江町11名、葛尾村5名、新地町3名である。それぞれの自治体によって、活動内容は異なるが、避難先での交流会の運営など町民同士のつながりをサポートする活動は共通している。現行の活動は、それぞれにとても意義深いものではあり、2025年(残り2年)で打ち切りをせずに、さらに20〜30年の継続が強く求められる。

 なぜならば、本調査でも明らかになったように、原発避難者の社会的孤立は2022年時点でも依然として深刻だからである。復興支援員等が主催している各地の交流会に参加できている避難者に対しては、現行の仕組みである程度のサポートが可能であろう。UCLA孤独感尺度の先行研究で紹介したように、シニアカレッジや自治型福祉NPO法人に参加している人びとの孤独感が低いことが確認されているように、交流会を継続させられる予算の確保が強く求められる。また、交流会に参加できない避難者への支援が大きな課題であろう。復興支援員を配置している自治体の中で、富岡町は県外避難者への個別訪問に力を入れてきた。関東近辺だけでなく全国各地に散らばって避難している一人ひとりの自宅への訪問を8名で行っていくことは至難の業であった。福祉や精神医療の領域でも、現在はアウトリーチ(個別訪問)の重要性が指摘されており、社会的孤立者を発見し、適切な社会資源につなげるためにアウトリーチは不可欠な活動である。孤独死等を防止するため、避難先自治体の行政職員、社会福祉協議会職員等との連携、戸別訪問等により、生活困窮者を早期に発見して必要な生活支援を行うことが重要である。したがって、現行の各自治体復興支援員の活動に、個別訪問活動を追加できるような予算の配置を要請したい。

 東日本大震災後のワンストップサービスとして、2011年当時の厚生労働省と復興庁の補助金を受けて『よりそいホットライン』が開設された。現在も「さまざまな災害に被災された方」を対象とした被災者支援専用フリーダイヤルによる電話相談が実施されている。避難者全員に知らせるこの事業の広報を国が率先して行うこと、心理的支援・福祉的支援・法的支援を行なえる専門家の配置を行うこと、そして、今後さまざまな災害が予測される日本社会において必須の支援であるため、単年度予算ではなくひとつ上のレベルの常設の公的支援センターにするように要望したい。

⑵ 避難者に対する差別・偏見による孤立、避難による人間関係の喪失

ア 避難者であることによるいやな経験、いじめ

 2020年の調査では、『避難者であることでいやな経験をしたことがあ りますか』という質問に、「よくある」8.4%、「少しある」37.6%、あわせて半数近い者が、避難者であるということによるいやな経験をしている。このうち、24.7%が「現在も続いている」と回答していた。また、『お子さんがいじめにあったことがありますか』という設問に、16.7%が「はい」と回答している。

 今回の調査(付録図表No.42)では、『避難者であることでいやな経験をしたことがありますか』(過去形の質問に変更)という質問に、「よくあった」17.4%、「少しあった」30.4%、あわせて半数近い者が、避難者であるということによるいやな経験をしていた。このうち、24.7%が「現在も続いている」と回答している(付録図表No.42)。

 この心理的トラウマとも言えるような『いやな経験』の具体的な内容(付録図表No.43)は、「直接的な悪口・誹謗中傷」が38.1%、「からかい」が23.9%、「無視」が23.5%、「仲間はずれ」17.8%、「いやなことをさせられる」が8.5%、「物を壊される」が8.5%、「SNS・メール・ネットなどによる誹謗中傷」が7.7%であった。この『いやな経験は、どのようなことと関係があったとも思いますか』(付録図表No.44)という質問に対する回答で多かったものは、「避難者であること」が68.8%、「賠償金に関すること」が61.9%、「原発に関すること」が36.0%、「放射能に関すること」が35.6%であった。

 自由記述欄にも、以下のような回答が認められた。

 「生活や仕事では、被災者というレッテルで、賠償もらっている のだからといわれ働く事ないだろうとか-中略-時間外の仕事をさせられ帰りはいつも、最後になる。又、近所の付き合いもなく無視されて、いじめにあっているような感じになります」(50代男性、避難指示解除区域、No.433)

 「アパートやタクシーの方まで避難民だから、とはっきり言われた」(70代女性、避難指示区域内、No.241)

 「震災から11年経った今も近隣から無視されたり、いたずらや嫌がらせをされたりしている。数年前からもポストから郵便物が何度も盗まれる・外に置いてあるゴミ箱まで見られる・表札のネームプレートをねじ曲げられたり、スコップで叩かれたりして壊される-中略-福島へ帰れと言われたこともある・隣の同級生の子から下校中、足をかけられて転ばされたり、押されたりして膝にケガをして病院に行ったが一言の謝りの言葉もない。隣の子とは遊ぶなと言われているらしく、庭先で顔が合うと親が呼んで家の中へ入ってしまう。-中略-好き好んで被災者になった訳ではない」(60代男性、避難指示区域内、No.115)

 「いわきナンバーの車だといたずらにあう」(50代男性、避難指示解除区域、No.433)

イ 賠償金、放射能に関連する原発避難者への偏見・差別

 私たちは、2017年に、『子どもの原発避難いじめと大人社会のいじめ』について詳細な調査を行った。その調査においても、『子どもが原発避難を理由に学校でいじめを受けたことがある』に「はい」と回答した者が約7%で、『原発避難に関連することで、心ない言葉をかけられたり、精神的な苦痛を感じることをされたりしたことがありますか』という設問に約46%の者が「はい」と回答していた。この2017年の調査からは、マスコミの注目度が高かった子ども社会のいじめの背景には、大人社会の原発避難に対する偏見や差別が広がっていることが確認された。さらに、大人社会の偏見や差別は、83%が「賠償金に関すること」、37%が「放射能に関すること」と関連していることが明らかになっている。

 自由記述欄にも、以下のような回答が認められた。

 「原発事故後、約11年経過しようとしているが、現在移住先でも福島県出身ということは話せず。-中略-いまだに放浪しているような気がする。過去に偏見や差別を受けているので、絶対に話せないと思う。同じ立場を経験した者同士しか、分かり合えないのではないだろうか?」(50代女性、避難指示区域内、No.26)

 「地元が福島だというのがすごく怖い(言った事で白い目で見られる。言動が変化する)」(60代男性、避難指示解除区域、No.115)

 「福島県内に避難している両親-中略-人間関係が心配で、あいさつしても無視されたりと、元々住んでいた人からの目が厳しい。近隣の人が無言でこちらを見つめ、監視していて気持ちが悪い。本当ならば県外に住んで欲しい」(30代女性、避難指示区域内、No.255)

ウ 避難者であることを隠す生活

 2020年の調査では、『避難のことを避難先の地域の人に話すことに抵抗がありますか』という設問に対して、「よくある」が24.7%、「少しある」が18.1%と、あわせて4割以上の者が「抵抗がある」と回答している。本調査(付録図表No.45)では、『避難のことを避難先の地域の人に話すことに抵抗がありますか』という設問に対して、「抵抗がある」が21.6%、「どちらかというと抵抗がある」が32.1%と、あわせて5割以上の者が「抵抗がある」と回答している。これらのデータは、避難先でいやな経験を避けるために、避難者であることを隠して生活している者が多数いることを示している。

エ 家族の人間関係の悪化

 本調査では、『原発事故をきっかけに、離れて暮らすようになった家族はいますか』(付録図表No.46)という設問に対して、「はい」と回答した者が29.1%であった。

 また、これまでの避難生活の中で、『母子避難または父子避難の経験』をした世帯は、「過去に経験した」が13.0%、「現在も継続中である」が5.8%存在した(付録図表No.46)。避難を経験した97世帯の避難期間の内訳は、「約11年」と現在も継続している世帯が最も多く18.6%、「約2年」が12.4%、「約1ヶ月」が9.3%、「約3ヶ月」が9.3%であった(付録図表No.47)。『母子避難または父子避難中の苦労』の内訳は、「経済的に苦しかった」が41.2%、「精神的に不安定になった」が38.1%、「孤独を感じた」が26.8%、「相談相手がいなかった」が20.6%、「子育てに苦労した」が18.6%、「夫婦の関係性が悪化した」が18.6%であった(付録図表No.48)。

 原発事故は、特に放射線の影響を強く受ける子ども守るために長距離避難せざるを得ない状況を作り出した。就業などの経済的理由から、世帯分離せざるを得ない状況は、その後の家族の人間関係に大きな影響を与えたものと考えられる。

 『ご家族との関係は、原発事故前と比べてどのように変化したと感じますか』という質問に対する回答は、「変わらない」が最も多く63.7%であったが、「良くなった」6.6%、「やや良くなった」7.4%であり、「悪くなった」5.6%、「やや悪くなった」16.8%であった(付録図表No.49)。良くなったのが合計14.0%であるのに対し、悪くなった方が合計22.4%と多かった。冒頭にも述べたように、家族関係が悪化した者は、悪化していない者と比べて2.66倍有意にPTSDの可能性が高かった(付録図表No.17)。

オ 親族との人間関係の喪失

 さらに、『現在の親戚・親類との付き合い』(付録図表No.50)に関しても、「まったくない」が2020年調査では6.6%、2022年調査では9.5%、「滅多にない」が2020年調査では26.3%、2022年調査では29.7%であり、あわせて3〜4割の人びとが、親族との人間関係を保てていないことが示されている。避難先の人間関係だけでなく、地元や親族との人間関係の維持が、原発事故による避難生活では極めて困難な状況が確認できる。全国各地に各世帯がバラバラに避難を強いられたこと、遠距離の避難であること、長期にわたる避難であることなどが津波や地震による避難とは質が異なると考えられる。

 自由記述欄にも、以下のような回答が認められた。

 「両親と離れて暮らすことになったので、介護や日々の生活、お墓など将来的な不安」(30代男性、避難指示区域外、No.494)

 「関西に避難してすぐに母がエコノミー症候群にて入院、三度 目の転院先にて死亡。49日後遺骨を抱き福島に転居、間もなく夫が体調崩して県立医大に入院(ガンで死亡)-中略-今は学校、家庭、仕事等の都合でたった6人の家族が4世帯に別れて生活している」(70代女性、避難指示区域内、No.241)

 「母の名義になっていたので弟妹と賠償の分配でもめている」(70代男性、避難指示区域内、No.446)

 「避難する時に挨拶に行った本家で『国が大丈夫って言ってるのにお前は頭がおかしい!』『故郷を捨てるのか?親を捨てるのか?』等と散々なじられ怒鳴られたことがトラウマになり、今でも親戚や避難元の友人には原発避難とは言えてません。そのせいで親戚や友人とは付き合えなくなりました」(50代女性、避難指示区域外、No.68web)

 「孫が、都会の学校に馴染めずとても苦労し、友達もできず-中略-自営業で息子も一緒に働いていましたが-中略-別の職業に就いてしまいました。3.11がなかったら、家族仲良く、隣に気兼ねもなく暮らせたのに、人生狂ってしまいました」(80代歳女性、避難指示区域内、No.223)

カ 離婚

 本調査では、『現在の婚姻状況』(付録図表No.51)について確認したところ、「未婚」9.5%、「婚姻中」54.5%、「別居」2.5%、「離婚」7.8%、「死別」16.3%、であった。原発事故を原因とした離婚については、これまでにも多数事例報告は認められてきたが、調査データは存在しない。厚生労働省が公表している「人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、2021年の1年間における婚姻件数が約50万組であるのに対して、離婚件数は約18万件だとされている。この結果を受けて算出された人口1000人に対する離婚率は1.50とされている。単純な比較ができないものの、本調査の回答者のうち約8%の避難者が離婚を経験している数値を1000人に対する離婚率に換算すると80人となる。今後さらなる調査が求められるだろう。

 セシリア・ヒメネス・ダマリー氏の調査終了報告書においても、「家族生活に関する権利は、社会における安定を提供するための公私を問わず不可欠な基本的権利だ」と述べている。また「IDPsの間では、安全のために母子避難の選択がされ、一方で従来の世帯主(夫)は収入確保のために被災地に残った。残念ながらこの状況は二つの世帯を管理することを余儀なくし、同時に経済的困難を作り出し、IDPsの中で高い離婚率を生み出している」と述べている。本調査は、ダマリー氏の見解を支持する結果を導きだしている。

 離婚については、下記のような自由記述が認められた。

 「震災が原因でむごい離婚をした。男の力になってくれる腕の良い弁護士を知りたい」(50代男性、避難指示区域内、No.400)

 「離婚をしたので、これからの生活や教育の面でお金の心配がある。自分の老後も見通せない。子どもが独立したら、野垂れ死にするしかないと思うことがある」(50代女性、避難指示区域外、No.492)

 「息子夫婦が離婚したため、孫の面倒をみるのに、どこへも移動出来ず、仕方なく現在のところへ住居を建てました。しかし、浜通りと気候や環境が違う為になじまれません。東電からの住居確保にかかる費用の内、残っている金額を自由に使われる様にしてもらえれば、別のところへ移りたいです」(70代男性、避難解除区域、No.353)

キ 地元の人間関係の喪失

 また、『原発事故前からの地元の知人友人との付き合い』(付録図表No.51)は、「まったくない」が2020年調査では13.2%、2022年調査では19.8%であり、「滅多にない」が2020年調査では37.3%、2022年調査では34.9%であった。あわせて約5割の人びとが、福島の地元の人間関係を喪失していることがわかる。この結果は、「ふるさと喪失」の中でも重要な、人と人との結びつきを失ったことも意味していると考えられる。

 自由記述にも次のような回答が認められた。

 「故郷が津波による立ち入り禁止になっているので帰ることで きず、部落の人達にも逢えずどこに避難しているかもわからず、本当にさびしい思いをしております。もし今逢っても話がかみ合わないと思う」(性別・年代不明、避難解除区域、No.192)

ク 家族関係の維持、コミュニティ育成サポートの継続と強化を

 上記のとおり、避難者は、家族との関係、親族との関係、そして地元地域の人びととの関係といった、強い絆で互いに支え合っていたふるさとのコミュニティの繋がりを喪失し、避難先で希薄化した人間関係のもとで生活せざるを得ない状況に置かれており、原発事故が引き起こした社会関係の破壊による避難者の精神的苦痛は深刻かつ甚大である。

 このような状況は、国際的にも「国内避難民」に共通に認められるものであり、ダマリー氏も「離散して避難している家族の脆弱性には特に注意を向けることが推奨される」と提言している。

 家族・親族の交流をサポートしてきた、高速料金の無料措置は2024年3月までの延長が決まっているが、2023年秋以降は利用区間の申請手続きが必要となり、緊急時の利用ができなくなるなど、利用がかなり制限されることが予測される。私たちの調査の回答者でも、「避難を継続中」が約50%、「すでに移住した」が約40%であった。家族の一部が移住をしたり、避難を継続したりしている世帯が多数認められるため、原発事故によって分離した家族の交流を容易にできる制度として、高速料金の無料措置の継続を求める。

 避難元のコミュニティの維持、そして避難先におけるコミュニティの育成は、容易ではなく、長期間の取組を要する。ひとつは、避難先での生活を潤滑に送ることができるように、避難先自治体の公的サービスを速やかに受けられるように、地元自治体と避難先自治体との連携強化、関連部署(県外避難者支援課等)の機能強化が必要である。

 また、全国各地の民間支援団体が、避難先における新たなコミュニティ育成のために地元の人びとが集う交流会やイベント、さらには避難先地域住民との関係性を構築するための企画を進めるため、避難者支援を行う民間支援団体への助成等の公的支援の充実・継続を求める。

 国・県・自治体への不信感

 国やそれぞれの自治体から発信される情報についての信頼度について尋ねたところ、『国』(付録図表No.52)に対して、「信頼できる」が5.2%、「ある程度信頼できる」が21.7%、「どちらとも言えない」が27.3%、「あまり信頼できない」が19.4%、「信頼できない」が23.8%であった。『福島県』(付録図表No.52)に対しては、「信頼できる」が11.0%、「ある程度信頼できる」が33.1%、「どちらとも言えない」が30.4%、「あまり信頼できない」が11.0%、「信頼できない」が11.2%であった。『地元の自治体(市区町村など)』(付録図表No.53)に対しては、「信頼できる」が18.8%、「ある程度信頼できる」が34.7%、「どちらとも言えない」が28.9%、「あまり信頼できない」が6.8%、「信頼できない」が8.1%であった。また『避難・移住先の自治体(都道府県や市区町村など)』(付録図表No.53)に対しては、「信頼できる」が12.0%、「ある程度信頼できる」が33.5%、「どちらとも言えない」が39.0%、「あまり信頼できない」が6.6%、「信頼できない」が5.0%であった。

 これらをまとめると、国の情報に対して信頼できない者が4割を超えており、福島県の情報に対して信頼できない者は2割を超えていた。地元の自治体の情報が信頼できないと回答した者は合わせて約15%であり、避難先自治体からの情報が信頼できない者はあわせて約10%であった。

 このような国・県・自治体への不信感が、ストレスに影響していることが判明した。カイ二乗検定からは、国に対する不信感はオッズ比2.937倍(p<0.001)、県に対する不信感はオッズ比2.893倍(p<0.001)、地元の自治体に対する不信感は2.646倍(p<0.001)、避難先の自治体に対する不信感は2.772倍(p<0.001)と、いずれも不信感がある者はない者と比較して3倍弱「PTSDの可能性」に影響があることがわかった。

 「国への不信感」と関連のある項目を探索的に分析したところ、次のような項目に弱い正の相関が認められた。「不十分な賠償金」(r=0.377、p<0.001)、「原発再稼働の反対」(r=0.363、p<0.001)、「賠償・補償問題の心配事」(r=0.285、p<0.001)、「経済的困難」(r=0.236、p<0.001)、「ふるさと喪失感」(r=0.201、p<0.001)。「福島県への不信感」と関連のある項目として、次のような項目に弱い正の相関が認められた。「経済的困難」(r=0.221、p<0.001)、「不十分な賠償金」(r=0.248、p<0.001)。「避難先の自治体への不信感」と弱い正の相関が認められたのは「避難者・被災者・被害者であることによるいやな経験」(r=0.232、p<0.001)であった。なお、地元の自治体への不信感に関連のある項目は発見できなかった。

 原発事故に対する不十分な賠償金、原発事故による経済的困難は、国や福島県に対する不信感と関連しており、これらはPTSDの可能性があるほどのストレス状態に繋がっている可能性が見いだされた。原発事故被害者への救済が不十分であるばかりでなく、原発再稼働や新原発増設などの政府の方針を鑑みるに、原発事故の教訓を改めて認識し直す必要があると言える。

 自由記述欄にも、以下のような回答が認められた。

 「県も町も国の方針に従うとか、国の出方を見ているだけで独自の工夫があまり感じられない。本当に復興と考えるなら、国を待っていないで本気で独自の政策を早く進めて欲しい気持ちがある」(50代男性、避難指示区域内、No.495)

 「国県町は新しい町づくりはするが、元の住民の事は何もしない」(60代男性、避難指示区域内、No.214)

 「県も市町村も国のいいなりになってかんたんにあやつり人形の状態。ふるさとを捨てさせる状態にしておいて、市町村、及び県外に住んで居る人達には、塩対応。町民代表の人達(議員)は何をしている」(70代男性、避難指示区域内、No.329)

 「福島県と福島県人の味方になれ。福島は全部が被害を受けたのだ。被害者、被害県であることを自覚しているとはとても思えない、今の県、市町村のしていることは。福島県として国と東電に完全に賠償をさせなさい、県と県民に対して」(60代男性、避難指示区域外、No.88web)

 「寄り添うのではなく、実のある支援をしてほしい。県民を苛める福島県の鬼のような対応は、国の意向を受けてなのだろうか?日本国憲法に有るように生存権とか、幸福を求める権利、子どもを安全なところで教育受けさせる権利を守ってほしい」(50代男性、避難指示区域外、No.81web)

 「福島県と福島県内市町村自治体が、国のいうことを聞くだけなのは情けないと思う。今の彼らは国の犬だ。自治体とは何なのかと疑問に思う。地元を一番知る自治体がもっと国に意見するべきだと思う」(50代女性、避難指示区域外、No.87web)

6 地元不動産の固定資産税負担等への適切な対応

 『地元に所有する不動産の心配』として、2020年調査では61.9%、2022年調査では59.9%が「心配事がある」と回答しており、6割もの避難者が不安を抱えている(付録図表No.55)。その理由として、「固定資産税の問題」が最も多く、2020年調査の約35%から2022年調査では68.0%へと急増しており、「相続の問題」をあげる者も46.3%と多く、「登記の問題」をあげる者も2020年の約15%から2022年には25.2%へと増加している(付録図表No.55)。

 背景には、避難指示が出された地域については固定資産税が2分の1免除されていたが(帰還困難区域は全額免除)、避難指示解除から3年間で終了し、その後、浪江町など自治体独自で行っていた減免措置も終了したこと、原発事故により住宅を解体した後の更地について、住宅の立つ土地並みに固定資産税を減額する特例が2021年度末で終了し、解体後の宅地の固定資産税評価額が最大6倍近くになること、原発事故から11年以上が経過する中で避難者死亡による相続が増加してきており、相続により固定資産税負担が相続人に引き継がれることなどがあると考えられる。

 避難指示区域内の被災者も、自由記述において、納税の不安を記述している。

 「他県に永久移住し税金を納めますが、帰還困難区域にある家の税金が全額支払する様に成るのか心配です。免除してほしいです。検討してください」(80代男性、避難指示区域内、No.124)

 「売却希望者には、東京電力及び国が、責任を持って買い取るべき。-中略-今後、帰還困難区域が解除になっても、固定資産税は支払えない。(原発事故から10年、だんだん必要のない土地になっている)」(60代男性、避難指示区域内、No.325)

 「除染がいつになるのか、はたしてできるのかもわかっていません。今でももう戻る体力が有りません。-中略-又、自分が死ねば、妻や子供が相続するのも苦労ばかりだと思うので、生きている間に、国・県・町が買い上げてもらって心配なく死にたいと思っています」(80代男性、避難指示区域内、No.445)

 避難指示が解除された区域の住民の以下のような自由記述がある。

 「これから先、住む予定のない浪江町の土地(家屋は解体済)にかかる固定資産税を払い続けないといけない」(60代男性、避難指示解除区域、No.496)

 「帰還するつもりはありません。新しい生活が始まっています。元の家の土地の管理や、税金などが不安です」(60代男性、避難指示解除区域、No.267)

 「移住するにしても、富岡に残った土地はどうするのか、町や県が買取るのか?固定資産税を払い続けるのか?」(60代男性、避難指示解除区域、No.390)

 「今でも線量が高いのに住むことが出来ない土地に固定資産税を支払するのはおかしい」(50代男性、避難指示解除区域、No.433)

 「移住を決め、地元に残した土地の処分に大変困っている」(60代男性、避難指示解除区域、No.398)

  震災支援ネットワークの電話相談でも、自宅の家を解体したことによっ て固定資産税額が上がり、しかも実質的に住めない土地の固定資産税を子々孫々代々にわたって支払い続けなければならない理不尽な状況に対する多数の訴えがあったことから、2020年の申入れにおいて、移住を決意し不動産を放棄したい世帯に対する国や県による買取り制度の創設、固定資産税の永続的な免除等を求めたが、対策は講じられないままである。

 これまで述べてきたとおり、避難生活で仕事を喪失する等して経済困難を抱え、精神的にも高いストレス状態にある者が少なくないところ、地元に残る「負の遺産」の税負担が重なることによる避難者の経済的・精神的負担は看過できるものではない。

そこで、改めて、地元不動産を所有することに起因して避難者の困難が続くことのないよう、国や県による買取り制度の創設、固定資産税の免除措置等の施策を講ずることを求める。

7 長期避難を継続する権利の実質的保障、当事者参加の独立機関の設置と支援プログラムの策定

⑴ 避難継続、移住及び帰還に関する避難者の意向

ア 避難継続・移住・帰還に関する意向が多様で流動的であること

 調査対象である首都圏避難者のうち、「避難を継続中」が2020年調査では67.5%であったのが2022年調査では51.7%と若干減少している。「すでに移住した」と回答した者は、2020年が31.2%で、2022年が41.9%と3割から4割に増加している(付録図表No.57)。

 また、2022年調査の『避難指示解除後の世帯の方針』の質問に対し、「当面は避難を続ける」が23.8%、「移住する」が39.5%、「決めていない」が24.4%であった(付録図表No.57)。この結果は、約4分の1の世帯が避難継続を希望しており、約4分の1の世帯がまだ決めておらず、今後、避難継続・移住・帰還に関して流動的であることを意味している。

 『地元(ふるさと)に帰りたい気持ちの強さ』について質問したところ、「どちらとも言えない」が42.8%と最も多かった。「帰りたくない」26.9%、「絶対に帰りたくない」5.2%を合計した帰還したくない人の割合が32.1%であり、「絶対に帰りたい」4.7%、「帰りたい」15.5%を合計した帰還したいと考えている人の割合が20.2%であった(付録図表No.58)。

 『避難および帰還についての、あなたのご経験と考えを教えてください』という設問に対して、「避難したくなかったが、避難せざるを得なかった」が40.1%、「移住したくなかったが、移住せざるを得なかった」が33.1%、「避難できてよかった」が26.0%、「移住できてよかった」が20.0%、「いまからでも条件や環境が揃えば避難したい」が0.8%、「地元に帰還できてよかった」が0.6%、「帰還したくなかったが、帰還せざるを得なかった」が0.4%であった(付録図表No.59)。

 本調査の回答者が、『2011年当時の避難区域指定』(付録図表No.10)において、「警戒区域」が56.2%、「緊急時避難準備区域」が11.4%、「計画的避難区域」4.8%、「避難指示区域外」が8.3%であり、『現在の避難区域指定』(付録図表No.10)は、「帰還困難区域」が38.8%、「居住制限区域」が7.6%、「避難指示解除準備区域」が6.2%、「避難指示が解除された区域」が32.8%、「もともと避難区域外」が8.3%であったことから考えても、避難及び帰還についての考えが多様であることが理解できる。

 自由記述欄の回答を紹介する。避難や帰還についての強い葛藤や迷い,不安が表出されており,避難継続・移住・帰還に関して依然として流動的な状況にあることがうかがえる。

 「未だに方針が見えない。方針が示されないのであれば、アン ケートは無意味では? -中略-生きている間に方針(本当の意味での)示してほしい」(60代男性、避難指示解除区域、No.596)

 「避難先から自宅の清掃に帰宅するたびに、町全体に解体された家が目立ち、人と会うこともないため、帰還したいという気持ちが低下してしまう」(60代女性、避難指示解除区域、No.222)

 「富岡町も住民票があるだけの人が多く、町に戻って生活する人は少ないと感じる。町としてやっていけるの?」(60代男性、避難指示解除区域、No.596)

 「帰還したとしても周りの環境がちゃんとしていないし仕事もはじめから見つけてとなる ととてもきびしい」(30代男性、避難指示区域内、No.28)

 「自分の置かれている立場が移住者なのか避難者なのか心の整理がついていない。将来的に地元に戻りたい気持ちがあるが、-中略-損害賠償も移動については2回までとなっていて、すでに金を使い果たしている状況で、帰還に関する費用を新たに捻出する余裕と時間がない」(50代男性、避難指示区域内、No.289)

 「今のところ一時帰宅時の移動費用は、東電賠償請求でもらえるが特定復興再生拠点となり解除されると請求できなくなり、実費で移動費用を負担し、自宅を管理しなければならなくなる」(50代男性、避難指示区域内、No.134)

 「もう帰還する事はないので、せめて家の損害賠償を」(90代女性、避難指示区域内、No.438)

イ 帰還しない理由、帰還のために重視する条件

 『帰還していない理由』として多かったのは、①「地元の生活環境が整っていない」が90.3%、②「地元に戻っても家族・友人・知人がいない」が72.7%、③「地元の放射線量がまだ安全ではない」が62.9%、④「地元に戻っても仕事がない」が44.2%、⑤「帰還するための経済的な余裕がない」が39.3%であった(付録図表No.60)。

 『帰還のために重視する条件』として、「医療福祉サービスの再開」が58.7%、「放射線量の低下」が56.0%、「ライフラインの整備」が52.7%、「商店や商業施設の再開」が48.1%、「公共施設や交通機関の整備」45.0%である(付録図表No.61)。

 半数以上の者が帰還の条件として「放射線量の低下」をあげているが、『戻ってもよい放射線の水準』については、「追加被ばく年0mSv」が最も多く39.3%、「追加被ばく年1mSv以下」が17.8%、「年5mSv以下」が2.5%、「年20mSv未満」が6.8%であり、2020年調査とほぼ同じ傾向になっている(付録図表No.62)。

 国は、これまで、福島県内の帰還困難区域に出されている避難指示を解除して帰還できる基準として、除染を行い年間の放射線量が確実に20mSv未満となることなどを挙げてきたが、住民たちの多くが帰還してもよいと考えている基準が、国が決める基準と大きくかけ離れていることが示されている。

 自由記述欄にも、以下のような回答が認められた。

 「放射線による被爆はありませんとのことだが、低線被爆は我々だけがあびた訳だが、この先の健康を考えると心配である、定期的な検査をお願いしたい」(70代女性、避難指示解除区域、No.279)

 「放射能に関しては、ごまかさないで対応してほしい。安心して生活できる社会にしてほしい」(60代男性、避難指示解除区域、No.489)

 「原発事故による放射能汚染地域の復興は百年単位で考えて計画をたてるべきこと。事故を起こした原発もそのまま、汚染地域の8割以上も未除染のままでの「復興」はあり得ない」(60代男性、避難指示解除区域、No.496)

 「放射性物質が残る地域に住ませるな」(40代女性、避難指示区域外、No.33web)

 「不溶性のセシウムがほとんどの放射性物質だらけの福島市には、大人になったとはいえ子どもを住まわせたくない。私自身も大人とはいえ住みたくない。汚染されていない土地に移住したい。移住の権利を求める」(50代女性、避難指示区域外、No.87web)

 「あの4機原発同時事故によって拡散された放射性物質が実際にどのくらいの質と量であり、10年を過ぎた現在、実際に、どの位、大気・水中・土壌、そして、多様な生き物達の体内に残っているのか、どの位、移動しているのか、誠実に科学的に調査されて、公表されるべきであると考えます。それが誤魔化され続ける限り、心配事は続く! 」(50代男性、避難指示区域外、No.43web)

⑵ 帰還優先ではなく、避難・移住・帰還の実質的な選択を可能とする長期避難する権利の保障

 上記のとおり、避難継続・移住・帰還に関する避難者の意向は、多様で流動的であることが認められる。また、帰還するには、地元のインフラ整備、放射線量の低下等の諸条件が整う必要があると考えている者も少なくない。

 ところが、経済不安や健康不安がある中で、住宅支援や医療費等の減免措置の打ち切り等の諸支援策の縮小・廃止は、「帰還するか、しないか」という決断を、事実上、住民に迫るものであり、高いストレス状況にある被災者にとって極めて過酷な選択を強いるものであるから、“帰還の選択を保留する選択肢”を実質的に認める必要がある。

 また、上記5⑵のとおり、避難者に対する差別や偏見があり、そのことが避難者が孤立する要因となっており、帰還を優先させる国や県の制度や姿勢が「避難する必要性がないのに避難を続けている」というレッテルを強化しているものと考えられ、区域外避難者も含めて、原発事故による長期避難の正当性、すなわち、「長期避難を継続するが権利」を制度として公的に認め、避難者が避難先で肩身の狭い思いをする機会を減少させる必要がある。

 セシリア・ヒメネス・ダマリー氏の調査終了報告書においても、「持続可能な帰還、持続可能な地域統合、国内の他の地域での持続可能な統合の3つの定住に関する選択肢」について、「決定に際しては全ての情報を吟味した上で自由意志に基づき自主的に決める」ことができることが重要であり、帰還の計画等にあたっては、避難者の「意見を十分に聞かなければならない」としている。

 原発事故子ども・被災者支援法も「支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない」との基本理念を定めている(同法2条3項)。

 そこで、原発事故子ども・被災者支援法の基本理念に立ち返り、避難者が、住宅支援・経済的支援・雇用支援など、避難先での生活に対する十分な支援が継続的に受けられるような制度を整え、避難者に対し、長期避難を継続する権利を実質的に保障するとともに、避難者に対する偏見や差別解消のため、区域外避難者も含め、長期避難が正当な権利の行使であるという理解が社会的に共有されるよう努めるべきである。

 不合理な放射線基準に基づく避難・帰還区域の設定を是正すること

 2020年及び2022年のいずれの調査でも、避難者の約6割は、あくまでも追加被ばく年間0〜1mSvが帰還してもよい放射線量であると考えており(付録図表No.62)、2015年調査でもほぼ同じ結果となっている。

 避難者が、安心して帰還し持続可能な定住を実現できるよう、現行の不合理な放射線基準に基づく避難・帰還区域の設定を是正すべきである。

⑷ 当事者参加の独立機関の設置による検証と支援プログラムの策定

 今後も、原発避難者の実情やニーズを把握しつつ、様々な実効的支援を継続する必要がある。そのためには、当事者である避難者が決定に参画し、これまでの施策等の検証を行い、今後の支援策を検討することが重要である。セシリア・ヒメネス・ダマリー氏も、調査終了報告書において、「IDPsは彼らに影響をもたらす、特に生命の保護や生活の再建についての決定に参加する権利を有する」「復興と再建への社会的統合型アプローチであるためには、避難中のIDPs、すでに帰還しているIDPs及び現在の福島県民への完全な情報の提供と参加を必要とする」としている。

 国は、長期間、原発避難者の甚大な精神的苦痛を持続させてしまったことの反省に立ち、医療・心理・福祉・教育・行政・法律分野等、諸分野の専門家及び当事者である避難者も参加する政府から独立した機関を設置し、これまでの諸施策を検証した上で、あらためて原発避難者の継続的かつ実効的支援プログラムを策定する方策を講ずるべきである。

8 普遍的な社会保障制度の構築と原発避難者の苦難に向き合う社会への転  換

 本調査から、付録図表No.64(〇印の番号は、要望書における見出し番号を示す)のような構図があると考えられる。

 原発事故被害者の「PTSDの可能性」が高いほどの極めて高いストレス状態の要因として、「いじめ・いやな経験」、「健康状態の悪化」、「家族の分断・関係の悪化」、「自治体不信」、「相談者の不在」、「コミュニティの断裂」といった状態が考えられた。

 その基礎には、「現在の経済的困窮」があり、それは「コロナ禍」の影響を強く受けている。経済的困窮の要因としては、「賠償・補償の問題」、「地元不動産の問題」、「ふるさと喪失」、「住宅の問題(住宅支援の打ち切り)」、「就労の問題(現在の失業)」が考えられた。

 これらを招来したのは、「核災害による国内強制移動」という問題であり、その根底には、現代日本社会の「社会保障制度の脆弱性」があるものと考えられる。

⑴ 核災害による国内強制移動が生み出した「国内避難民(IDPs)」

ア 2018年国連人権理事会本会合における日本政府への勧告

 国連人権理事会(United Nations Human Rights Council)は、国際社会における人権侵害に取り組み、それに対応する勧告を行う役割を担っている。外務省が対応した、2018年3月に行われた第37回国連人権理事会本会合では、原発事故後の日本には人権侵害が存在するとして、次の4つの勧告を受けた。

 【161.214】福島の高放射線地域からの自主避難者に対して、住宅、金銭その他の生活援助や被災者、特に事故当時子供だった人への定期的な健康モニタリングなどの支援提供を継続すること。【161.215】男性及び女性の両方に対して再定住に関する意思決定プロセスへの完全かつ平等な参加を確保するために、福島第一原発事故の全ての被災者に国内避難民に関する指導原則を適用すること。【161.216】特に許容放射線量を年1mSv以下に戻し、避難者及び住民への支援を継続することによって、福島地域に住んでいる人びと、特に妊婦及び児童の最高水準の心身の健康に対する権利を尊重すること。【161.217】福島原発事故の被災者及び何世代もの核兵器被害者に対して、医療サービスへのアクセスを保証すること。日本政府は、これらの4つのすべてに「フォローアップすることに同意する」と回答している。そして、『子ども被災者支援法』に基づいた支援を日本で行っており、福島県民健康調査も実施していると回答しており、また『国内避難民に関する指導原則』の趣旨も尊重していると外務省は述べている。

 しかしながら、この回答は2018年当時の原発事故被害者に対する現実の対応とはかけ離れたものである。『子ども被災者支援法』は自民党を含む議員立法で成立した極めて重要な法であったが、形骸化しており実効性をもっていない。2015年8月25日に改訂された本法の基本方針では、「被災地の空間放射線量は事故後4年以上経過して低下しており、新たに避難する状況にない」とされた。そして「将来的には避難対象地域を縮小し撤廃することが適当であり、帰還や定住支援に重点を置く」という内容であった。この2015年時点で、2011年当初の避難区域外からの避難者や避難指示解除後に帰還しない人びとは、いわゆる「自主避難者」としてこの法律の支援の対象から排除され、自己責任で生活再建を強いられてしまっている。本調査で明らかになったように2022年現在においてなお、『国内強制移動に関する指導原則』による政府や国民社会による人権侵害が続いているのである。

 【161.214】では、「被災者、特に事故当時子供だった人への定期的な健康モニタリングなどの支援提供を継続すること」と勧告されているにも関わらず、要望の理由「3.健康状態悪化に対する支援」の項で述べたように、小児甲状腺がん検診でさえ縮小する方針が提示されていることは由々しき事態である。放射性物質の拡散による土壌汚染の科学的評価から考えれば、放射能汚染による健康被害は福島県民に限られたものではなく、本来であれば、健康調査が福島県内に限定されるべきではなかった。今後は、これまでの方針を転換させて、福島県民以外の人びとにも被ばくによる健康影響の検診を拡大して行うべきである。

 【161.216】に示されている「特に許容放射線量を年1mSv以下に戻し」という勧告は、国連人権理事会としては現行の、居住してもよい許容放射線量20mSvを問題視したものだと考えられているが、日本政府は「最終的な除染の目標を1mSvにしているので問題ない」と回答しており、1mSvに達していないにも関わらず帰還を推奨している方針を正当化しており、人権理事会からは批判されるべき方針であろう。本調査(付録図表No.62)でも明らかにされたように、住民が『居住しても良いと考える放射線量』は、「追加被ばく0〜1mSv」が約6割にのぼり、政府が提示している「年20mSv未満」に同意している人びとは6.8%しか存在しない。追加被ばく0〜1mSvになるまで長期に避難を継続させる権利は、基本的人権として認められるべきである。

イ 国内強制移動の指導原則に則った基本的人権の保護を

 『国内強制移動の指導原則』[原則15]には、「国内避難民は、国内の他の場所に安全を求める権利」を有し、「自らの生命、安全、自由もしくは健康が危機にさらされるおそれのあるあらゆる場所への強制送還または当該場所における再定住から保護される権利」を有すると明記されている。この原則に従うのであれば、例え避難指示が解除されたとしても、当面は帰還をせずに、避難を継続させる権利は国際社会の観点からみても当然認められるべき事項である。

 [原則14]によれば、「すべての国内避難民は、移動の自由および居住選択の自由に対する権利を有する」と記されている。しかしながら、住宅支援の打ち切りの措置、さらには借り上げ住宅の退去命令は、基本的人権としての「居住」が侵害された状況と言えるだろう。ただちに、借り上げ住宅の退去命令(訴訟)を撤回し、区域外避難者も居住できる現行の賃貸住居を「借り上げ復興住宅」とみなす制度を立ち上げることを要望する。

 【161.215】には、「福島第一原発事故の全ての被災者に国内避難民に関する指導原則を適用すること」と明記されている。セシリア・ヒメネス・ダマリー氏も、調査終了報告書において、「『強制避難者』と呼ばれる人びと、または強制避難命令の影響で避難を余儀なくされた人びと、並びに『自主避難者』と呼ばれる人びと、または避難命令はないものの避難を余儀なくされた人びとは、国際法の基ではすべてIDPsと定義されており、災害により避難をする権利は移動の自由に基づく人権である」と記されている。この【161.215】で述べているところの「福島第一原発事故のすべての被災者」には、避難指示区域内避難および区域外避難が等しく該当するのであり、[原則18]の「適切な生活水準に対する権利を有する」ものである。

ウ 高速道路の無料化措置、固定資産税の減免、高等教育の学費免除を

 [原則17]には「すべての人は、自らの家族生活を尊重される権利を有する」また、「共にいることを希望する家族の構成員は、これが許可される」、「離散した家族は、できる限り速やかに再会が可能となるべきである。特に児童が関係する場合は、離散家族の再会を迅速に実現するため、すべての適切な措置がとられるものとする」とある。本調査でも、原発事故により家族が離れ離れになった世帯は約30%であった。母子避難または父子避難が現在も継続中である世帯は約6%存在する。借り上げ仮設住宅への入居時の居住人数制限に伴って、現在も世帯が離散した状態にあり、「共にいることを希望する家族の構成員」が「共にいる」ことが出来ていない状況を改善させるべきである。そのためにも、避難指示が解除された区域の住民に対しても、分離している世帯全員に高速道路の無料化措置を継続させるよう要望する。[原則21]には「何人も、恣意的に財産および所有物を奪われない。国内避難民が残置した財産および所有物は、破壊および恣意的かつ違法な没収、占拠または使用から保護されるべきである」と記されている。中間貯蔵施設の建設のために、自身の土地を明け渡さなければならない人びとがおり、売却するか譲渡するか貸与するかの選択肢しか与えられておらず、恣意的に財産および所有物が奪われた状態だと言える。「帰還困難区域」に指定されている人びとや、「避難指示が解除された区域」の人びとも、固定資産税の減免が打ち切られる方針は、残置された財産が保護されない状況にあることを意味しており、この原則に反する人権侵害だと考えられる。

 [原則23]には、「教育を受ける権利」が言及されている。原発事故に関連した教育現場での「いじめ」は、私たちの調査においても、児童同士だけでなく、教員や、他の児童の親達からも受けていることが判明している。避難民であることによって受けた心的外傷(トラウマ)は癒えることなく、現在も青少年の生活を侵害しており、引きこもりやうつといった状況は、青少年の未来をも奪ったと言えるだろう。このような青少年が高等学校や大学へ進学するために、最大限の支援が必要である。原発避難者であり、かつ経済的困難に陥っている家庭の子どもに対しては、高等教育の学費免除等の措置が求められる。

エ 帰還・再定住および再統合に関する原則の順守を

 最後に[原則28]に示されている「帰還、再定住および再統合に関する原則」である。「管轄当局は、国内避難民が自らの意思によって、安全に、かつ尊厳をもって自らの住居もしくは常居所地に帰還すること、または、自らの意思によって国内の他の場所に再定住することを可能にする条件を確立し、かつ、その手段を与える第一義的な義務および責任を負う」と記されている。本調査でも約4割の世帯が「すでに移住した」と回答しており、移住に対する支援が求められる。現行の政策は「帰還優先・促進」していると考えられ、帰還者のみが優遇され、避難継続や移住に対する支援は欠如していると言わざるを得ない。人道支援を行っている非営利組織に対する助成金も大きく縮小されており、2022年度からは「県外避難者に対して、特定復興拠点地域への見学と、既に帰還を遂げた人びととの交流を行う事業」が強要され、避難継続や移住支援を行う民間支援団体への助成金がカットされる状況に追い込まれている。繰り返しになるが、避難継続や移住支援に対しても国や県による援助を強く求める。

 『国内強制移動に関する指導原則』を熟知しており、国連人権理事会に対応した外務省は、日本国内で発生し続けている原発事故被害による人権侵害に対して、復興庁、内閣府、厚生労働省、文部科学省に積極的に働きかけ、共同して国内避難民の保護に努めることを強く要請する。同時に、復興庁、内閣府、厚生労働省、文部科学省に対しては、外務省の国際社会における国内避難民を保護してきた経験に学び、本原則を順守することを求める。

⑵ 人間の基礎的ニーズを充足する普遍的な社会保障制度の構築による分断から連帯の社会への転換を

ア コロナ禍でも露呈した社会保障の脆弱性

 コロナ禍の到来により、非正規労働者がいち早く仕事を打ち切られ、2020年3月から4月には、非正規労働者の数が一気に131万人も減少した。休業や失業によって、生活費が底をつき、生活が立ち行かなくなる人が急増し、住居喪失の危機に陥る人も増加し、学費を支払えず退学の危機にある学生も増加した。背景には、全労働者の4割にまで増加した非正規労働者、その低賃金で不安定な労働、不十分な休業補償や失業給付、フリーランスなどを対象とする所得補償制度の不存在、貧弱な住宅政策、高騰した学費や生活費をアルバイトで補ってきた学生の現状などがあり、災害に弱く、人間の生存を支えない日本の社会保障制度の現状、自己責任が喧伝され格差と貧困の拡大を容認してきた日本社会の脆弱性があらためて露呈した。

 様々な実例を通じ、災害が脆弱な人びとの上に最も強く現れることが明らかとなっているが、上記4⑴でも指摘したとおり、原発事故被害にコロナ災害が重なることにより、原発避難者は、さらに過酷な状況に陥っており、原発事故による避難の長期化、住宅提供等の公的支援打ち切り等に加えて、コロナ災害がさらに追い打ちをかけている。

イ 自己責任、対立・分断が広がる社会で発生した原発事故

 高度経済成長が終わり低成長時代が到来し、1990年代以降、非正規雇用の拡大とともに世帯所得は減少し、貯蓄ゼロ世帯が増加し、中間層は低所得層へとシフトした。自分で働いて貯金をして支えるという自己責任では、生活を支えるのが困難な社会構造となったにも関わらず、なお、自己責任が強調され続け、財源不足の名のもとに社会保障の縮減が続き、社会保障は一部の困窮者を選別的に支える限定的で脆弱なものとなっている。

 不安定な雇用が広がり、働いても働いても生活は楽にならず、困ったときの社会保障の支えもなく、失敗すればやり直しも難しく、格差が拡大・固定化し、生きづらさを抱える人が蔓延する中で、生活保護利用者など社会保障の恩恵を特別に受けているように見える一部の人びとに対し、厳しい視線が向けられ、バッシングが強まっている。

 原発事故は、このような自己責任社会、不寛容が広がる対立・分断の社会状況において発生し、被災者は避難を強いられることになった。原発避難者は、生活を根こそぎ破壊された状況の中で、それぞれの自己責任で損害賠償を請求することとされた。賠償金というお金が支払われる状況が社会に伝わるようになるにつれ、本調査結果(上記5⑵)にあるように、原発避難者に対する偏見や差別が拡大し、国による原発政策の犠牲者であるはずの原発避難者に対し、「賠償金をもらっている」との妬み・嫉みの感情が広がることとなった。生活保護利用者などがバッシングされるのと同じ構造があり、こうした避難先でのトラウマ体験(いじめ・嫌な経験)が、PTSD症状の3大リスク要因の1つとなって、避難者を苦しめるという理不尽で不幸な状況が今も続いている。

ウ 分断を乗り越え、原発避難者の苦難に向き合う連帯社会への転換

 自己責任が強調され、多くの人が、社会保障に支えられていない社会の中で追い詰められている。そして、追い詰められた人が、原発避難者や生活保護利用者等の一部の人だけが国からの給付や賠償金を取得することを受け容れ難く、特権のある者として非難し差別し、生きづらさを抱えた人同士の分断・対立が生じ、それが貧困の広がりとともに拡大している状況がある。今、私たちは、このような社会の分断の危機に、どう対応すべきかという重大な問題に直面しており、これは、原発避難者の苦難に社会が真摯に向き合えるかどうかという問題と重なっている。

 人びとを、分断や対立へと向かわせる社会構造を変えなければならない。そのために、自己責任ではない、すべての人が広く支えられる普遍的な社会保障制度、すなわち、医療、介護、住宅、教育など、誰もが生きていくために必要な基礎的なニーズを満たす社会保障制度を構築すべきであり、それは、同時に、災害に強い社会を構築することでもある。

 派遣切りの嵐が吹き荒れ、仕事と住居を同時に喪失し、生存の危機に瀕する人が全国に溢れた2008年のリーマンショック、おびただしい数のいのちと暮らしが壊された2011年の東日本大震災及び原発事故。三度目となるコロナ危機が社会を襲い3年が経過した。しかし、非正規雇用が多い女性、フラーランス、高い学費や奨学金の負担を追わされた若者、無年金・低年金の高齢者など、多くの人が追い詰められているにもかかわらず、社会保障制度の抜本的見直しはなされず、貧困と格差を拡大させ、人びとの分断を拡げる自己責任社会の構造は変わらないままである。

 被害の当事者である避難者の多くが原発の再稼働に反対している(2020年調査では「反対」53.4%・「どちらかというと反対」13.9%・合計67.3%、2022年調査では「反対」44.0%・「どちらかというと反対」13.4%・合計57.4%)にもかかわらず、政府は、その声も聴かず、2023年2月10日、原発「最大限活用」方針を閣議決定し、民主主義のプロセスを無視・軽視しているものといわざるを得ない。

 今度こそ、民主主義を機能させ、自己責任社会を克服し、人間の基礎的・普遍的ニーズを満たす社会保障、人間の尊厳ある生存(憲法13条・25条の価値の実現)を保障する社会、社会の分断を乗り越え互いに支え合う連帯の社会へと転換すべきときである。

 それが、南海トラフ地震などの震災、豪雨災害、感染症災害、経済恐慌等の今後到来する社会危機への備えとなるとともに、原発避難者の苦難を社会全体で共有しその苦痛をなくしていく真摯な努力を永く積み重ねていくための道である。

以 上

【引用文献】

  • 高野徹「福島の甲状腺がんの過剰診断;なぜ発生し、なぜ拡大したか」『日本リスク研究学会誌』28(2)、pp.67–76、2019
  • 高野徹、緑川早苗、服部美咲「過剰診断で悲しむ人をゼロにしたい;福島原発事故の教訓から」『医学界新聞』(3408)、2021
  • 舛田ゆづり,田高悦子,臺有桂:高齢者における日本語版 UCLA 孤独感尺度(第 3 版)の開発とその信頼性・妥当性の検討 .日本地域看護学会誌15(1): 25−32,2012
  • 根来佐由美:自治型福祉NPO団体に所属する高齢者の社会関係の実態.Human Welfare13(1):81-95,2021
  • 永井眞由美,東清己,宗正みゆき:在宅高齢者を介護する高齢介護者の孤独感とその関連要因.日本地域看護学会誌19(1):24-30,2016
  • 豊島彩,佐藤眞一:孤独感を媒介としたソーシャルサポートの授受と中高年者の精神的健康の関係.老年社会科学35(1):29-28,2013
  • 除本理史:原発事故が奪った「地域の価値」.判例時報(2499):138-140,2022

【SSN/WIMAこれまでの調査の参照文献】

<2012年調査>

  • 辻内琢也:原発避難者の深い精神的苦痛;緊急に求められる社会的ケア.岩波書店,「世界」835:51-60,2012.
  • 増田和高,辻内琢也,山口摩弥,永友春華,南雲四季子,粟野早貴,山下奏,猪股正:原子力発電所事故による県外避難に伴う近隣関係の希薄化;埼玉県における原発避難者大規模アンケート調査をもとに.厚生の指標60(8):9-16,2013.(原著論文)
  • Tsujiuchi T, Yamaguchi M, Masuda K, Tsuchida M, Inomata T, Kumano H, Kikuchi Y, Augusterfer EF, Mollica RF: High prevalence of post-traumatic stress symptoms in relation to social factors in affected population one year after the Fukushima nuclear disaster. PLoS ONE 11(3): e0151807. doi:10.1371/journal.pone.0151807,2016.(原著論文)

<2012―2013年調査>

  • 山口摩弥,辻内琢也,増田和高,岩垣穂大,石川則子,福田千加子,平田修三,猪股正,根ヶ山光一,小島隆矢,扇原淳,熊野宏昭:東日本大震災に伴う原発事故による県外避難者のストレス反応に及ぼす社会的要因~縦断的アンケート調査から~.心身医学56(8):819-832,2016.(原著論文)
  • <2013年調査>
  • 辻内琢也,小牧久見子,岩垣穂大,増田和高,山口摩弥,福田千加子,石川則子,持田隆平,小島隆矢,根ヶ山光一,扇原淳,熊野宏昭:福島県内仮設住宅居住者にみられる高い心的外傷後ストレス症状-原子力発電所事故がもたらした身体・心理・社会的影響-.心身医学56(7):723-736,2016.(原著論文)

<2012-2014年調査>

  • 辻内琢也:原発事故被災者の精神的ストレスに影響を与える社会的要因;失業・生活費の心配・賠償の問題への「社会的ケア」の必要性.早稲田大学・震災復興研究論集編集委員会(編)鎌田薫(監修):震災後に考える;東日本大震災と向き合う92の分析と提言.早稲田大学出版部,pp244-256,2015.
  • <2014年調査>
  • 辻内琢也:深刻さつづく原発事故被災者の精神的苦痛;帰還をめぐる苦悩とストレス.岩波書店,「世界」臨時増刊「イチエフ・クライシス」852:103-114,2014.
  • 岩垣穂大,辻内琢也,扇原淳:大災害時におけるソーシャル・キャピタルと精神的健康-福島原子力災害の調査・支援実績から-.心身医学57(10):1013-1019,2017.

<2015年調査>

  • 辻内琢也:原発事故がもたらした精神的被害:構造的暴力による社会的虐待.岩波書店,「科学」86(3)(2016年3月号):246-251,2016.
  • 辻内琢也:大規模調査からみる自主避難者の特徴;”過剰な不安”ではなく”正当な心配”である.戸田典樹(編著):福島原発事故 漂流する自主避難者たち:実態調査からみた課題と社会的支援のあり方.明石書店,pp27-64,2016.
  • 岩垣穂大, 辻内琢也, 小牧久見子, 福田千加子, 持田隆平, 石川則子, 赤野大和, 桂川泰典, 増田和高, 小島隆矢, 根ヶ山光一, 熊野宏昭, 扇原 淳:福島原子力発電所事故により自主避難する母親の家族関係及び個人レベルのソーシャル・キャピタルとメンタルヘルスとの関連. 社会医学研究34(1):21-29,2017.(原著論文)

<2012-2015年調査>

  • 辻内琢也:原発災害が被災住民にもたらした精神的影響.学術の動向22(4):8-13,2017.
  • Takuya Tsujiuchi:Post-traumatic Stress Due to Structural Violence after Fukushima Disaster.Japan Forum: 2020,
    • doi/full/10.1080/09555803.2018.1552308(原著論文)

<2017年調査>

  • 辻内琢也:原発避難いじめと構造的暴力.岩波書店,「科学」88(3)(2018年3月号):265-274,2018.
  • 辻内琢也:原発避難いじめの実態と構造的暴力.戸田典樹(編著):福島原発事故 取り残される避難者-直面する生活問題の現状とこれからの支援課題.明石書店,pp14-57,2018.

<2018年調査>

  • 岩垣穂大,辻内琢也,金智慧,大橋美の里,賈一凡,中川博之,愛甲裕,猪股正,扇原淳:原発事故による県外避難者のメンタルヘルスと生活状況との関連―震災支援ネットワーク埼玉による2018年の調査から―.心身医学61(7):629-641,2021(原著論文)

<2012-2017年調査>

  • 辻内琢也:フクシマの医療人類学:構造的暴力による社会的虐待論.ナラティヴとケア(10):35-45,2019.
    • 辻内琢也・増田和高(編著):フクシマの医療人類学-原発事故・支援のフィールドワーク.遠見書房,2019.

<2020年調査>

  • 辻内琢也:原発避難者の被害実態について―精神医学的見地から.法と民主主義(558):9-13,2021
  • 辻内琢也:復興庁への要望書―原発事故・支援のフィールドワークから.学術の動向26(3):52-57,2021

<2012-2020年調査>

  • 辻内琢也,トム・ギル(編著):福島原発事故被災者 苦難と希望の人類学―分断と対立を乗り越えるために.明石書店,2022
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