昨年は、米朝関係を発端とする戦争勃発が脳裏をよぎる一年でした。
しかし、昨年末にグテーレス国連事務総長が北朝鮮に対して、平昌五輪を米朝戦争回避に活用するように求めたとされる通り、北朝鮮が平昌五輪に選手・代表団を送り、これに対して米韓は五輪中の合同軍事演習を見送りました。そして、二度の南北首脳会談を経て、紆余曲折を経ながらも六月一二日に米朝首脳会談が実現しました。
この米朝首脳会談については、否定的な論調も目立ちますが、「戦争、核の脅威、長距離ミサイルの脅威から抜け出させた」(文在寅大統領)ことは間違いないでしょう。
四月二七日に南北首脳が署名した板門店宣言には、「核のない朝鮮半島を実現するという共通の目標を確認した」だけでなく、今年中の朝鮮戦争の終戦、休戦協定の平和協定への転換も盛り込まれています。この夏に予定されていた米韓軍事演習や海兵隊交流訓練も中止すると発表されました。
今回の米朝首脳会談は、英仏の譲歩がナチス・ドイツの勢力拡大に寄与したと評価されるミュンヘン会談が引き合いに出されることもあります。もちろん、すぐに朝鮮半島の雪解けという期待は甘いかもしれません。戦後の米中の国交回復も、米中共同声明から約七年後の一九七九年でした。
しかし、大きな流れが見えてはいないでしょうか。日本を取り巻く安全保障環境が厳しい…という北朝鮮脅威論を念頭に置いた日本政府頻出のフレーズも、今後は変化するかもしれません。
このように、おそらく朝鮮半島が歴史的な転換点にある状況で、これから改正議論が本格化するであろう私たちの憲法と、朝鮮戦争に端を発した戦後の安全保障体制は今後どうあるべきなのか、改めて真剣に考えていきたいと思います。
弁護士 佐渡島 啓