【判決速報】暴利行為を認定し、不動産買受人の明渡請求を排斥(東京高裁2018年3月15日判決)

埼玉県内の70歳の単身男性Aが、農協へのローンの返済に苦慮し、紹介された地元業者Bに農協への返済資金の貸付けを依頼したところ、その後、男性Aが所有していた自宅不動産等が、貸付けたBを介して、他の不動産業者Cに転売され(A→B→C)、業者Cが男性Aに対し、不動産の明渡を求めた事件について、東京高等裁判所第8民事部は、2018年3月15日、一審判決を取消し、男性Aと貸付けたBとの間の不動産売買契約は「暴利行為」に当たり無効であり、転売を受けた業者Cも所有権を取得しないとし、明渡請求を排斥する判決を言い渡しました。

第一審のさいたま地裁は、男性A本人が売買契約書等多数の書面に署名捺印しており、実印の使用や印鑑証明書の交付もあることなどを理由に、AB間の売買契約を有効とし、買受人Cの明渡請求を全部認容しましたが、東京高裁は、これを次の理由で、取り消しました。
「以上によれば、認知症の影響により控訴人Aの記憶力、コミュニケーション能力、集中力や注意力、論理的思考力と判断力等が相当程度低下しており、しかも、控訴人Aにとって生活の本拠であり収入源でもあった本件各不動産が競売等に付されるかもしれないなどの切迫した状況下において、このような状況を認識していたBが、その状況及び控訴人Aからの全幅の信頼を利用し、これを奇貨として、1億3000万円以上もの客観的交換価値を有する本件各不動産をその半分以下の6000万円で買い受ける旨の本件第1売買契約を締結したばかりか、その代金債務を完済する意思など有しておらず、Bが負担すべき費用等を本件売買代金に勝手に充当するなどして、実質的に約4000万円余りの出捐で本件各不動産の所有権を取得し、さらに、被控訴人Cに転売することによって約6000万円もの莫大な利益を得た一方、控訴人Aは、一連の取引により、生活の本拠であり収入源でもあった本件各不動産をすべて失い、手元に生活費等が全く残らなかったものである。これらを全体としてみたとき、本件第1売買契約は、Bが上記のような控訴人Aの状況等に乗じて莫大な利益を得ようとして行った、経済的取引としての合理性を著しく欠く取引であり、公序良俗に反する暴利行為に当たるといわざるを得ない。」(A、B、Cは、本記事用に挿入)

高裁判決が指摘するとおり、一連の取引により、Aは、自宅を含む全財産を喪失し生活に困窮する状況にまで追い込まれた一方、Bは莫大な利益を得ており、判決には現れていませんが背後には反社会的勢力の存在もうかがわれる事件です。正面から「暴利行為」を認定し、破壊されたAの生活の回復に道を開き、裁判によって正義を実現した判決であり、負けてはならない事件であるという確信をもってあきらめずに努力を続けられたことに、Aの代理人として、感謝し心が打ち震える思いです。

▶ 本件は、平成30年11月27日、上告不受理決定(最高裁判所第三小法廷)により、勝訴が確定しました。

弁護士 谷川生子月岡 朗猪股 正

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