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奨学金問題対策全国会議

奨学金問題対策全国会議

現在、日本では大学や専門学校に通う学生の2人に1人以上が奨学金を利用していると言われています。日本では奨学金のほとんどが貸与型、つまり借金です。しかし他方で、昨今の就職難や低賃金により、奨学金の返済に困難を来している人も増加しています。

日本では、学費は高額であるにもかかわらず、給費型(=返済のいらない)奨学金はわずかしかなく、諸外国に比べ大学や専門学校で学ぶ学生への経済的支援は不十分と言わざるをえません。

そこで、弁護士や司法書士や教育関係者が中心となり、奨学金の返済に苦しむ方の相談や救済活動を行いながら、学費と奨学金の制度改革を目指す「奨学金問題対策全国会議」が2013年3月31日に設立されました。

当事務所の鴨田譲弁護士が事務局次長を務め、猪股正弁護士古城英俊弁護士も参加しております。

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1 奨学金とは?

奨学金とは、一般的に、大学等の高等教育機関に進学して学習する学生のために、例えば、家計所得が一定以下の場合(奨学)、あるいは、学業成績やスポーツ等で優秀な成績を修めた場合(育英)の学生への経済的援助制度としての金銭給付を言います。

奨学金を実施している機関は、大学、地方自治体、財団など様々な団体があります。独立行政法人日本学生支援機構(以下、「機構」という。)の「平成22年度奨学金事業に関する実態調査報告」によれば、奨学金を実施している機関は約4300あり、何らかの奨学金を利用して学校に通っている学生は約170万人、奨学金の事業額は合計で約11億5000万円にのぼるとされています。

機構は、その4300ある機関のうちの1つに過ぎないのですが、その利用者数は約123万人で利用者総数の約72%、事業額は約10億1000万円で奨学金事業額合計の約88%という圧倒的規模を占めています。
したがって、後記のとおり、現在の奨学金の返済に関する問題は、その多くが機構の奨学金に関するものです。

2 機構の奨学金の特色

機構以外の奨学金も含めると、日本の奨学金には、「貸与型奨学金」と「給付型奨学金」とがあります。しかし、世界的には、「奨学金」といえば給付型のもののみを指すのが一般的であり、貸与型の奨学金は「奨学金」ではなく「ローン」と呼ばれます。

機構の実施する奨学金(=実質的に国が実施する奨学金)は、貸与型奨学金しか存在しないのですから、世界の用語に倣えば、日本には、国が実施する高等教育を受ける学生への金銭給付はローンしか存在しないということになります。

OECD加盟国全34カ国のうち、大学授業料が有料でかつ給付型奨学金が存在しないのは日本のみなのです。

また、機構の奨学金には第1種(無利子)と第2種(有利子)のものが存在します。1998年度では、無利子の割合が約8割であったのに対し、2012年度では、無利子の割合が約3割と急激に低下しており、これは裏を返せば有利子奨学金の利用者数が飛躍的に上昇していることを意味します(1998年度では無利子が約39万人、有利子が約11万人であるのに対し、2012年度は無利子が約38万人、有利子が約96万人。)。

有利子奨学金の利子は最大で年3%であり、無利子、有利子いずれも延滞金は年10%です。延滞した後に返済した場合、返済金は延滞金、利息、元金の順に充当されます。
よって、延滞金発生後、月々に少額を返済したとしても、それが延滞金の返済のみに充てられ、元金は一向に減らないという事態も生じうるのです。

3 奨学金利用者増加の背景

そもそも学生が奨学金を借りざるを得なくなっている大きな理由として、大学の学費が高騰し続けていることが挙げられます。
いまから34年前の1979年に入学した世代の大学の初年度納付金(入学料+年間授業料)は、国立大学で約22万円、私立大学で約64万円でした。

しかし、その後大学の学費は上昇を続け、2010年に入学した世代では、初年度納付金が、国立大学で約82万円、私立大学文系で約120万円、理系で約150万円です。このように、大学の学費は急激に高騰し、特に国立大学の学費の高騰は顕著であって、お金がなくても国立大学に進学すれば何とかなるという時代も終わってしまったのです。

他方で、1990年代後半以降、平均世帯年収は減少を続けており、年収に占める大学学費の割合も大幅に上昇しています。このような背景のなかで、奨学金の利用者は増加を続けているのです。

4 奨学金返済困難者増加の背景

奨学金の返還に困難を来している者は、特に大学卒業後数年以内の若年層に多い傾向があると言われています。その理由は、昨今の就職難で職に就けなかったり、就職できたとしても非正規雇用で十分な賃金が得られなかったり、就職した職場がいわゆるブラック企業ですぐに辞めざるを得なくなるといったことが挙げられます。

他方で、機構は、奨学金債権の回収を強化しており、2010年からはその傾向が顕著です。具体的には、延滞3ヶ月でブラックリストに登録し、延滞4ヶ月で、債権回収をサービサーに業務委託、延滞9ヶ月になるとほぼ自動的に裁判所に支払督促の申立を行うという強硬な方針をとっているようです。

機構の支払督促の申立件数は、2004年は約200件であったものが、2010年には約1万件となり、わずか7年間で50倍もの申立件数となっています。

奨学金の延滞に関し、巷では、「本当は返せるのに、返さないだけではないか?」との疑いの声も聞かれますが、延滞すれば10%の遅延損害金が発生し、ブラックリストにまで登録される機構の奨学金制度のもとでは、返済しない場合のデメリットが非常に大きいため、あえて返済しない人が存在するとは考えられません。よって、奨学金を返済していない人は返済できない人と考えてよいと言えます。

5 機構の不十分な救済制度

奨学金の返済に困難を来した場合、機構には救済制度が複数存在するものの、いずれも適用の条件が厳しかったり、運用上の制約があったりと不十分なものであると言わざるを得ません。

例えば、最も一般的な救済制度として、申請により奨学金の返還期間を一定期間猶予する「返還期限の猶予」という制度がありますが、これは低収入(年収300万円以下)を理由とする場合は、最大で5年間しか認められず、猶予期間5年を使い切ると、それ以降は、無収入であろうとこの制度を使うことはできなくなります。

また、奨学金の返還の全部または一部を免除する「返還免除」という制度がありますが、これは本人が労働能力の大部分を喪失した場合などごく限定的な場面でしか利用できず、延滞金が発生した場合にこれを減額または免除する「延滞金減免」の制度も、利用できる場面は限られています。さらに、これらの救済制度を機構が奨学金利用者に十分に周知していない点も問題となっています。

6 破産も再生も困難~保証人の問題~

機構の奨学金を利用する場合、保証人を付ける個人保証か月々の保証料を支払って保証機関が保証をする機関保証のどちらかを選択することになっています。2011年度では、個人保証を選択した人が約54%で、機関保証を選択した人よりやや多いようです。
そして、個人保証を選択する場合には、連帯保証人1名、通常の保証人1名を付けることになっており、連帯保証人は親、保証人は親戚にしているケースが多いです。

個人保証を選択した人が返済困難になった場合、もし本人が破産や個人再生をすれば、機構の請求が親や親戚へなされることになるため、法的整理を躊躇する人も多いのです。

上記のように、機構の制度内での救済制度が不十分であるのに、個人保証の場合には、法的整理も事実上難しいということで八方塞がりの状態に陥ることが現在深刻な問題となっています。

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