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貧困ジャーナリズム大賞2022 受賞作品&選評(全14作品)

2023年1月24日、貧困ジャーナリズム大賞2022の授賞式(反貧困ネットワーク主催)があり、大賞を含む、全14の受賞作品が発表されました。

貧困ジャーナリズム大賞は、「貧困」に関する報道の分野でめざましい活躍をみせ、世間の理解を促すことに貢献したジャーナリストたちを顕彰するものです。日本社会が抱える貧困の問題において、隠されていた真実を白日の下にさらしたスクープ報道、綿密な取材で社会構造の欠陥や政策の不備を訴えた調査報道、地道な努力で問題を訴え続けた継続報道などが対象です。取材される側である当事者や専門家の側から見た報道の評価を年に1度、社会に示すものです。今回は第15回目となり、2021年7月~2022年10月までに発表された報道活動が対象です。

審査員:河添誠/白石孝竹信三恵子水島宏明/(反貧困ネットワークPT)猪股正/大塚恵美子/那須淑夫

【関連報道】
 毎日新聞:https://mainichi.jp/articles/20230125/k00/00m/040/016000c
 朝日新聞:https://digital.asahi.com/articles/ASR1S6F2XR1SUTFL00D.html

【貧困ジャーナリズム大賞】

松尾良 向畑泰司 田中裕之 山田奈緒(毎日新聞取材班)
ヤングケアラーをめぐる新聞連載と本の出版活動に対して

近年注目を集めている「若者による介護」の実態に、当事者への丹念な取材の積み重ねで迫っている。質的なアプローチだけでなく、ケアに関わる若者の量的な実態についても、既存の国の統計を生かしてつきとめようとするなど、多角的に現場に肉薄し、そうした報道による世論の喚起が国の調査の背中も押した。介護制度の貧困が若い世代への介護の重圧を生み出し、それが学業や将来設計にまで影響を及ぼして、次世代の貧困へと連鎖していく状況が描き出され、同時に、それらを単なる「観察対象」とするのでなく、取材者自らも問題の渦中にあるものとして描いていく手法は、介護を通じた貧困がもはや他人事でないことを、私たちに教えてくれる。
*毎日新聞・ヤングケアラーのWEBページ

【貧困ジャーナリズム賞】(順不同)

風間直樹 井艸恵美 辻麻梨子(週刊東洋経済取材班)
ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う

日本の精神病医療は、精神科病棟に長期入院させることが常態化しており、その問題は多く指摘されているところである。本作は、その実態をさらに深く追ったもので、衝撃的な事実が次々に叙述されている。拉致・監禁まがいの精神科移送、死にまで至る身体拘束、医療として必要かどうかもわからない薬漬けなどなど。さらに驚いたのは、それが精神科病院だけではなく、児童養護施設などでも薬物が子供に使われている事実が明らかにされていることだった。こうしたことが世界標準から見てどうなのかという点からも考察されており、貧困ジャーナリズム賞にふさわしいと評価した。 

池尾伸一(東京新聞)
家事労働者過労死事件をめぐる一連の報道に対して

住み込みによる家事代行・介護労働で過労死した家事労働者の女性の遺族が、国の労災不支給決定の取り消しを求めて提起した訴訟をめぐり、原告敗訴の1審判決の問題点を1面と他の関連記事で報じ、多角的な検証を展開した。加えて、厚労相との記者会見を通じ、国の住み込み家事労働者に対する実態調査の約束も引き出した。これら一連の報道活動は、個人家庭と契約する「家事使用人」を労働者保護の外に置く労基法116条2項の不当性を広く知らせ、また、こうした労働形態を通じて行われる家庭内での介護労働の危険性も明るみ出すことで、女性労働の脆弱さが女性の貧困を生み出している現状に警鐘を鳴らした。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/200268
https://www.tokyo-np.co.jp/article/205410
https://www.tokyo-np.co.jp/article/205481
https://www.tokyo-np.co.jp/article/207053

山下葉月 加藤健太(東京新聞)
生活保護の『扶養照会』都内28市区 実施率格差をめぐる報道

記者が支援活動を長期取材して問題のありかを見定めたからこそ実現した調査報道だろう。生活保護の「扶養義務」照会作業について都内の区や市の実施状況を調査し、自治体間に大きな格差があることを突きとめた。扶養照会をした場合でも困窮者本人への金銭援助につながる率はごくわずかで、扶養照会という手続きが形骸化している実態を明るみに出した。厚労省がDVなど「扶養照会が不要なケース」を通知に明記しても自治体の対応は恣意的で一律に親族に通知する対応があるなど、「扶養照会」が生活保護の利用者にとって大きな壁になっている現状を浮かび上がらせた。生活保護の「水際作戦」と闘い続ける支援団体からも高く評価された。

永田豊隆
書籍「妻はサバイバー

貧困問題の優れた取材記事で知られる朝日新聞記者の著者と精神疾患を抱える妻。夫婦2人の20年近くに及ぶ凄絶なルポ。妻の過食と嘔吐の繰り返し、過食の食材費で圧迫される家計、膨らむ借金。妻の感情爆発、精神病院への入退院、大量服薬、リストカット、アルコール依存、認知症の発症…。終わりなく続く介護で、著者の生活は一変し、仕事との両立に苦しみ、妻の回復を切望しつつ、時に、妻との決別をも思う自分との葛藤など、ありのままに語られる事実に圧倒される。

虐待被害者の心のケアの問題、精神障害者の介護を担う家族の孤立や絶望の深さ、その背景にある社会の無理解・無関心・差別・偏見、封じられる当事者の声、それらを助長してきた国の政策の問題など、これらを可視化して社会に提起した意義は極めて大きく、ケアの脱家族化・社会化の必要を痛感する。

「私みたいに苦しむ人を減らしたい」と願う妻と卓越したジャーナリストである著者が、共に苦難を生き抜いてきたからこそ生まれた類い希なるルポであり、深く敬意を表したい。

末並俊司
書籍「マイホーム山谷

2002年、東京山谷に夫婦二人三脚で21室のホスピスを立ち上げた山本雅基氏の栄光と挫折の物語。「かつて福祉が必要な人たちに手を差し伸べていた山本雅基さんは、差し伸べられた手を握る側になった。挫折だらけのその半生を見ていく過程は、私の中に芽生えた興味、つまり山谷に自然発生的に現れた福祉の仕組みを探る過程でもあった 」。本書を記すため10年間年末の炊き出しに通い、週末の3か月間ホスピスでボランティア、別れた妻を探すため1か月間を費やす。著者の真摯な姿勢に更なる活躍を期待したい。

岩井信行 大西咲 細野真孝ほか取材班
NHK『NHKスペシャル』「ヤングケアラー SOSなき若者の叫び」

ヤングケアラーと呼ばれる子どもや若者の生活を映像で見せる衝撃のドキュメンタリー。家族の介護などに追われることで学校での友人づくりも難しい。自分がヤングケアラーだという認識もなく、誰にも相談できない状況。現在ヤングケアラーの子どもだけでなくかつてヤングケアラーだった男性も登場する。介護や家事労働などに追われて学校での勉強や進路など多くのことを犠牲にして、「機会を奪われている」実態がよくわかった。映像メディアで取り扱うには障壁が多かったと想像するが、それだけに訴求力が高く、自分ごととして考えさせる報道になっている点を高く評価したい。

菅原竜太 村瀬史憲(名古屋テレビ)
名古屋テレビ 『テレメンタリー』「働いた。闘った。」

1986年に施行された男女雇用機会均等法ができる前、女性は職場で「差別」される存在だった。正社員として雇用されていても男性社員を支える補助的な存在としてしか認めてもらえない。男性と同じ仕事をしても賃金は3分の1程度。結婚や妊娠すると突然、女性だけ早期退職を迫られる。東海地方の物流会社で能力を認められて働き続けた女性の半生をドキュメンタリーとして綴った。本人が証言する通り、「働いた」ということが文字通り「闘った」につながっていた時代の貴重な記録だ。ジェンダーギャップ指数が156か国中120位で解決すべき問題が残る日本。現在地点を歴史的に照射したテレビ報道の価値は高い。

渋井哲也
書籍「ルポ自殺 生きづらさの先にあるのか」

自殺者は、当事者が死んでしまっているため、「なぜ死にたいと思ったのか」ということを本人から取材することが不可能である。このことが、自殺についての取材の大きな障害となる。本著は、「生きづらさ」を抱えた人たちへの多数の取材を積み上げており、結果として、そのなかから自死する人が出てきてしまうため、結果として多くの自殺者(自殺前の)から話を聞いている。多種多様な自殺の現実と背景とをていねいに叙述している本著は、日本社会の解決すべき課題を突き付けてもいる。貧困と自殺との関連について、さらに深めた議論も、この先に展開されていくのだろうと期待しながら読んだ。

大間千奈美 石田望(NHK)
NHK『Dear にっぽん』「HOME もうひとつの“家族”」

欧米であれば「難民」として認定されるようなケースでも在留資格を認められず「不法滞在」とされる外国人が多い日本。“仮放免”という名称で、働くことも許されず、行動範囲も制限されて、突然施設に強制収容されたり、本国に強制送還されたりする外国人も少なくない。自分の年金収入と寄付金から、そうした人たちに住まいを提供する眞野明美さん(68)の生き方を追った番組。名古屋入管に収容されて体調不良を訴えながら亡くなったスリランカ人ウィシュマさんとも事前に面会した眞野さんがその死を胸に刻み、自らも病気と闘いながらも身寄りのない外国人に徹底して寄り添っている。私たち日本人が何をすべきなのかを静かに問いかけてくる。

【貧困ジャーナリズム特別賞】(順不同)

川和田恵真
映画「マイスモールランド」

この映画は、現在の日本の入管制度や在日外国人の置かれた状況についての問題を正面から描いている。この映画は、幼少時から日本で暮らすクルド人高校生を主人公とすることで、普通の高校生のアルバイトすらできなくなること、日本国内での移動も制限されることなどの理不尽さを多くの観客にわかりやすく伝えることに成功している。外国人が医療や就労から排除されることによって、深刻な貧困状態がつくりだされており、それは日本社会の深刻な汚点である。それをドラマとして映像化し、劇映画として成功させたことは特筆すべきである。すでに多くの賞を受賞している本作であるが、貧困問題を描いた作品としても貧困ジャーナリズム大賞の特別賞にふさわしい。評者は、深い共感の涙とともに鑑賞したことも付記したい。

櫻木みわ
書籍「コークスが燃えている」

別れた恋人との再会、思いがけぬ妊娠に出産を決意するひの子。雇止めも間近な非正規雇用の身とコロナ禍の都会で孤立を深める日々に、授かった命の手ごたえに生きていく肯定感が芽生える。恋人との微妙な温度差や距離感が、女たちのつながりを生み、伸ばした手に励ましや勇気が伝わってくる。ひとりではない。時間と場所を越えた遠く筑豊の女坑夫たちが労苦の中で紡ぎ合ってきた他者とともに生きることの意味が連綿と受け継がれていく。新たな命は得られなかったが、つながった女たちの連帯の中で、ひの子の内なるコークスは熾きはじめる。孤立と貧困の社会の実相の中から、女たちのつながりが希望の焔をもたらす秀作に感謝を。

川上敬二郎 塩田アダム 廣瀬誠ほか取材班
TBS『報道特集』「『円安、物価高で生活困窮者は?』など一連の特集」

コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻による物価高騰で生活苦にあえぐ人たちが増えている。支援団体による食料配付の列は長くなる一方で最近は若者や女性も目立つ。「報道特集」は、非正規で働く人や母子家庭など景気動向に左右されがちな人々への視座を忘れず、当事者目線で伝え続けている。雇い止めで収入がない、携帯電話を止められて仕事探しもできない、バイトの激減で大学生活に支障が出ている学生など、様々な実態を映像でリアルに伝えている。ほかにも教員の過重労働、マスク着用の広がりで口元を読み取れずに新たな困難さに直面する聴覚障害者など、「少数者」への眼差しを忘れない。徹底した現場主義に基づく報道には敬意を表したい

清川卓史(朝日新聞)
朝日新聞「『カードで借金』『母の介護費が』国の貸付、借り切っても苦境」など、コロナ特例貸付、生活保護問題などの一連の報道

コロナ禍で生活に困窮する人が続出したが、生活保護の利用は伸びず、コロナ特例貸付の利用が激増した。記者は、特例貸付を限度額まで借り切った後の人を、早い時期から取材し、苦境から抜け出せない人が多いことに警鐘を鳴らした。その後も、住民税の課税ラインをわずかに上回るボーダー層が、非課税世帯向けの給付も受けられず、特例貸付の返済開始が迫る中で償還免除の対象にもならずに追い詰められている実態や、全国の都道府県社協への調査により免除申請が貸付総数の3割超にのぼることをいち早く明るみに出した。こうした報道により、生活保護の一歩手前の支援制度の欠如、最後の安全網であるはずの生活保護の機能不全といった社会保障制度の構造的欠陥を浮かび上がらせた。ほかにも、ペットと困窮広がる学生向け食料支援困窮世帯に多いヤングケアラー問題など、貧困の実態を様々な角度から社会に伝え、人間の弱さや、現場で力を尽くす人たちに温かい視線を注ぐ報道に、多くの人が励まされてきたことと思う。




【コラム】幸福を願う(弁護士猪股正)

 2023年、埼玉総合法律事務所は開所50周年を迎える。気付けば、入所後、その歴史の過半を超える月日が経った。私のような者を受け容れてきてくれたこの事務所の懐の広さに感謝するばかりだ。

 コロナ禍が急来したこの3年間も、事務所の大会議室を利用させてもらい、臨時電話回線を引き、全国一斉電話相談会の埼玉の拠点として、計17回、合計1万5000件以上の相談に全国連携で対応した。法律家のほか、労働、医療、こころ、生活支援の専門家など延べ約500人が参加し、コロナ禍を乗り越えて、地域での協働の取組を続けることができた。

 毎回、12時間、電話に向かい続けた。低年金や無年金で、生活が立ちゆかないという高齢の人からの相談が多い。「仕事もなく、生きる目標もない。明日死んでもいい。」「餓死・孤独死が自分に近付いていると思う。」「これで最後と思い電話しました。」。ニュースが映し出す全国旅行支援や年末年始の賑わいとは隔絶した現実。高度経済成長~バブルの崩壊~リーマンショックなどの社会変動を生き抜き、高齢となった今、孤立し生きる意味を感じられない社会。自己責任の名のもとに競争を強いられ、生まれた家の経済力が人生を大きく左右し、失敗すればやり直しがきかない社会。人間として生きる意味や幸福を求めることが一部の幸運な者の手にしか渡らない社会。こんな理不尽な社会のままなら、外から攻撃されるより先に、内部から崩れていく。

 50年を振り返り、自分、事務所、地域、この国の未来を考え、何ができるかをあきらめずに考え続ける1年を歩みたい。

弁護士 猪股 正

(事務所ニュース・2023年新年号掲載)




【コラム】奨学金保証人訴訟(弁護士鴨田譲)

日本学生支援機構の奨学金は、借りる際に人的保証を選択した場合、連帯保証人と保証人の2人を付ける必要があります。
この場合、民法上、連帯保証人は奨学金全額の支払義務を負いますが、保証人は半額しか支払義務を負いません(「分別(ぶんべつ)の利益」と呼ばれます)。
しかし、機構はこれまでに保証人に対し半額でなく全額を支払わせていたことが分かり、2019年5月、札幌地裁と東京地裁で各2名の原告が払いすぎた奨学金の返還等を求める裁判を起こしました。
2021年5月には、札幌地裁で過払金元金の返還を認める判決が下され、2022年5月の札幌高裁では、機構を「悪意の受益者」と認定し、過払金元金に加え利息も付した返還を命じました。

これを受け、機構は上告を断念し、半額以上の支払をした本件原告以外の保証人に対しても利息を付けて過払金の返還をすることになりました。
その後の2022年10月、東京地裁では和解が成立しました。
この和解では、保証人への返金通知書には理解しやすい平易な説明を行うこと、機構がデータを消去した場合であっても丁寧な対応に努めること、今後機構は保証人に対して半額を超える額を請求しないことなどを機構が約束しています。

機構については、今回のような誤りが発生した原因を十分に調査してもらいたいですが、元を辿れば機構奨学金の保証制度自体に問題がありますので、人的保証は速やかに廃止し、将来的には機関保証も廃止する必要があると思います。

弁護士 鴨田 譲

(事務所ニュース・2023年新年号掲載)




【コラム】フレッシュさを武器に(弁護士深谷直史)

はじめまして、2022年5月より埼玉総合法律事務所に入所しました、弁護士の深谷直史と申します。埼玉県川口市出身で、川口市立幸並中学校、埼玉県立大宮高校、一橋大学法学部、慶應義塾大学法科大学院卒です。趣味はランニングと写真を撮ることです。
司法修習では埼玉に配属され、埼玉弁護士会の先生方の暖かさに触れ、埼玉で働くこととなりました。

私は、大学時代に憲法ゼミに所属し、思想良心の自由について勉強していました。勉強を通じて、すべての人が個人として尊重される社会を実現したいという想いを抱き、弁護士を志しました。そのような活動を、故郷である埼玉県で始められることを大変嬉しく思っております。司法試験の勉強は大変でしたが、家族、友人、その他たくさんの方のサポートにより、無事に弁護士になることができました。自らの職務を通じて、少しずつ恩返しをしていきたいです。

地域に根差した、伝統ある埼玉総合法律事務所で弁護士としてのキャリアを始めることができ、大変光栄に思っております。約5年ぶりに入所した新人弁護士として、フレッシュさを武器に新風を吹かせていきたいと意気込んでいます。

まだまだ若手ではありますが、法律の専門家としての自覚と責任を持ち、一つ一つの事件に誠実に、粘り強く取り組んで参ります。
皆様の信頼にお応えできるような弁護士を目指し、熱意と誠意をもって職務に励みたいと思っております。  
今後もご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

弁護士 深谷 直史

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)




【コラム】誰もが平和を享受できる社会を(弁護士鈴木満)

昨年、日本政府が提出した出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正法案が廃案となり、本年1月に改正法案の再提出が見送られましたが、今秋の国会において再び政府から改正案が提出される可能性があると言われています。

政府は、ウクライナから逃れてきた人たちを、「避難民」と呼び、難民条約上の「難民」に該当しないことから、「準難民」制度を設けることで、「難民に準じて」保護することができるかのように説明しています。

しかし、難民条約の解釈に関する国際的なガイドラインに従えば、ウクライナから逃れてきた人たちを難民として保護することは可能であると言われています。

 政府は、難民条約上の「難民」の要件の解釈を極端に狭くしています。このことは、他国と比較しても著しく低い、日本の難民認定率の低さに現れています。このような解釈の結果、ウクライナから逃れてきた人たちを難民として保護できないにもかかわらず、あたかも、政府案によって保護が可能になるかのように説明することは、説明として妥当なものではありません。

昨年廃案となった政府案は、難民保護に反するおそれのある内容を含んでいましたが、政府は、ウクライナから逃れてきた人たちのことを名目に、この改正案に修正を加えずに、再提出する可能性もありますので注意が必要です。

ただし、現在の日本の制度でも難民が十分保護されているとは言えません。難民認定率は著しく低く、何度も難民申請をして、何年もかけて、ようやく難民として認められるような事例もあります。

政府は、日本国民が平和に暮らせる社会を作るだけでなく、平和な生活を求めて、戦火や迫害から日本に逃れてきた人たちの権利も適切に守る社会を作るべきです。

弁護士 鈴木 満

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)




【コラム】平和について考える(弁護士南木ゆう)

 毎年、8月になると否が応でも戦争のことを思い出す、唯一の被爆国である日本人は、そんな感覚の人が多いのではないでしょうか。

私も、戦時中小学校の教師をしていた亡祖母から、空襲の話や学童疎開の話を繰り返し聞きました。また、修学旅行で広島に行ったときは、被爆者の方から直接体験談を聞き、トラウマになるほどの強烈な思い出になりました。

飜って、今の子供たちに戦争はと聞けば、今年の2月に始まり、いまだ終結の兆しが見えないロシアのウクライナ侵攻になってしまったようです。今は、当時の戦争とは異なり、インターネットやテレビをつければ、リアルタイムで多くの映像や情報で溢れています。しかし、ドローンからの俯瞰の映像からは、現実の悲惨さがあまり伝わらず、どこか現実離れしたゲームの世界のように感じられます。たくさんの情報に接すると、物事を理解した気になってしまいがちですが、見たことが全てではなく、その背後にどのような人たちの暮らしがあったのか、どのような残虐な殺戮が日々起きているのか、想像力を働かせないと、なぜ戦争がダメなのか本当の意味が理解できないのではないかと考えています。そろそろうちの子供たちにも「はだしのゲン」を見せようかな、「アンネの日記」も良いね、「夕凪の街 桜の国」も見せたいな、一緒に「丸木美術館」にも行きたいな・・・など、私なりの戦争教育を考えている今日この頃です。

弁護士 南木 ゆう

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)




【コラム】生活保護引下げ違憲訴訟(弁護士鴨田譲)

2013年に強行された生活保護費引下げの取消しを求める裁判が全国各地で行われ、埼玉でも2014年から訴訟を行っています。
訴訟を始めてから8年目の今年6月、生活保護利用者である原告本人の尋問が実施されました。
私が尋問を担当した80代女性の方は、法廷で次のようなお話をされていました。
「普通、キャベツの一番外の葉っぱは捨てる人が多いと思いますが、私はその葉っぱも捨てないで使います。」、
「先日餃子を作りましたが、具は肉なしでキャベツのみの餃子です。」、
「亡くなっている友人もおり、本当は葬儀に参列したいのですが、香典が出せないので葬儀の参列はしていません。その代わりに、四十九日にお悔やみのお手紙と線香1箱を送るようにしています。」、
「孫の結婚式に行きましたが、ご祝儀をあげられないのがとても辛かったです。結婚式には、喪服を着て、自分で作ったコサージュのような飾りを付けて出席しました。お金を払わず立派な料理を食べて引け目を感じました。」、
そして最後に、
「何も贅沢をしたいと言っているわけではありません。せめて引下げ前の生活扶助費に戻して欲しいと言っているだけなのでそこをお願いします。」
と結びました。
この原告の訴えに応えるように、5月25日には熊本地裁で、6月24日には東京地裁で立て続けに国の行った引下げを違法とする原告勝訴判決が下されました。
埼玉訴訟も原告の想いに応え、これらの判決に続けるよう前進していきたいと思います。

生活保護基準引下げ反対埼玉連絡会ホームページ

弁護士 鴨田 譲

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)




【コラム】昔の話を聞くこと(弁護士月岡朗)

ご高齢の方との任意後見契約をすることで、ご高齢の方とお会いして、その人のこれまでの半生を伺うこともあります。その時に、ご経験された戦時中の状況のお話を聞くことがあります。私にとって、戦争といえば、依頼者であるご高齢の方から教えていただいた戦時中のお話が最も記憶に残っております。

既にお亡くなりになった依頼者の方もいますので、詳細について、説明は差し控えますが、戦時中にご生活されていた方の話を伺う機会を頂けたことは大変ありがたいことだったと思います。毎月お会いしている依頼者の方が、当時、何歳で、どこで、何をしていて、どのように生活してたのか。一人の人間として知り合った上で、教えていただけたことは、本やニュースとは違い、空腹や空襲を鮮明に想像できるものでした。

情けないことですが、子供の頃や学生の頃に触れた、戦争の被害を訴える記念館や、戦争を題材にした本は、大切なことと思ったものの、遠くのことと感じられました。

しかし、目の前のよくお会いする人から、戦争の話を聞くと、全く違って感じるものです。

もし、お知り合いのご高齢の方から戦時中の話を聞く機会があれば、当時のお話を聞いてみるのがよろしいかと思います。話の意味は、聞き手において後から作られるものです。戦時中の記憶を聞かせていただける機会を大切にしていただければと思います。

弁護士 月岡 朗

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)




【コラム】生きているうちに解決を(弁護士竹内和正)

建設アスベスト訴訟は、昨年5月、最高裁によって原告勝訴の判決が言い渡されました。国は最高裁での敗訴を受け、被害者に賠償するための給付金法を成立させた上で、支払いを開始しています。しかし、国からの給付は被害額の半分に過ぎず、アスベストが含まれる製品を作って利益を得ていた建材メーカーは、いまだ全国各地の裁判所で争い続けています。

この裁判は提訴からすでに14年が経過しています。14年はあまりに長い年月です。新人弁護士だった青年は中年になり、原告の皆さんは14つ年齢を重ねるか、もしくはお亡くなりになりました。この間、提訴時にご存命だった300人近くの原告の方が「解決」をみることができないまま亡くなってしまっています。

ただ、このような被災者数は単なる数字に過ぎず、それだけで被害の実態を把握することはできません。遺族として原告になった方それぞれの話を聞くたびに、名もない誰かが亡くなったのではなく、目の前にいる原告の方の愛する夫や妻、尊敬する親や祖父母、そして、大切な子どもがそれぞれに亡くなったのだと思い知らされます。原告の皆さんは、愛する家族が苦しいと繰り返しながら亡くなっていく壮絶な最期をなすすべなく看取り、この裁判に参加しています。使い古された表現ですが「奪われた命にはそれぞれに名前があり、全うすべき人生があった」はずです。なぜ被害救済がすすまないのか、なぜ、この人たちがいまだに苦しみ続けなければならないのか。

原告の皆さんから、「私ももういつまで生きられるかわからない。なんとか解決まで生きていられたらいいんだけど・・・。」という話をよく聞くようになっています。「もう少し頑張りましょう。」などと軽はずみに言うことはもうできません。

建設アスベスト訴訟は、「生きているうちに解決を」というスローガンのもと闘われてきました。もはや祈りに近い気持ちで「生きているうちに解決を」と考えています。

弁護士 竹内 和正

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)




【コラム】追悼 宮澤先生との思い出を振り返る(弁護士谷川生子) 

宮澤先生とご一緒した期間の短かった私が先生のことを書くのは僭越ですが、短いながらも先生と共同で事件を担当したことや、所内のイベント、飲み会で同席できたことは、私にとって貴重な経験でした。共同受任した勝ち筋の事件で「こりゃあ、儲かるぞ!ハッハッハ!」と冗談めかして言ったり、毎年、先生の誕生日頃に開かれる「宮澤カップ」で、にこやかにボウリング対決を見守る先生の姿が思い出されます。若い頃の先生は厳しく、ひたすら仕事に打ち込んでいたということですが、私はその厳しさの片鱗も見ることはありませんでした。知る限り、宮澤先生はいつも穏やかに、どんな出来事もどんな人物もすべて受け入れ、そこには何の垣根もありませんでした。依頼者からの信頼も絶大でした。いつも泰然と構えた先生は、私にとって、全てを超越した存在に見えたものです。

陸軍士官学校の士官候補生として特攻隊の訓練を受けたこともある先生は、戦後、裁判所に勤め、紆余曲折を経て弁護士になったそうです。「暴れん坊だった。」と自分のことを話す先生は、裁判所では組合活動に熱心な異端児で、(辞めてほしいがため)周囲から司法試験を受けるよう勧められ、仕事中に勉強することも許されていたとのこと。「戦後は憲法(価値の実現)のために、ひたむきに生きてきた」というのは先生の死後、奥様の言葉です。そのひたむきさが多くの人を動かし、平和な社会の礎を築くことにつながったことを思うと、これまで直接戦争を体験せずに来られたことを当たり前と受け止めてはいけないように思います。

弁護士 谷川 生子

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)