【コラム】親なき後(弁護士 月岡朗)

2023年6月2日と6月26日の2日間で、日本弁護士会連合会埼玉弁護士会の共催で、「親なき後について、弁護士とともに考える」とのセミナーを実施しました。

障害のあるお子様をお持ちの親御様にとって、将来、自分が亡くなった後のことは大変重要な問題かと思います。
残されたお子様の生活はどうなるのか。親なき後、誰がお子様の面倒をみるのか。
簡単に答えの出ることではないけれど、そのような不安や悩みを親御様と一緒に考えていきたいと思い、上記のセミナーを開催しました。

セミナーでは、民事信託成年後見制度等の法制度に関する講演に加えて、お子様の今の生活を守っていけるように、親御様が元気なうちにお子様に合う支援者を探すことの大切さや、親御様から支援者にお子様の様子を伝えて、支援者がお子様を理解した上で支援することの重要性が話されました。

また、グループディスカッションも行い、多くの親御様から多くの質問が寄せられました。
寄せられた質問に弁護士が答えていくなかで、親御様と弁護士で、お互いの人となりや性格が見えてきたのではないかと思います。支援する側と支援される側の間では相互理解が重要ですが、今回のグループディスカッションは親御様と弁護士の相互理解を深めるひとつの方法と感じました。

今後も、親御様やお子様との交流を継続し、親御様やお子様と一緒に、よりよい支援を考えていけたらと思います。

弁護士 月岡 朗

(事務所ニュース・2023年夏号掲載)




【コラム】昔の話を聞くこと(弁護士月岡朗)

ご高齢の方との任意後見契約をすることで、ご高齢の方とお会いして、その人のこれまでの半生を伺うこともあります。その時に、ご経験された戦時中の状況のお話を聞くことがあります。私にとって、戦争といえば、依頼者であるご高齢の方から教えていただいた戦時中のお話が最も記憶に残っております。

既にお亡くなりになった依頼者の方もいますので、詳細について、説明は差し控えますが、戦時中にご生活されていた方の話を伺う機会を頂けたことは大変ありがたいことだったと思います。毎月お会いしている依頼者の方が、当時、何歳で、どこで、何をしていて、どのように生活してたのか。一人の人間として知り合った上で、教えていただけたことは、本やニュースとは違い、空腹や空襲を鮮明に想像できるものでした。

情けないことですが、子供の頃や学生の頃に触れた、戦争の被害を訴える記念館や、戦争を題材にした本は、大切なことと思ったものの、遠くのことと感じられました。

しかし、目の前のよくお会いする人から、戦争の話を聞くと、全く違って感じるものです。

もし、お知り合いのご高齢の方から戦時中の話を聞く機会があれば、当時のお話を聞いてみるのがよろしいかと思います。話の意味は、聞き手において後から作られるものです。戦時中の記憶を聞かせていただける機会を大切にしていただければと思います。

弁護士 月岡 朗

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)




【コラム】もし自分が同じ立場だったら(弁護士月岡朗)

弁護士として働くなかで「もし自分が同じ立場だったら…」と想像することがあります。精神障がいのある方が,強制入院を強いられて「退院させてほしいのです。」と相談してきた時は,そのような想像をした場面のひとつです。
日本は,精神障がいのある方が精神科病院へ入院する場合に,諸外国に比べて,①本人の同意のない強制入院の割合が多く,②入院期間も非常に長いという問題があります。

まず,①強制入院の割合については,EU諸国では強制入院の比率が平均10%台であるのに対して,日本では2020年6月30日時点で,入院者約27万人のうち,約48%にあたる約13万人が強制入院である医療保護入院です。(医療保護入院とは本人の同意なしに,医師の診察と家族等の同意等で入院させる入院形態です。)日本の強制入院の割合の高さは突出しています。次に,②入院期間についても,精神科病院の平均入院日数は,2017年の統計によると,OECD加盟国の多くが40日を超えていないにもかかわらず,日本では260日を超えております。約7倍の入院期間です。また,厚生労働省の調査によれば,2017年の入院者約27.8万人のうち,5年以上の長期入院が約9.1万人(約33%),10年以上の長期入院が約5.4万人(約19%)となっています。また,「受け入れ条件が整えば退院可能」とされている方は約5万人に上ります。

このような強制入院制度は,対象となった方の人生に決定的かつ重大な影響を与えます。人格,名誉を傷つけ,地域で等しく教育を受け,また,人を愛し愛され,働き,家族をもつなど,人生の選択の機会が損なわれます。
2021年10月15日,日本弁護士連合会は,第63回人権擁護大会において「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」を採択し,強制入院の廃止を目指すこととなりました。
どうか,ご理解とご支援を頂ければと思います。

弁護士 月岡 朗




コロナの日々で思ったこと(弁護士 月岡 朗)

2020年11月に、埼玉弁護士会において、奈良県の佐々木育子弁護士を講師にお招きして、任意後見契約とホームロイヤーに関するセミナーを開催しました。
セミナーの中で、ある老人ホームが、入居する高齢者に対して「あなたは私の大切な人です。」「あなたが忘れても、私が覚えています。」とのメッセージを伝えているとの話がありました。老人ホームに入所する方の中には、さまざまな事情の方がいると思いますし、認知症による今後の生活に不安を感じている方もいると思います。そういう方の気持ちに寄り添った、素敵なメッセージだと思いました。

今年は、コロナウィルスの感染防止のために、親戚や友人と会えなくなりました。自粛と感染防止策の毎日で、人とのつながりが薄くなったようにも思います。人と気持ちを通じ合わせることや、身近な人を傍に感じることも難しくなったように感じます。

そんな今だからこそ、大切な人に「あなたは私の大切な人です。」というようなメッセージを伝えることが重要だと思います。経済対策や給付金も重要ですが、人とのつながりを感じさせるメッセージは、コロナの日々を乗り切る力を与えてくれると思います。

弁護士 月岡 朗

 

(事務所ニュース・2021新年号掲載)

 




私のお気に入り(弁護士 月岡 朗)

私の趣味は、ランニングである。私のランニングコースは河川敷である。

走る人は、いくつかのランニングコースを持っていると聞くが、私には2つのランニングコースがある。
家を出て少し走れば河川敷がある。この河川敷を右に行くか、左に行くか。左右で2つのランニングコース。この2つのコースを10年間走っている。
10年の間に引っ越したことがあるが、いつも川の近くの近場で引っ越しをしている。そのため、同じ河川敷のランニングコースを走る生活は変わらない。この2つのランニングコースが私のお気に入りである。

河川敷を走る前は、公園や市街地などを走っていた。しかし、河川敷を走るようになってからは、公園や市街地は走らなくなった。市街地は信号で立ち止まらなければならず、公園は同じ道を何回か走ることになるので、何か窮屈さを感じるのである。河川敷はそんなことはない。自由に走ることができるので、河川敷しか走らなくなった。他のランニングコースを探すこともない。2つの河川敷のコースで私には十分である。
河川敷は止まらずに走り続けられることが一番の魅力であるが、他にも魅力がある。
晴れた日に、太陽の光が川の水面に乱反射し、樹木の葉が青々と輝くことや、川を眺めていると何か癒やされるような気がしてくることも河川敷の魅力である。

気になる方は、ぜひ近くの河川敷を走ってみて下さい。普段のストレスを忘れて、自由な時間を過ごせると思います。

弁護士 月岡 朗

 

 

(事務所ニュース・2020夏号掲載)

 




「結婚できない男」について(弁護士 月岡 朗)

この原稿を書いている今は続編が放送されていますが、私は「結婚できない男」というドラマが好きです。このドラマの主人公は、阿部寛さんが演じる桑野信介(続編では53歳)という未婚のおひとりさまです。偏屈で皮肉屋な主人公桑野信介の言動と、周囲とのやりとりが面白く、阿部寛さんの傑作だと思っています。

私個人は、おひとりさまや高齢者に関する業務(任意後見契約、民事信託、遺言作成、死後事務委任契約など)をすることが多いのですが、もし、私がおひとりさまの桑野信介から任意後見契約等の相談を受けた場面を想像すると、偏屈な桑野信介の対応には、なかなか苦労するような気がします。独善的で毒舌な桑野信介にあきれてしまうことも、口喧嘩になることもありそうです。もっとも、ドラマのヒロインの桑野信介の主治医や弁護士は、何度、桑野信介と喧嘩しても、ヒロインの立ち位置を維持しているので、私が喧嘩しても委任関係に影響は無さそうです。

「結婚できない男」の続編のインタビューで阿部寛さんが「いろんな人がいて、それを認め合える世の中になってほしい。このドラマを見て、そう考えてもらえたら、うれしい。」と話している記事を見ました。本当にそのとおりだと思います。結婚する・しない、子供のいる・いない等、人との違いを気にせずに、周囲の人とつながりながら暮らすことができれば、素敵なことだと思います。「結婚できない男」のさらなる続編を期待しています。

弁護士 月岡 朗

 

(事務所ニュース・2020新年号掲載)

 




民法改正 賃貸借契約(弁護士 月岡 朗)

①賃貸期間の上限を50年に
改正前の民法では賃貸期間の上限は20年とされていましたが、50年に改正されました(改正民法604条)。これは、大型のプロジェクトや重機、プラントのリース契約などにおいて20年を超える賃貸借契約を結びたいというニーズがあったからです。
ただ、建物の賃貸借契約や建物所有目的の土地の賃貸借契約については、借地借家法により賃貸期間の上限はありません。

②貸主の修理義務・借主の修理の権利
貸主は原則として賃貸物を修理する義務を負いますが、借主の責任で修理が必要となった場合には修理する義務はありません(改正民法607条)。
また、借主は、緊急の必要がある場合や、貸主に修理を求めたのに貸主が相当の期間内に修理しない場合には、自ら賃貸物を修理することができます(改正民法607条の2)。

③借主の原状回復義務
借主が、賃貸物受取り後に生じた損傷について原状回復する義務を負うことが条文に書かれました(ただし、通常の使用での損傷や経年変化、賃借人の責任のない損傷は除く。改正民法621条。)。

④貸主の地位の移転と敷金のルールの明確化
賃貸不動産が売却された場合に、買主が、売主から貸主の地位を引き継ぐ場合のルールが明文化されました(改正民法605条の2)。
また、賃貸借契約が終了した場合に、敷金が未払賃料等に充当される等、敷金に関するルールが明文化されました(改正民法622条の2)。これらのルールは、これまでの判例や実務における運用を明文化したものです。

弁護士 月岡 朗

 

(事務所ニュース・2019夏号掲載)

 

 




民事信託・ホームロイヤー(弁護士 月岡 朗)

最近、民事信託や家族信託についての相談が増えてきました。
成年後見制度では、家庭裁判所などの監督もあり、高齢者の希望する生活を実現しにくい現実があります。これに対して、民事信託やホームロイヤーは、高齢者が希望する生活を実現しやすい制度です。そのため、自分の希望する生活を送りたいと思い、民事信託やホームロイヤーの利用を検討する人が増えているのです。
自分の好きに生きたいと思うのと同じくらい、自分の希望どおりに亡くなっていきたいと思うのは自然なことです。例えば、身体が不自由になったときに、自宅で過ごすのか、施設で過ごすのか。回復の見込み病気のときに、人工呼吸器をつけて延命治療を望むのか、延命治療を望まないのか。高齢者の希望に沿った対応が実現できたらと思う場面は少なくありません。
しかし、終末期にはご本人の意識が無かったり、認知症が進行してからでは、家族もどう対応していいのか困ってしまう場合もあります。簡単な問題ではありませんが、家族や弁護士と相談して、自分の希望する生活が送れるように準備しませんか。

弁護士 月岡 朗




施設・病院と身元保証人 (弁護士 月岡 朗)

高齢者が施設や病院に入所する際に、身元保証人を求められることがあります。
厚生労働省の委託調査によれば、95.9%の施設が身元保証人や身元引受人の署名を求めており、署名がないと受け入れないと回答している施設等も少なくありません。
この身元保証人になってくれる親族がいなくて、どうしたらいいのでしょうかという相談が寄せられます。
そもそも、施設等が身元保証人を求める理由は、施設利用料等の滞納の不安や、入所者が死亡した場合に円滑に対応するためです。
しかし、施設利用料等の滞納や死亡時の対応については、弁護士が成年後見人やホームロイヤーになっていれば、ほとんど問題を生じません。
実際に、成年後見人やホームロイヤーが存在する場合に、身元保証人を要求しない施設や病院も多くあります。
また、高齢者において身元保証人がいないと施設に入所できないと思い、不適切な身元保証団体に多額の費用を支払う消費者被害も発生しています。
身元保証人に関しては、施設や病院の抱えるリスク等に配慮しつつも、ホームロイヤーや成年後見人の代替手段を活用する等して、高齢者が安心して施設に入所できるようにしなければなりません。

身元保証人についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、ご相談下さい。

弁護士 月岡 朗




家族信託とホームロイヤー(弁護士 月岡 朗)

弁護士  月岡 朗

私たちは、いつか、認知症や体が不自由になることにより、自分の財産を管理できなくなる可能性があります。
いつか来るその時に、誰が、私たちの生活を守ってくれるのでしょうか。

このような問題の解決方法として、最近、家族信託、ホームロイヤー制度が普及してきています。
これまでは成年後見制度が高齢者の財産管理の議論の中心でしたが、
成年後見制度では、見知らぬ専門職(弁護士、社会福祉士、司法書士)が高齢者の財産管理を引き受けることがあります。

本来、弁護士等に財産管理をゆだねる前に、弁護士等と信頼関係を築いて、信頼できる弁護士等に財産管理をしてもらいたいというのが自然でしょう。
また、自分の希望や生活状況を十分に分かってくれた上で、希望に沿った財産管理の方法が望ましいと思います。

ホームロイヤーや家族信託を活用することで、弁護士と信頼関係を築いてから、信頼できる弁護士に財産管理を依頼することや、信頼できる親族に財産管理を任せることも可能です。
また、ご自身の希望や経済状況、生活状況に沿った財産管理が実現できます。
近時、ホームロイヤーや家族信託制度の活用事例は増えており、今後、より高齢者が安心でき、高齢者の希望に沿う、ホームロイヤーや家族信託が求められることになると思います。