【コラム】入管法改定(弁護士 鈴木満)

本年6月9日、多くの反対がある中、出入国管理及び難民認定法(入管法)の改定案が参議院本会議で強行採決により可決され、成立してしまいました。

私は、この改定の内容には、様々な問題があると考えていますが、その一つが、改定前から存在する、送還停止効と呼ばれる難民認定申請者に対する強制送還を禁止する定めに例外を設け、3回目以降の難民認定申請者は、一部の場合を除き、難民認定手続き中であったとしても送還が可能となる点です。

難民認定申請者の子どもたちの中には、現時点で、すでに2回以上難民認定申請を行っている子どももいます。また、日本で生まれ育った子どもであっても、すでに3回目の難民認定申請手続きを終えた子どももいます。

そのため、改定された入管法では、日本で生まれ育ち、他の国にも行ったことがないような子どもですら、その意に反して、日本から退去させられる可能性があります。

アメリカでは、大学等で、非自発的な帰国が青少年に与える影響について研究がなされているそうです。
その研究では、強制送還のような非自発的な帰国は、青少年の成長過程に大きなマイナスの影響を与えるだけでなく、心理的な衝撃を与え、長期的な精神的トラウマを生む極めて非人間的なものであると認識されているそうです。

改定された入管法の施行は来年ですが、今回の改定によって、非人道的な不当な扱いを受ける外国人が増えないように、今後の動向を注視していきたいと思います。

弁護士 鈴木 満

(事務所ニュース・2023年夏号掲載)




【コラム】考えることをあきらめない(弁護士鈴木満)

2022年に扱った事件を思い返してみると、当初は、こちらの主張が認められる見通しは厳しいと思っていたものの、結果として、認められた事件が多かったように思います。

事件の見通しを考える作業の一つとして、過去の裁判例を見て、似たような事件でどのような判断が下されているのか確認することがあります。その作業の中で、あまりいい見通しが立たないと、事件を進めていくときに、とても悩みます。反論の書面の作成がなかなか進まなかったり、相手側の証人に対する反対尋問を考えるときに何をどのように聞いたら証言の信用性を下げることができるのか苦慮したりすることがあります。上記の事件でも、たくさん悩んで苦しい思いをしたことがありました。

しかし、そんな時でも、あきらめずに、粘り強く、事件記録や資料に向かい、考え続け、そして、行動することで、良い結果を出すことができることもあると強く感じました。

昨年カタールで開催されたサッカーワールドカップ、日本対スペインの試合で、決勝アシストをした三苫選手のプレーは、まさに、あきらめない気持ちを体現するようなプレーであり、なんだか勇気をもらったというか、勝手に、背中を押してもらったような気持ちになりました。

今年もよりよい解決を目指して、目の前の事件に、粘り強く取り組んでいこうと思います。そして、入会してからなかなか行くことができていないジムにも、あきらめずに行く努力をしようと思います。

弁護士 鈴木 満

(事務所ニュース・2023年新年号掲載)




【コラム】誰もが平和を享受できる社会を(弁護士鈴木満)

昨年、日本政府が提出した出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正法案が廃案となり、本年1月に改正法案の再提出が見送られましたが、今秋の国会において再び政府から改正案が提出される可能性があると言われています。

政府は、ウクライナから逃れてきた人たちを、「避難民」と呼び、難民条約上の「難民」に該当しないことから、「準難民」制度を設けることで、「難民に準じて」保護することができるかのように説明しています。

しかし、難民条約の解釈に関する国際的なガイドラインに従えば、ウクライナから逃れてきた人たちを難民として保護することは可能であると言われています。

 政府は、難民条約上の「難民」の要件の解釈を極端に狭くしています。このことは、他国と比較しても著しく低い、日本の難民認定率の低さに現れています。このような解釈の結果、ウクライナから逃れてきた人たちを難民として保護できないにもかかわらず、あたかも、政府案によって保護が可能になるかのように説明することは、説明として妥当なものではありません。

昨年廃案となった政府案は、難民保護に反するおそれのある内容を含んでいましたが、政府は、ウクライナから逃れてきた人たちのことを名目に、この改正案に修正を加えずに、再提出する可能性もありますので注意が必要です。

ただし、現在の日本の制度でも難民が十分保護されているとは言えません。難民認定率は著しく低く、何度も難民申請をして、何年もかけて、ようやく難民として認められるような事例もあります。

政府は、日本国民が平和に暮らせる社会を作るだけでなく、平和な生活を求めて、戦火や迫害から日本に逃れてきた人たちの権利も適切に守る社会を作るべきです。

弁護士 鈴木 満

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)




【コラム】実りのある年(弁護士鈴木 満)

時の流れは早く、気づけば弁護士登録をしてから5年が経ちました。大変な思いもたくさんしましたが、様々な貴重な経験を詰むこともできたと思います。

特に昨年は実りが多い年でした。その中の大きな出来事の1つは、過労死弁護団全国連絡会議の事務局に就任したことです。過労死弁護団全国連絡会議とは、全国の過労死問題に取り組む弁護士が所属する団体で、社会問題になる前から過労死の問題に取り組んできたベテランの弁護士も数多く所属しています。

私は、数年前から東京の過労死・労災事件において著名な弁護士の先生方と一緒に過労死・労災事件に取り組んできました。
頑張って取り組んできたかいあってか、その中の先生の1人にお声がけいただき、過労死弁護団全国連絡会議の事務局に就任することになりました。

また、もう1つの大きな出来事は、私が出演しているドキュメンタリー映画の東京クルド」が公開されたことです。出演しているといっても、主人公は、私の依頼者であり、私が映るのは、ほんのわずかなのですが、自分が映る映画を映画館で見るというのは、とても貴重な経験でした。いろんな方から、映画を見たとお声がけいただきました。この映画は、日本に住む在留資格のない若者の実情がわかる、とても良い内容で、私の周りでも、評価も高いようでした。

5年間の弁護活動を通して、得ることができた立場に恥じぬよう、今後も精進していきたいと思います。気を引き締め直して、今年も頑張ります。

弁護士 鈴木 満




【コラム】人生を左右しうる資格(弁護士鈴木 満)

弁護士として携わらせていただく事件の中には、依頼者の方の人生に関わる事件が多いですが、外国人の在留資格に関する事件も、そのような事件の1つです。

在留資格とは、外国人が日本に適法に滞在するために必要な資格です。在留資格がないことで、夫婦や親子が別々の国に引き裂かれてしまい、時には、二度と日本で一緒に生活することはできなくなるなど、在留資格を得られないことは、大きな不利益を生じさせることがあります。

私が携わった事件の中には、在留資格の取得・変更が困難と思われても、在留資格を得ることができたものもありますが、達成感よりも、本当に良かった、という安堵感の方が強かったです。

在留資格には、複数の種類があり、それぞれについて取得・更新・変更するための要件が決まっています。
在留資格に関する申請は、出入国在留管理庁などの行政側に行うのですが、抽象的な要件があったりして、要件を満たすかどうかの判断には、行政側に広い裁量があります。行政側の判断を裁判で争った結果、在留資格が得られる場合もあります。

在留資格は、外国人の人生に大きな影響を与えうるものであるため、要件を具体化するなど、行政側の判断が恣意的なものにならないようにすべきです。

先日、廃案となった、出入国管理及び難民認定法、いわゆる、入管法の改正案は改悪であるとして多くの反対がありましたが、外国人の人権救済につながる意味での見直しは、行われていくべきだと思います。

弁護士 鈴木満

(事務所ニュース・2021年夏号掲載)




心の健康も大事に(弁護士 鈴木 満)

昨年は、新型コロナウイルスに感染するのを防ぐために、ゴルフや登山、ボルダリングといった趣味、飲み会を自粛していたため、なんとなく気持ちが沈みがちになっていた気がします。憲法25条1項では、健康のみならず「文化的な」生活をする権利が保障されていますが、趣味に没頭したり、他者と交流したりして、「文化的な」生活をすることの大事さを痛感しました。

気持ちが沈みがちなままではよくないと思い、自分の気持ちが前向きになれる方法はないか調べたところ、うつ病のような精神的な病気の患者には、脳内の神経物質であるセロトニンに作用する薬が処方されることを知り、このセロトニンを増やせばいいのではないかと思い至りました。そして、セロトニン神経を活性化させる、セロ活というものがあることも知り、その実践を始めました。
具体的には、日光を浴びながら歩くことがいい、ということなので、自転車で通勤していたところを徒歩で通勤するようになりました。歩くときには呼吸を意識しながら歩くのがいいそうです。

また、バナナや大豆が良いそうで、毎朝バナナを食べ、豆乳を飲むようになりました。
手洗い等を徹底して新型コロナウイルスに感染することを予防するとともに、セロ活を続けて心が弱ってしまうことも防いで、身体も心も健康な一年にしたいと思います。

弁護士 鈴木 満

 

(事務所ニュース・2021新年号掲載)

 




コロナと外国人(弁護士 鈴木 満)

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐために、入国規制が行われた結果、来日予定であった技能実習生が来日できなくなったことで、農業では、人手不足となり、その結果、野菜などの値段が高騰しました。
これは一例ですが、新型コロナウイルス感染症は、日本社会がいかに海外、外国人に依存していることを浮き彫りにしました。

外国人労働者は、日本社会を構成する人たちとして無視できない存在となっていると言えると思います。本年6月28日には、「日本語教育の推進に関する法律」が施行され、日本語に通じない外国人や日本国籍を有していても日本語に通じない人に対する日本語教育の推進に関する、国、地方自治体、事業主の責務が法律で定められました。
日本社会の一員ともいえる外国人労働者ですが、労働力の調整のために使われているところもあるため、新型コロナウイルス感染症による不況によって、影響を受けやすいのがこの外国人労働者です。

留学生の中には、飲食店などでアルバイトして学費や生活費を稼いでいる人も多いため、店が休業したことにより、収入がなくなり、生活に困窮している人もいると聞きます。また、技能実習生は決まった職種の実習先でしか働くことができず、実習先が倒産しても、次の実習先が見つからなければ、帰国しなければなりません。技能実習生の中には、日本での収入を充てにして、多額の借金をして来日する人もたくさんいるため、途中で帰国することは、とても大変なことです。留学生や技能実習生以外の外国人でも、在留資格が日本国内での職業と結びついている人がたくさんおり、そういった人たちの中には、職を失えば、帰国せざるを得なくなる人もいます。

ここで書いたこと以外にも、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の情勢の中では、外国人だから、ということで、様々なところで大変な思いをしている外国人がいると思います。外国人だから、日本人だから、ということで区別することなく、日本社会を構成する一員として手を取り合ってこの困難を乗り越えていけたらと思っています。

弁護士 鈴木 満

 

(事務所ニュース・2020夏号掲載)

 




伝える、伝わる(弁護士 鈴木 満)

昨年は、日本にいる外国人問題に関する情報を発信させていただく機会が多かったように思います。
いのちと健康を守る埼玉センターや埼玉弁護士会での学習会の講師をさせていただきました。また、「第39回全国クレサラ・生活再建問題被害者交流会」というシンポジウムの中で、外国人問題に関する分科会の責任者をやらせていただきました。
事務所内の会議でも、外国人問題に関する発言の機会が多かったように思います。

そのような中で、一番うれしかったのは、問題意識を共感してもらえたことです。
講義の内容に関する質問をたくさんいただいたり、聞いている方々が頷きながら話を聞いてくださるのを見たりして、問題意識が伝わっているのをみると、とてもうれしかったです。引っ込み思案で、あまり自分から発信するのが得意ではないのですが、私でも伝えられることがあるのなら発信していこうと思いました。ただ、私の話はどうも固く、難しくなりすぎるようです(この文章にもその傾向が表れている感じがしますが)。
わかりやすくとっつきやすい話ができて、より自分の思いを伝えることができるような話術を磨きたいです。

弁護士 鈴木 満

 

(事務所ニュース・2020新年号掲載)

 




若者と選挙 (弁護士 鈴木 満)

若者の投票率が低いことについて、若者が政治離れをしていると表現する人がいます。
しかし、衆議院議員総選挙における年代別投票率の推移をみると、20歳代から60歳代の投票率はどの年代も20%から30%程度下がっています。
この結果からすると、政治離れをしているのは、若者に限られないのではないでしょうか。
若者は、日本社会で何十年も生きていくため、政策に最も利害関係を有する年代と言え、政治の動きに関心を持つのが自然だと思います。私は、今年で30歳を迎えましたが、私の周りにも、20代のころから、政治の動きに興味関心がある人が少なからずいました。
それにもかかわらず20歳代の投票率が低い理由については、様々なことが考えられます。
政治のことに強い関心が持てないほど働かなくてはいけない働き方の問題、政治から遠ざけるような学校教育の問題、不便な投票システムの問題などなど。
ただ、私たちが大きなシステムを変えることは容易ではありません。
私たちがまず行うべきことは、私たちのような大人が日常会話の中で政治の話をしたり、ちゃんと投票へ行ったりすることではないでしょうか。
「今どきの若者は」などと言わず、自分たちを省みていくことも、若者の投票率を上げることにつながると私は思います。
例えば、上司が飲み会などで部下である若者に社会問題に関する話をしてみてはどうでしょうか。
いきなり「どの政党を支持しているか」と聞いては答える側も難しいと思います。例えば、今、話題になっている年金について、「将来年金をちゃんともらうためにはどうしたらいいか」という話から入っても、深掘りすれば「今の与党の政策は大丈夫なのか」という話になるのではないかと思います。
若者も意識を変えなければならないところはありますが、未来の日本を担う若者にちゃんと政治に関心を持ち、投票へ行ってもらうために私たちも意識を変えなくてはならないと思います。
いつか「プロ野球のどのチームを応援しているか」くらいに、「どの政党を支持しているか」も気軽に話ができるような社会になればと思います。

弁護士 鈴木 満

 

(事務所ニュース・2019年夏号掲載)




言葉の壁(弁護士 鈴木 満)

弁護士になってから、言葉の持つ意味に敏感になりましたが、若者の言葉は難しいですね。「ワンチャン」や「卍」は多義的なもののようで、私は、未だに使いどころがよくわかりません。このように言葉の中には多義的なものもあり、適切な場面で適切に言葉を使わないと、真意が伝わらず、対立が生じることがあるように思います。

日本語同士でも、言葉足らずや言葉遣いが原因で対立が生じるのですから、日本語と外国語であればその傾向はより強くなり、対立が生じやすいと思います。
先日、日本政府の試算では、5年間で最大約35万人の外国人の受け入れを見込んでいる旨の報道が出ました。平均すると1年間で約7万人もの増加です。来日が想定される外国人が使用する言葉も、東南アジアだけでも、中国語、ベトナム語、タガログ語、クメール語、ネパール語などがあり、南米、アフリカも含めれば、さらに多くなります。日本語をある程度話せることを前提に入国を認めることになるとは思いますが、それでも日本人と外国人のコミュニケーションの問題は大きなものになってくるでしょう。

外国人の方の法律相談でも、慎重に言葉を選べば日本語でもコミュニケーションがとれることもありますが、どうしても微妙なニュアンスというものは、なかなか伝わらないことがあります。今後、急激に外国人が増加することが考えられます。よりよいリーガルサービスを提供できるように、今年は積極的に外国語にチャレンジしてみようと思います。

弁護士 鈴木 満