【コラム】生活保護訴訟-さいたま地裁は勝訴、全国は最高裁へ-(弁護士 鴨田譲)

2014年8月にさいたま地裁に提訴をした生活保護基準引下げ違憲訴訟(埼玉訴訟)ですが、約8年半の審理を経て、2023年3月29日、原告側勝訴の判決が言い渡されました。
この裁判は、国が2013年から2015年まで、3度に渡る生活扶助費の引下げを行い、この結果、総額670億円、最大で10%もの生活扶助費の大幅な引き下げがなされたことに対し、取消し等を求めた裁判です。
全国29の地方裁判所で1000名以上の方が原告となり、埼玉では35名の方が原告となって裁判を行っていました。この裁判は既に各地で地裁判決が下されています。
昨年3月の時点では、原告側から見て勝訴判決は1件のみ、敗訴判決は8件でしたが、昨年5月の熊本地裁で2件目の勝訴判決が出て以降、立て続けに勝訴判決が下され、本判決の時点で8勝9敗となりました。
今回の埼玉での判決は勝訴判決ではあるものの、それまでの7件の勝訴判決とはその理由が異なり、実質敗訴の内容も含む問題のある判決でした。そのため、被告側からも控訴されましたが、原告側からも控訴を行いました。

この判決から約2週間後の4月14日、本訴訟で初の高等裁判所判決が大阪高裁でありました。結果は、原告側敗訴判決でした。
これに対して原告側は上告しましたので、本訴訟はこれから最高裁で判断されることになります。
最高裁で勝訴判決を得るためにも、これから東京高裁で行われる埼玉訴訟の第2審で逆転されないように、また、第1審より内容のよい判決が出るように進めていけたらと思います。

弁護士 鴨田 譲

(事務所ニュース・2023年夏号掲載)




【コラム】奨学金保証人訴訟(弁護士鴨田譲)

日本学生支援機構の奨学金は、借りる際に人的保証を選択した場合、連帯保証人と保証人の2人を付ける必要があります。
この場合、民法上、連帯保証人は奨学金全額の支払義務を負いますが、保証人は半額しか支払義務を負いません(「分別(ぶんべつ)の利益」と呼ばれます)。
しかし、機構はこれまでに保証人に対し半額でなく全額を支払わせていたことが分かり、2019年5月、札幌地裁と東京地裁で各2名の原告が払いすぎた奨学金の返還等を求める裁判を起こしました。
2021年5月には、札幌地裁で過払金元金の返還を認める判決が下され、2022年5月の札幌高裁では、機構を「悪意の受益者」と認定し、過払金元金に加え利息も付した返還を命じました。

これを受け、機構は上告を断念し、半額以上の支払をした本件原告以外の保証人に対しても利息を付けて過払金の返還をすることになりました。
その後の2022年10月、東京地裁では和解が成立しました。
この和解では、保証人への返金通知書には理解しやすい平易な説明を行うこと、機構がデータを消去した場合であっても丁寧な対応に努めること、今後機構は保証人に対して半額を超える額を請求しないことなどを機構が約束しています。

機構については、今回のような誤りが発生した原因を十分に調査してもらいたいですが、元を辿れば機構奨学金の保証制度自体に問題がありますので、人的保証は速やかに廃止し、将来的には機関保証も廃止する必要があると思います。

弁護士 鴨田 譲

(事務所ニュース・2023年新年号掲載)




【コラム】生活保護引下げ違憲訴訟(弁護士鴨田譲)

2013年に強行された生活保護費引下げの取消しを求める裁判が全国各地で行われ、埼玉でも2014年から訴訟を行っています。
訴訟を始めてから8年目の今年6月、生活保護利用者である原告本人の尋問が実施されました。
私が尋問を担当した80代女性の方は、法廷で次のようなお話をされていました。
「普通、キャベツの一番外の葉っぱは捨てる人が多いと思いますが、私はその葉っぱも捨てないで使います。」、
「先日餃子を作りましたが、具は肉なしでキャベツのみの餃子です。」、
「亡くなっている友人もおり、本当は葬儀に参列したいのですが、香典が出せないので葬儀の参列はしていません。その代わりに、四十九日にお悔やみのお手紙と線香1箱を送るようにしています。」、
「孫の結婚式に行きましたが、ご祝儀をあげられないのがとても辛かったです。結婚式には、喪服を着て、自分で作ったコサージュのような飾りを付けて出席しました。お金を払わず立派な料理を食べて引け目を感じました。」、
そして最後に、
「何も贅沢をしたいと言っているわけではありません。せめて引下げ前の生活扶助費に戻して欲しいと言っているだけなのでそこをお願いします。」
と結びました。
この原告の訴えに応えるように、5月25日には熊本地裁で、6月24日には東京地裁で立て続けに国の行った引下げを違法とする原告勝訴判決が下されました。
埼玉訴訟も原告の想いに応え、これらの判決に続けるよう前進していきたいと思います。

生活保護基準引下げ反対埼玉連絡会ホームページ

弁護士 鴨田 譲

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)




【コラム】 マイナンバーカード(弁護士鴨田 譲)

マイナンバーカード(法律上は「個人番号カード」といいます。以下、「カード」といいます。)は、2016年1月から交付が開始され、当初普及率は低かったものの、2021年7月には、普及率が34%に達し、国民の3人に1人がカードを持っている状態になりました。カードには、その表面に個人識別情報(顔写真、氏名、住所、生年月日、性別)が、裏面には12桁の数字のマイナンバー(個人番号)が記載されています。カードは、ICカードであり、読み取り機でカード内に記録された情報を確認できるので、本来であれば、カード上に個人情報を記載する必要はありません。

ところが、カードを公的身分証明書としてどこででも誰に対してでも使えるようにしたため、このような記載がされるようになりました。マイナンバーは、一人一人異なる原則生涯不変の個人情報ですが、カードを携帯することで提示の際や紛失拾得の際にマイナンバーや個人識別情報を他者に見られたり知られたりし、それが不正利用される危険性があります。
政府はカードの更なる普及策として、①カードへの健康保険証機能の取り込み、②最大5000円分のマイナポイントの付与などの施策を決定しました。しかし、①は768億円という多額の予算を投じて2023年3月までに全ての医療機関での導入を目指しているところを見ると、現在のカード型健康保険証を廃止して、マイナンバーカードに一本化することを目指していると考えられ、これは国民に対するカードの事実上の取得強制といえます。
また、②については、2478億円もの多額の予算が取られていますが、「行政事務の簡素化」という本来のマイナンバー制度の目的とは無関係の単なる交付枚数増加策といえます。

このように現在の政府のカード普及策は大きな問題がありますので早急に見直されるべきです。

弁護士 鴨田 譲




【コラム】選挙供託金違憲訴訟のご報告(弁護士鴨田 譲)

現在、我が国では、国政選挙に立候補する場合、衆議院・参議院いずれも選挙区で300万円、比例区で600万円という高額の供託金を納めなければならず、しかも、得票数が一定以下の場合には没収される制度になっています。埼玉県在住のA氏は、平成26年12月に行われた衆議院小選挙区選挙に立候補しようと思い、立候補に必要な各種書類を揃え、提出したものの、小選挙区の立候補に必要な300万円の供託金を用意することができなかったため、同選挙に立候補することができませんでした。そこで、選挙供託金違憲訴訟弁護団を結成して、私もこれに参加し、同制度を定めた公職選挙法の規定が立候補の自由を保障する憲法15条1項等に違反する憲法違反の規定であるとして、国を被告とし、平成28年5月に東京地方裁判所に提訴しました。

我が国の選挙供託金制度は、大正14年に男子普通選挙制が実施された時から始まります。この制度が導入された表向きの理由は、売名候補者又は泡沫候補者の立候補を防ぎ、選挙の混乱を少なくし、併せて選挙が誠実厳正に行われる点にあるとされていました。しかし、実際は、無産政党(無産者)の議会への進出を抑制することに真の目的がありました。

実は、供託金制度は世界的に見ると当然のものではありません。OECD加盟国35カ国(調査当時)中23カ国では供託金制度が存在せず、供託金が存在する残り12カ国でも、イギリス下院は約7万円、オーストラリア下院は約8万円であり、日本の300万円や600万円という金額は突出して高額なのです。

また、周知のとおり、我が国の貧困と格差の広がりは深刻で、このような現状を考えれば、選挙区300万円、比例区600万円という選挙供託金制度は、数千万人の国民から立候補の自由という重要な権利を奪う可能性のあるものといえます。

平成28年5月に提訴した本裁判ですが、約3年の裁判を経て東京地裁、東京高裁と続けて敗訴判決(供託金制度を合憲とする判決)が下されました。そこで、弁護団は最高裁に上告をしていましたが、昨年12月に上告棄却決定が下され本裁判は終了しました。裁判自体は終わってしまいましたが、この裁判を通じて供託金に限らず、我が国の選挙制度に様々な問題点があることが分かりましたので、引き続き選挙制度改善に関わっていけたらと思います。

弁護士 鴨田譲

(事務所ニュース・2021年夏号掲載)




事業者ファクタリング業者を提訴しました(弁護士 鴨田 譲)

ファクタリングとは、主に債権の売買のことをいい、例えば、A社が取引先のB社に対して1ヶ月後に返済される100万円の売掛金債権をいま80万円でC社に売買するという形で行われます。この場合、通常、A社がB社に対して、債権の売買をしたことを通知することになります。

ところが、最近問題となっている偽装ファクタリング業者は、「二社間ファクタリング」と称して、取引先B社に一切通知しないまま、C社がA社に80万円を交付し、1ヶ月後に、A社が自分でB社から100万円を回収し、この100万円をそのままC社に交付します。
この場合、B社は一切登場せず、単にA社とC社との間で金銭のやり取りが行われただけですので実質的には債権の売買ではなく、貸金(金銭消費貸借契約)となります。
貸金であれば貸金業法等の法律が適用され、年利109.5%を超える契約は無効になりますが、この例では年利計算で約304%になり無効ということになります。

昨年5月に給与債権を対象とした給与ファクタリング業者を提訴しましたが、その後9月には、中小企業や個人事業主を対象とした事業者ファクタリング業者を提訴しました。
違法金融の撲滅のために尽力していきたいと思います。

弁護士 鴨田 譲

 

(事務所ニュース・2021年新年号掲載)

 




防災グッズの準備(弁護士 鴨田 譲)

2018年大阪地震・北海道地震、2019年北九州豪雨、2020年7月豪雨など近年自然災害が昔に比べて多く発生している気がします。自然災害に遭わなければそれに越したことはありませんが、万が一の時に備えて私も少しずつ準備をしています。

いまのところ、保存水、多機能ラジオライト(ライト・ラジオ・携帯電話充電器を兼ねていて、手動での充電が可能なもの)、アルミブランケット、マスク、簡易トイレ、からだ拭きシート、ウェットティッシュ、レインコート、タオル、現金(小銭)、アイマスク、耳栓、綿棒、筆記用具、サランラップ、紙皿、紙コップ、スプーン、フォーク、トイレットペーパー、歯ブラシ、歯磨き粉、歯磨きシート、ウォーターバッグ、軍手、スリッパなどは準備しました(足りていない物があったら教えて下さい。)。
しかし不思議なもので準備をしていると、「この場面に遭遇したらあれが必要ではないか?」などと色々と想定してしまい、防災グッズの量は増え続ける一方です(そして、緊急時にこれらをすべて持ち運べるのかという疑問もあります)。

とはいえ、どんなに準備をしてもし過ぎることはないと言われていますので、今年中に完璧な防災グッズを準備したいと思っています。

弁護士 鴨田 譲

 

(事務所ニュース・2021新年号掲載)

 




「給与ファクタリング業者」に対する集団訴訟(弁護士 鴨田 譲)

「給与ファクタリング業者」とは,いわゆるブラックリストに登録されているなどの事情で消費者金融などから融資を受けることが困難になっている方をターゲットに,「ブラックでも即日融資に代わる資金調達が可能」,「給料債権の買い取りサービスを提供しているファクタリング会社」であることなどをインターネット上で宣伝し,貸金ではない「給料ファクタリング」であるとの説明のもと,利用者に約定金額から手数料を差し引いた金額を交付し,支払日に,交付金額に利益を上乗せした約定金額の支払いを受けて利益を得るという取引を繰り返している業者です。

例えば,1月25日に,利用者の10万円の給与を業者が8万円で割り引いて買い取るという形式で利用者に8万円を交付し,翌月の2月25日の給料日に,利用者が会社から給与の支払いを受けた中から,10万円を業者に引き渡す(支払う)というものです(この場合,年利285%になります。)。

しかし,これは,貸金業でないことを仮装し,貸金業法及び出資法等の法規制を免れて高金利を得るための脱法行為・暴利行為であり,その実質は,金銭消費貸借契約,つまり貸金となんら変わりはありません。このような給与ファクタリングによる被害は,急速に全国に広がっています。

そのため,5月13日,「七福神」という名称で給与ファクタリング業を行っている業者を被告として,9名の利用者(被害者)が原告となり,これまで支払った金銭について,元本を含めて全額を不当利得として請求する集団訴訟を東京地方裁判所に提起しました。
これまでに給与ファクタリング被害に遭われた方を救済し,今後の被害拡大を防ぐために尽力していきたいと思います。

弁護士 鴨田 譲

 

(事務所ニュース・2020夏号掲載)

 




「奨学金放っておいたらこうなった」(弁護士 鴨田 譲)

 

「日本学生支援機構から奨学金を借りて私立伊奈大学を卒業した山本学。卒業後、契約社員として働きながら返済を続けるも、とあることで返済が滞ってしまう。支援機構から裁判を起こされてしまった山本は…」

年に1度開催される全国クレサラ・生活再建問題被害者交流集会が昨年11月2日に18年ぶりに埼玉で開催されました。その中で、私は奨学金問題の分科会を担当することになり、法律家以外にもより多くの方に奨学金問題を知ってもらいたいということで埼玉奨学金ネットのメンバーや演劇経験者らとともに『奨学金放っておいたらこうなった』という30分の寸劇を行うことにしました。
私の役割は脚本と演者でした。脚本は意外と上手くいきましたが、問題は演者の方でした。何せ中学3年生の文化祭以来の劇の出演でしたので、最初は台本を音読するだけで恥ずかしかったのですが、経験者の方々の厳しい指導の下、徐々に自分の役に入り込んでいきました。
本番では、私も私以外の演者の方も練習ではなかった集中力と熱意により、それまでで一番良いパフォーマンスをすることができ、客席を笑いと感動の渦に巻き込むことができました。
今回演劇のもつ魅力に気付くことができましたので、今後は演劇活動も力を入れてやっていきたいと思いました。

弁護士 鴨田 譲

 

(事務所ニュース・2020新年号掲載)

 




選挙供託金違憲訴訟5・24判決(弁護士 鴨田 譲)

去る5月24日、東京地方裁判所にて3年間にわたり行ってきた選挙供託金違憲訴訟の第一審判決が言い渡されました。結論は、こちら側の主張を一切認めない請求棄却判決でした。

現在の選挙制度では、国会議員選挙に立候補する場合、1人につき、選挙区では300万円、比例区では600万円の供託金を納付しなければならず、一定の得票を得られないとこの供託金が没収されることになっています。この訴訟は、選挙区300万円の供託金制度について、憲法が保障する立候補の自由を侵害するもので、憲法違反であることを訴えたものでした。

今回の判決は、「現行の選挙供託金制度は選挙に立候補しようとする者に無視できない萎縮的効果をもたらすもの」であり「立候補の自由に対する事実上の制約になっている」と述べるものの、「選挙制度の仕組みの具体的決定については、原則として国会の裁量に委ねている」、「国会の裁量権に対して十分に配慮することが必要となる」と、国会の立法裁量を広範に認め、供託金制度は憲法違反ではないと結論付けました。この判決は、300万円という供託金額について高いのか、高くないのか、供託金に代えて推薦署名という方法が適当かどうかといった実質的な判断を一切避けた不当判決と言わざるを得ません。この判決に対し、弁護団は先日控訴をしましたので、控訴審では逆転できるよう努力していきたいと思います。

弁護士 鴨田 譲

 

(事務所ニュース・2019年夏号掲載)