【コラム】事務所ニュース 2023年夏号 巻頭挨拶(弁護士伊須慎一郎)

警視庁や厚生労働省によると、2022年の自殺者のうち、奨学金の返済を苦にして自殺したと考えられる人が10人いたということです。学ぶことが、これほど難しくなっている国に未来はあるのでしょうか。
事務所の鴨田譲弁護士が、貸与型奨学金の返済に苦しんでいる方の問題に取り組んでいますが、鴨田弁護士は、誰もが、経済的な事情で学ぶ機会を奪われないように、学費の無償化ないし大幅な減額や給付型奨学金制度の拡充が必要だと述べています。

一方で、教員も大変です。夢と希望を持って公立学校の正規教員に採用されたのに、長時間の時間外労働などが原因で、1年以内に離職する教員が増えているようです。公立学校の場合、教員給与特別措置法という悪法があり、教員はサービス残業を押し付けられています。
私立学校の中にも、公立学校を真似てか、教員の部活動の指導などにつき、法律上残業代を払わなければならないのに、微々たる手当の支給のみで、サービス残業を押し付けるケースも見られます。
この私立学校のサービス残業の問題は、これから鈴木満弁護士深谷直史弁護士が取り組むことになっています。

私は、まだ労働者がそれなりに大事にされた時代に、学生アルバイトをしながら、両親の保護のもと、思う存分に学ぶ機会を与えられました。今になって、本当に恵まれていたのだと実感しています。

学びの場には、その他にも、非正規の大学教員の不安定雇用の問題など、課題・問題が山積していますが、少しでも自由な学びの場を取り戻せるように、法的問題の根底にある制度改善にも取り組んでいければと考えています。

弁護士 伊須 慎一郎




【コラム】手の届かない星をつかむ(弁護士伊須慎一郎)

無趣味人間なのですが、妻と劇団公演を観に行くことが好きです。今年は、こまつ座の「貧乏物語」、「紙屋町さくらホテル」、「頭痛 肩こり 樋口一葉」、「イヌの仇討」、「吾輩は漱石である」を観劇しました。
どれも甲乙付け難いのですが、男闘呼組の高橋和也さんが広島に投下された原爆により壊滅した移動演劇桜隊(さくら隊)の隊長を務めた俳優丸山定夫さんを生き生きと演じた「紙屋町さくらホテル」は素晴らしかった。腹の底から笑ったのは久しぶりだったのではないでしょうか。
高橋さんは「(戦争中)演劇にのめりこむことで救われる部分もあるだろうし、現実と対決しているように見える。そういう形でしか自分達の生を全うできなかったのではないか。」、演出の鵜山仁さんは「戦争責任を、また表現の自由について考えることを、舞台の上でつきつめなければならない。打ち勝てない敵と戦う、手の届かない星をつかむ、我々はそういう「見果てぬ夢」を忘れてしまっているのではないか」と述べられています。
ふと、小島誠一自由法曹団元団長が「使命、自分の人生、全人格をかけた使命というものに価値を見いだせたときに、初めてその人生は輝くのではないかと思う。」と述べられていたことを思い出しました。
私には手の届かない星をつかむことはできないかもしれませんが、つかもうとする気持ちを持ち続けたいと考えています。

弁護士 伊須 慎一郎

(事務所ニュース・2023年新年号掲載)




【コラム】事務所ニュース 2023年新年号 巻頭挨拶(弁護士 伊須慎一郎)

軍事優先国家とセットの格差を拡大する増税

日本政府にとっては、もはや憲法9条はないに等しいようです。政府は、年末にも専守防衛の防衛政策を捨て、敵基地攻撃能力の保有を確認するようです。国を守るという大義名分が独り歩きし始めました。みなさんの中には、国、自衛隊が、国民を守ってくれて安心だとお考えになるかもしれません。歴史学者の加藤陽子先生は、戦前の軍部があれだけの力を持てたのは、国の安全と国民の生命を守ることを大義名分とした組織であったからで、最終的には、大義の名のもとに国民存亡の機に陥れる事態に至ったと指摘しています。今こそ、加藤先生の言葉を噛みしめるときだと思います。

また、政府・自民党は、防衛予算を現在の5兆4000億円規模から倍増し、2027年までに11兆円程度としたいようです。しかし、労働者の賃金は上がらず、それなのに物価は上昇して逆進性の高い消費税は減税されることなく生活困窮者が増えるばかりです。一方で、大企業は内部留保金484兆円を貯め(2008年は230兆円)、富裕層の申告漏れは平成21年以降最高額にのぼっており不公平税制が改善されようとはしません。このような中、国防予算の財源は、軍拡のための掟破りの国債発行や、逆進性の高い消費税増税が考えられます。消費税を1%上げると2.6兆円徴収できるので、消費税を2%上げると目標の11兆円に届きます。軍拡に伴う増税の議論を注視したいと思います。

弁護士 伊須 慎一郎

(事務所ニュース・2023年新年号掲載)




【コラム】事務所ニュース 2022年夏号 巻頭挨拶(弁護士伊須慎一郎)

ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本国内でも憲法9条改正論が活発化し、世論調査でも防衛力強化に6割以上賛成という結果が出ています。日本が軍事優先の「普通」の国に変わるかどうかの瀬戸際です。参議院選挙の結果次第では、「普通」の国に変わることを、もう止められなくなるかもしれません。

ウクライナの状況を見れば、戦争はひとたび始まると、容易には止められません。太平洋戦争は、最後は、米国との沖縄戦、そして、米国による広島・長崎への原爆投下による市民の大量虐殺により、ようやく終了しました。

現在の日本が日米同盟を強化し、南シナ海、インド洋でも米軍と軍事訓練を行い、敵基地攻撃能力の保有や核兵器の共有の議論を始め、防衛関係費の倍増(11兆円)を数年内に実現するとなると、中ソの軍事同盟も同様に強化されますし、核不拡散条約のもと、北朝鮮に核兵器を廃棄することを求めることもできなくなり、北東アジアはより不安定になるのでしょう。

戦争の文化(上下)」の著者ジョン・W・ダワーは、人類が、いつの日か、戦争の文化(暴力による平和)を乗り越える力を持つことができるか。建設的な変革としっかりと根を張った本当の「平和の文化」は、もし到来するとしても、ごくゆっくりとであろう。だが、その歩みの中にこそ、希望があると締めくくっています。

日露戦争開戦時に、ロシアの文豪トルストイは、英紙に反戦論を寄稿しました。

「戦争が始まった。陸で海で野獣のように殺し合う。安全な場所にいる者が他人をそそのかして戦わせる」

私たちは、憲法9条のもとで、殺しもしないし、殺されもしない「平和の文化」を築く歩みの真っただ中にいます。今こそ、私たちは、不安を煽る政治家におどらされることなく、私たちと同じ立場にある諸国民の公正と信義を信頼して「平和の文化」へと歩むべきではないでしょうか。

弁護士 伊須 慎一郎

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)




【コラム】亡き松本一郎先生の墓前で(弁護士 伊須慎一郎)

 砂川事件・伊達判決の東京地裁合議体の左陪席は松本一郎先生。松本先生は伊達秋雄裁判長と議論を尽くし、日本政府がアメリカ軍の駐留を許容したのは、指揮権の有無、出動義務の有無に関わらず、日本国憲法第9条2項前段によって禁止される戦力の保持にあたり、違憲であると無罪判決を出しました。1959年3月の判決言渡当時、伊達裁判長は50歳、松本先生は任官3年目でした。

 エリート裁判官であったお二人が、違憲判決を出すことによって予想される現実的苦難を乗り越え、憲法9条を実直なまでに遵守できたのはなぜか。

松本先生は私の妻の恩師であり、私の大学の先輩でもあります。結婚式にもご出席していただきましたが、結局、松本先生に当時のお話しをうかがうことができないまま、お別れすることになりました。

 時は流れて、2015年9月に、法律上自衛隊による集団的自衛権の行使が容認され、自衛隊は米軍の傘下に更に組み込まれ、現在では、自衛隊は、東シナ海からさらに遠方に進出し、南シナ海で米軍と合同訓練を行うまでに至りました。政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きないようにすることを決意した日本国憲法の平和主義の趣旨は蹂躙され続けています。

伊達裁判長と松本先生は、裁判官としての使命、自身の人生、全人格をかけて国民の命を守ろうとしました。51歳となった私は、微力ではありますが、昨年末、松本先生の墓前で安保違憲国賠請求訴訟のたたかいに力を尽くしたいとご報告しました。今年が裁判の正念場です。

弁護士 伊須 慎一郎




事務所ニュース 2022年新年号 巻頭挨拶(弁護士 伊須 慎一郎)

国内でのワクチン接種なども進み、国内のコロナウィルスの感染者は激減しましたが、ここにきて新たに感染力が強いと言われているオミクロン株の感染拡大が懸念されています。事務所のある浦和の商店街も活気を取り戻しつつある状況でしたが、年末・年始にかけて予断を許さない状況です。

これまでに人や物の動きが大幅に制限される中で、物流関係などを中心に仕事が大幅に減少してしまい、雇用形態でないことフリーランスやシフト勤務の労働者に大きなしわ寄せがあり(休業手当が受けられない等)、アルバイトができないことで生活困窮する大学生、多くの教員が一斉休校により教育格差が拡がっていると指摘する等、国民の様々な生活面で危機的状況が報告されています。

そのため、日本の借金は膨らみ続けていますが、今や、命や生活を奪われようとしている勤労者・生活者・子供たちの生活を守るために、優先順位を定め、無駄遣いを止め、公正な予算執行が行われることが強く求められています。

ところが、2021年度の防衛予算は補正予算を含め、初めて6兆円を突破することになりました(7年で1兆円の増加)。自由民主党はGDP比2%以上の防衛費倍増を検討しています。そうすると、社会保障などを中心に、国民の「現実の暮らし」を守るための予算が今後も切り下げられることが見込まれます。維新の会も加わった自民党改憲勢力が念願の憲法改正を実現すれば、防衛費は憲法9条の制限なしに増加する一方です。今年1年も改憲動向を注視し、行動しながら、安心・安全に事務所運営を継続していきたいと考えています。

                       代表 弁護士 伊須慎一郎




事務所ニュース 2021年夏号 巻頭挨拶(弁護士 伊須 慎一郎)

国内でもワクチン接種が進み出しましたが、新型コロナウイルス感染症が収束する見込みは、まだ見えません。浦和の商店街も午後8時を過ぎると真っ暗で、様々な職業で働かれているみなさん、ご商売をされているみなさん、大変ご苦労されていると思います。

そのような状況のなか、新型コロナウイルスの変異型の感染拡大のリスク等を理由に国内外で反対意見がありますが、菅首相は、国民の命や健康を守り、安全安心の大会を実現することは可能だとして、東京オリンピック・パラリンピック開催を強行しようとしています。安倍首相は、2013年9月、IOCの総会で、福島原発事故につき「コントロールされている」と発言しましたが、現実に目を向けると、福島原発から生じた汚染処理水の海洋放出の問題や、さいたま地方裁判所でも福島原発の事故後、埼玉県内に避難された方の裁判は継続中で、未だ解決していません。変異型ウイルスの感染拡大のリスクが高まっているのに、本当に国民の命や健康を守ることができるのでしょうか。

埼玉総合法律事務所では、昨年来、時短営業やウイルス感染の予防措置を取りながら、少しでもみなさんのお役に立ちたいと業務を続けています。その中で、猪股正弁護士が中心となり、様々な分野の専門家と連携して、新型コロナウイルス感染症拡大により、仕事を失った方、住居を失った方、家庭内で暴力を受けている方などの相談を定期的に行っています。菅首相にも、オリンピックを開催した首相として歴史に名を残すという身勝手な理由ではなく、国籍を問わず、今まさに苦しんでいる勤労者・生活者の暮らしに目を向けた政治を行ってほしいものです。

弁護士 伊須慎一郎

(事務所ニュース・2021年夏号掲載)




今度生まれ変わったら(弁護士 伊須 慎一郎)

 

11月に小学校で6年生(3クラス)に憲法の授業を担当させてもらいました。
何年か前にも小学6年生に向けて体育館で憲法の授業を担当させてもらいましたが、担任の先生からは私の授業の内容が難しかったと厳しい意見をいただきました。
そのため、今回は、用意周到?に準備しました。文部省の「あたらしい憲法のはなし」も使いました。
戦車や戦闘機やミサイルを捨てた「戦争放棄」の壺の中から、みなさんだったら、かわりに何を作り出したいですかとたずねると「物」ではなく、病院で頑張って働いている人のため、食べ物に困っている人のために税金を使いたいと答えてくれました。私が6年生のときには、税金を何に使うかなど、考えたこともありませんでしたが、みんなよく考えているなあと感心しました。元気に手も挙げてくれるので、授業の進行に困ることもなく、45分の授業があっという間に終わってしまいました。
普段慣れないことなので、3クラスの授業だけでも、疲れてしまい、現場の先生は大変だなあと、頭の下がる思いです。
非常に楽しい時間を過ごさせていただいた小学校の先生方と6年生に感謝したいです。
今度生まれ変わったら教師もいいかもと、ちょっと考えてしまいました。

弁護士 伊須 慎一郎

 

(事務所ニュース・2021新年号掲載)

 




心を入れ替えて(弁護士 伊須 慎一郎)

事務所ニュースの原稿をこれまで34回書いてきました。その中で、事務所ニュースを読まれた方から、最近のあなたの書く内容が硬くておもしろみがないと、厳しいご指摘を受けました。昔は良かったのかと言うと、そうでもなく、どうも私の書く文章には、読んでいただく方に共感していただくものが足りないということなのです。

そういえば、10年ほど前の労働事件で、私が担当した会社側の敵性証人の反対尋問を傍聴していた方からも、あなたの尋問は意地悪な質問をしているだけで、人として証人に向き合っていないという厳しいご指摘を受けたことがありました。その時、私の尊敬する大先輩も会社証人の反対尋問を担当していたのですが、その大先輩は証人に人として向き合っていたと比べられました。私よりも人間としても弁護士としても経験豊富な大先輩と比較されても・・・と思ったのですが、大事な依頼者の人生がかかっているのですから、そんなことは言ってられません。

あれから10年経ち、経験はそれなりに重ねましたが、事務所ニュースを読んでいただいている方からは、人間として、まだまだ深まっていないとうつっているようです。今年私は50歳になります。心を入れ替えて、人間力を深めていきたいと思います。
今年も1年よろしくお願いします。
夏の事務所ニュースを楽しみにしていてください。

 

弁護士 伊須 慎一郎

 

(事務所ニュース・2020年新年号掲載)

 




シビリアンコントロール機能せず(弁護士 伊須 慎一郎)

2019年4月に退任した河野克俊統合幕僚長(自衛隊制服組トップ)は、2014年12月に米軍高官と会談し、歴代の内閣法制局長官、最高裁長官・判事、多くの憲法学者が憲法9条に明確に違反すると指摘した集団的自衛権の行使を容認した平和安全法制整備法案が、未だ国会にすら提出(提出は2015年5月)されていない時点で、米軍高官に来年(2015年)の夏までには法案が成立する見込みだと説明しました。
このことがシビリアンコントロール(文民統制)等の点から問題になりました。
憲法66条2項は総理大臣・国務大臣が文民であることを定め、その目的は軍隊を文民のコントロール下に置き、軍隊が政治に介入することを防止することにあります。戦前、陸軍大臣・海軍大臣が現役武官(軍事に携わる役人)でなければならないとされ、軍隊が政治に介入する結果を踏まえると、政治部門と軍隊を分離することは、私たちの生活を守るためにも不可欠なことです。

ところが、河野統幕長は、米軍幹部に「与党の勝利により来年夏までには(法案の成立が)終了するものと考えている。」、「我々も集団的自衛権行使に関する閣議決定がなされたことから、改訂されたガイドラインには期待している。」と、自衛隊に憲法違反の任務が付与されることを期待していると述べました。
憲法尊重義務を負う安倍首相は、実力組織である自衛隊のトップである河野統幕長をコントロールしなければならない立場にありますが、蜜月関係にあった河野統幕長と一緒にアメリカの要望に沿って憲法違反の法律を作るために暴走したものとえいます。
そればかりか、河野統幕長は「オスプレイに関しての不安全性を煽るのは一部の活動家だけである」と発言しています。オスプレイ配備への反対・不安の声は、沖縄県民だけではなく、東村山市議会、佐賀県民(2017年11月世論調査で反対37.6%)、岩国市民、木更津市民等が反対や不安の声をあげていますので「活動家」との指摘は事実に反します。河野統幕長の敵視発言は、安倍首相によるシビリアンコントロールが全く効いていないということだけでなく、自衛隊のトップが反民主的な考えをもっていることを露呈するもので、非常におそろしいことです。

安倍首相は、自衛隊が違憲だと言われるのは自衛隊員が可愛そうだ等という理由で自衛隊を憲法に明記する憲法改正を目論んでいます。自衛隊が憲法に明記されれば、軍備増強の予算がさらに増大するだけでなく、自治体から防衛省・自衛隊に市民情報を提供することも拒めなくなり、賭命義務を負った自衛官が危険な任務に堂々と派遣され、家族との生活を奪われるかもしれません。自衛隊を憲法に明記することが、私たちや自衛官家族の生活をどのように変えてしまうのか、私たちは、しっかりと考えて、この夏の参議院選挙にのぞむことが大事だと考えます。

弁護士 伊須 慎一郎

 

(事務所ニュース・2019年夏号掲載)