朝日新聞2011年7月4日夕刊掲載「働く人の法律相談」/-受講生からの評判を理由に解雇(弁護士 佐渡島 啓)

弁護士 佐渡島 啓

教え方研修など手を尽くすことが必要

 進学塾で正社員の講師として働いていたが、受講生に尋ねたアンケートで評価が低かったという理由で解雇された―。 塾に限らず、美容院やエステ、カルチャー教室など、講師や施術師の評判が集客のカギを握る業界で、そんな事例が増えているようです。

 講師らはお客と接する、いわば会社の顔。アンケートを頼りに、評判のいい人だけをそろえ、集客増につなげたい。会社側はそんな思惑なのでしょうが、アンケート結果だけで講師を評価するのであれば、そのつど最下位の人が解雇の対象者になってしまいます。

 解雇について、労働契約法16条では「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上も相当であると認められない場合、無効である」と定められています。

 まず問われるのはアンケートの内容です。進学塾であれば、単なる講師の人気投票にとどまらず、「教え方」「板書の巧拙」「熱意」など、講師の本質的な力 量を問う内容でなければ、客観的な判断基準とは認められません。ただ、内容が適正だからといって、その結果だけをもって解雇するのは許されません。

 進学塾側に解雇を認めた最近の判例では、裁判所は講師のアンケートの評価が継続して低位にとどまっていたことに加え、塾側としても

・教え方の向上を図る研修を別途、施していた
・担当する教室を変更するなど負担を減らす措置も講じていた、などの点を重視。

 その上で、進学塾という事業の性格上、講師の評判も経営を左右する大きな要因であるとの塾側の主張を認め、解雇権の乱用には当たらないと結論づけました。

 判例が示すように、アンケートはあくまで評価の材料の一つとすべきです。仮に評価が低かったとしても、その人が技量を発揮できるような措置をなんら取ることなく解雇を決めてしまうのは、あまりに無責任と言わざるを得ません。

 手を尽くした上でも改善や反省が見られず、その人を雇い続けた場合、経営に重大な支障や損害が生じかねないという場合にのみ、解雇もやむを得ないと判断されるべきでしょう。