【コラム】手の届かない星をつかむ(弁護士伊須慎一郎)

無趣味人間なのですが、妻と劇団公演を観に行くことが好きです。今年は、こまつ座の「貧乏物語」、「紙屋町さくらホテル」、「頭痛 肩こり 樋口一葉」、「イヌの仇討」、「吾輩は漱石である」を観劇しました。
どれも甲乙付け難いのですが、男闘呼組の高橋和也さんが広島に投下された原爆により壊滅した移動演劇桜隊(さくら隊)の隊長を務めた俳優丸山定夫さんを生き生きと演じた「紙屋町さくらホテル」は素晴らしかった。腹の底から笑ったのは久しぶりだったのではないでしょうか。
高橋さんは「(戦争中)演劇にのめりこむことで救われる部分もあるだろうし、現実と対決しているように見える。そういう形でしか自分達の生を全うできなかったのではないか。」、演出の鵜山仁さんは「戦争責任を、また表現の自由について考えることを、舞台の上でつきつめなければならない。打ち勝てない敵と戦う、手の届かない星をつかむ、我々はそういう「見果てぬ夢」を忘れてしまっているのではないか」と述べられています。
ふと、小島誠一自由法曹団元団長が「使命、自分の人生、全人格をかけた使命というものに価値を見いだせたときに、初めてその人生は輝くのではないかと思う。」と述べられていたことを思い出しました。
私には手の届かない星をつかむことはできないかもしれませんが、つかもうとする気持ちを持ち続けたいと考えています。

弁護士 伊須 慎一郎

(事務所ニュース・2023年新年号掲載)