【コラム】事務所ニュース 2022年夏号 巻頭挨拶(弁護士伊須慎一郎)

ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本国内でも憲法9条改正論が活発化し、世論調査でも防衛力強化に6割以上賛成という結果が出ています。日本が軍事優先の「普通」の国に変わるかどうかの瀬戸際です。参議院選挙の結果次第では、「普通」の国に変わることを、もう止められなくなるかもしれません。

ウクライナの状況を見れば、戦争はひとたび始まると、容易には止められません。太平洋戦争は、最後は、米国との沖縄戦、そして、米国による広島・長崎への原爆投下による市民の大量虐殺により、ようやく終了しました。

現在の日本が日米同盟を強化し、南シナ海、インド洋でも米軍と軍事訓練を行い、敵基地攻撃能力の保有や核兵器の共有の議論を始め、防衛関係費の倍増(11兆円)を数年内に実現するとなると、中ソの軍事同盟も同様に強化されますし、核不拡散条約のもと、北朝鮮に核兵器を廃棄することを求めることもできなくなり、北東アジアはより不安定になるのでしょう。

戦争の文化(上下)」の著者ジョン・W・ダワーは、人類が、いつの日か、戦争の文化(暴力による平和)を乗り越える力を持つことができるか。建設的な変革としっかりと根を張った本当の「平和の文化」は、もし到来するとしても、ごくゆっくりとであろう。だが、その歩みの中にこそ、希望があると締めくくっています。

日露戦争開戦時に、ロシアの文豪トルストイは、英紙に反戦論を寄稿しました。

「戦争が始まった。陸で海で野獣のように殺し合う。安全な場所にいる者が他人をそそのかして戦わせる」

私たちは、憲法9条のもとで、殺しもしないし、殺されもしない「平和の文化」を築く歩みの真っただ中にいます。今こそ、私たちは、不安を煽る政治家におどらされることなく、私たちと同じ立場にある諸国民の公正と信義を信頼して「平和の文化」へと歩むべきではないでしょうか。

弁護士 伊須 慎一郎

(事務所ニュース・2022年夏号掲載)