【今週の埼玉総合】この国のかたちを見つめ直す (弁護士 伊須慎一郎)

加藤陽子教授(東京大学文学部)著書を読み、さすが日本の近現代史を専攻された専門家だとうなりました。

「9条の意義、見つめ直す時」の中で、加藤先生は、最近の日本が平和憲法を守ってこられたのは、
在日米軍の存在があり、米国の核の傘のおかげであり、9条の存在ではないという論調に対し、こう述べています。

「ただ、9条には、国内的な存在意義があることを忘れるべきではありません。9条の存在によって、戦後日本の国家と社会は、戦前のような軍部という組織を抱え込まずに来ました。
戦前の軍部がなぜあれだけの力を持てたかと言えば、国の安全と国民の生命を守ることを大義名分とした組織だったからです。実際には、大義の名のもとに、国家が国民を存亡の危機に陥れる事態にまで立ち至りました。軍部は、情報の統制、金融・資源データの秘匿、国民の監視など、安全の名を借りて行ったのです。
このような組織の出現を許さない、と痛切な反省の上に、現在の9条があるのだと思います。」

憲法学者の青井美帆教授(学習院大学)は、憲法9条は、国民の自由を守る防火壁であると説明されていますが、同じ意味であると考えます。

ところで、陸上自衛隊が、2020年、記者向けの勉強会で配布した資料で「予想される新たな戦い」の対象に「反戦デモ」を挙げていたことが報道されました。

また、陸上自衛隊が、2020年11月4日、米軍基地反対の抗議活動をする市民の排除を想定した訓練を米海軍と共同で実施しています。

憲法9条への攻撃が強くなっていますが、またぞろ、戦前の思想弾圧と検閲の嵐が現代社会にも復活するのでしょうか。

加藤先生の指摘する憲法9条の国内的意義、青井先生の憲法9条は自由を守る防火壁の役割を果たしているという意義を、よくよく噛み締める必要があるのではないでしょうか。

弁護士 伊須 慎一郎